私の書棚記憶に残る書籍について思うことを書き連ねます
第15回 解錠師 The Lock Artist
著者 スティーヴ・ハミルトン(Steve Hamilton)
訳者 越前敏弥
発行 早川書房
特に興味があるとか、宣伝文句に興味が湧いたとかではない。単に越前敏弥さんの訳だというだけの理由で読んでみました。しかし、それは私にとって翻訳物を読むときの大きな指標となるものなのです。
主人公は失語症の少年。特異な解錠という能力。当然のことだが犯罪者を扱ったストーリーだが、作者はそのストーリーの中に純文学性を持ち込もうとしている、と思った。残念ながら、その純文学性の部分は退屈で、犯罪小説の部分はおもしろかった。高機能自閉症の人に時として現れる超人的な能力を素材にして、人間性を探ることも狙ったのだろうが、完全な失敗と言えよう。失語に至った心因の部分の知識が不足していたことも要因だろう。越前氏が訳出したダン・ブラウンのような取材背景をもって臨まなければならないところをあまりにも軽く扱ったのでは、台無しだ。
単に解錠というセンスを突き詰める方がエンターテインメントとしてはおもしろかった。解錠の部分も取材が浅く、描写は平板だった。金庫の構造やシステムの種類について、もっともっと「嘘」でいいから、ページを割いてもらいたかった。
一般人が知っても応用することはないのだから。
読み終えて、徒労感ばかりが残った小説でした。
Night Jan 29 , 2015 綴
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