私の書棚

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第16回 完訳 三国志
著者 羅貫中
訳者 小川環樹・金田純一郎
発行 岩波書店


 三国志という表記については結構混乱がある。正史としては「三国志」、通俗ものとして「三国志演義」と呼び分けているのだが、これも統一されているわけではない。陳寿の著作である正史「三国志」を元に、数々の翻案ものがあるのだが、表題としてはほとんど混同して流布されている。本書も、正しくは『三国志演義』の翻訳であり、正史ではないのであるが、こういうタイトルで発売されている。
 ちなみに、三国志の成立は西暦3世紀末であり、三国志演義は16世紀である。また正史「三国志」には、邪馬台国についての記述された「魏志倭人伝」も入っている。

 本書は、やや硬い文体ではあるが、私個人としては漢文調の香りを残しているので、読んでいてとても快適である。その他の演義ははっきり言ってどれも読み進めることが出来ないくらい、何かしら違和感がある。これは私の言語感覚の問題なので、普遍とは言い難いだろう。次に違和感が少なかったのは、宮城谷昌光の『三国志』である。ただし、少し毛色の違う三国志小説だと思う。一般に劉備を中心に描く三国志演義と違って、曹操を中心にしている。最終的に勝ち残ったのだから、その人を主人公とすることは間違いではないが、劉備をあまりにも貶める書き方には違和感を感じた。否、違和感どころか腹が立って来るのであった。吉川英治が演義を元に著した小説『三国志』もあるが、漢文の語感が乏しく私には読み進められないものであった。ストーリーは既知なので、文体というか文の調子が気になるのでした。

 この書籍を知らない人はいないであろう。ただし、全文を読んだ人はどれくらいいるのだろう。とにかく、長いのである。しかし全編に渡る登場人物の性格や所業、リーダーと軍師の忠誠心、戦略戦術の多彩な有り様等々読み始めると飽きない。
 このコロナ禍の中、ステイホームに最適な書籍であることは間違いない。

Before noon July 22 , 2021 綴


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