マリッジリング

 

 

 

洗濯物を干す手を止めて、眩しく輝く太陽に手をかざす。

きらり。

左手の指定席で指輪は、光を受けて今日も輝く。

まだその感覚に慣れなくて、そこだけ別人のよう。

ぎこちないけれど、違和感すら愛おしくて。

 

今日は快晴。ちょうどあの日と同じ空の色。

 

 

 

バージンロードの向こうで彼が待っている。

一歩ずつ、進む度に縮まる距離。

出会った時から、この日が来ることを夢みてた。

ずっとずっと、憧れていた。この真っ白な道を歩くこと。

まだどこか信じられずにいる自分がいる。

 

ふと気付く。

お父さんの横顔がちょっと緊張してる。

組んでいる腕からも、じわり、伝わってくる。

 

ずっとこうやって歩いていたい。

そんな気持ちも生まれてくる。

でも確実にその時はやってくる。

この足を踏み出せば、一緒に歩く時間は終わる…。

 

腕をほどく時がきた。

あたたかくて、いつだって優しくて。

そして今日は、どこか哀しげなお父さんの笑顔。

胸が締めつけられる。

 

でもね。

 

『わたしはこれからも、ずっとお父さんの娘なんだよ』

気持ちを込めて、ゆっくり離れた瞬間、

『わかっているよ』

そんな声が聞こえたような気がした。

 

彼の隣に立つ。

ヒールの分だけ5cm、

いつもより、彼の笑顔に近い。

それだけで、

不思議と心を落ち着かせてくれる。

 

なのに、涙が出てくるのは何故?

 

向かい合い、顔をあげる。

優しく微笑む彼の瞳。

無言のままかわされる、二人だけの会話。

わたしは静かに目を閉じた。

 

神聖で、特別で。

短くて長い、誓いの儀式。

触れたところから彼の温度が伝わってきて、初めての時のように微かに唇が震える。

 

目を開けたら、やっぱり少し照れた彼の顔。

 

教会の外では花道を作ってみんなが待っている。

大切な家族と、大好きな友人たちからの歓声と祝福。

降り注ぐ、小さな花びらのようなライスシャワー。

その一つ一つはまるで、煌めく白光の粒子。

 

辛くて苦い思い出も、時の流れとともに形をかえる。

流した悲しい涙の分だけ、こんなに喜びを与えてもらった。

幸せだから、涙がまたこぼれる。

 

今日からはもう、「真壁くん」って呼べないね。

 

 

 

青空の下で真っ白な洗濯物が風に泳ぐ。

いつかこの指輪が、あたりまえの顔をして薬指になじんでも、この日のことは永遠に忘れない。

 


 

ハッピーウェディング企画でyokoponさんにプレゼント。

本編では二人が脇役にまわってしまった為、結婚式の描写も少なかったですね。

一部ファンとしては物足りなさを感じております。

ま、お陰さまで「隙間」を妄想させて頂いてますけどね(笑)

 

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