私の書棚記憶に残る書籍について思うことを書き連ねます
第12回 蘊蓄エンタテインメント
著者 ダン・ブラウン(Dan Brown) 訳 越前敏弥
角川書店
Kindle 版
これぞ、衒学の粋。エンタテインメント小説はこうでなければならない。どうせフィクションなのだから、なまじ真実に囚われてスケールが小振りになるくらいなら、これくらいの八方破れにした方が読んでいて痛快だ。しかし、どこまでが真実でどこからが虚構なのかもう少しわかりやすくして欲しいものだ。雑学居士の筆者としては、少なくとも嘘はつきたくない。バチカンの書庫の酸素濃度とか、米国連邦議会議事堂の地下室にまつわる説明などは、いかにも真実っぽいが本当なのかどうかは分からない。これは「知ったかぶり」の範疇に入るのか、「雑学」として引用できるのか、判然としない。この本を読んでいる間、そんなことを考えてしまうのは、大衆小説の正しい読み方ではないと分かってはいても、気になってしまうのだ。
この作者のストーリーテリングは万事がこの手法で進んでいくのだ。書くに当たって取材をしたであろうが、とても十分とは言えない。しかし本人の取材や専門知識の不足を補って余りあるこの語り口は、近来見かけない作風だろう。具体的に指摘するとネタバレとなってしまうので、殊更論うことはしないが、衒学が過ぎることもある。その辺のバランスを取るためには、相当なエンタテインメントの感覚が必要なのだろう。
誤解をして欲しくないのだが、決してこの作者と作物を貶めているわけではない。存分に楽しめたがために、気になることが出てきたということなのである。駄作を読んだ後は、このようなことを考えるまでもなく次の読み物に進んでいる。
それから、訳者の越前敏弥氏にも賛辞を送りたい。この奇天烈な蘊蓄を訳出するには相当苦労されたのではないかと推察されるからである。訳文に破綻は無論のこと、違和感を覚えることもなかった。素晴らしい文章力に感服しました。訳者を見てまた読みたいと思わせられたのは、初めての経験です。ドルリー・レーンのシリーズも訳されているようなので、中高生の頃に読んで以来だが、もう一度エラリー・クイーンも読みたくなってきました。
1998年 Digital Fortress 邦題 パズル・パレス
2000年 Angels & Demons 邦題 天使と悪魔
2001年 Deception Point 邦題 デセプション・ポイント
2003年 The Da Vinci Code 邦題 ダ・ヴィンチ・コード
2009年 The Lost Symbol 邦題 ロスト・シンボル
2013年 Inferno 邦題 インフェルノ
2017年 Origin 邦題 オリジン
上記のいづれも訳者は越前敏弥氏
Night April 2 , 2014 綴
Evening July 23 , 2021 補遺
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