見上げた空は突き抜けるように高く、日差しは包み込むように柔らかく温かく。

ここが校舎の屋上だなんてことを忘れてしまいそうだ。ついでにこの後授業があることも。

目を閉じるだけで水の底へゆっくり沈んでいくみたいに、意識が眠りへと引き込まれていく。

 

「……くん、真壁くん」

 

誰かがおれの名前を呼ぶ。でも聞き慣れたあいつの声じゃない。

頭の半分はまだ眠っていて、残りの半分でそんなことを考え巡らせていた。だけどまだ瞼は重くて開かない。

 

「真壁くんってば」

 

耳に優しく馴染んだあの声ではなくとも、声の主は知っていた。

「なんだよ、小塚」

「なんだよはないでしょう。あれ、蘭世は?」

「あいつは神谷と一緒に生徒会室…で、何の用だよ」

 

どういう訳だか満足そうににんまり笑っている小塚に気づき、おれは軽く睨んだ。それでも小塚は怯む様子もない。

 

「これを届けにきたの」

はい、と手渡された封筒と小塚を見比べる。

おまえ絶対何か企んでいるだろう、と思わせるような笑顔を残し、小塚は立ち去った。

おれの手に残されたのは1通の封筒だ。訝し気に開いていると、頭上からまた声がした。

 

「まーかーべーくんっ、何読んでるの?ラブレター!?」

 

言うが早いか、日野はおれの手から手紙を奪う。

 

「さっきの上級生だよな。俊くんったら年上にももてるんだから。江藤に言いつけちゃおうっかな〜」

「…ラブレターじゃなくて同窓会の案内だよ。それからあれは元同級生だ」

「なんだ、つまんねーの」

 

ぶう、と頬を膨らせて日野はおれの隣に座った。どうやら今日は昼寝する時間はないらしい。

 

「行くの?」

「何が」

「何がって…同窓会に決まってるでしょ」

「興味ねえよ」

日野にかまってるよりは少しでも眠っておいた方がいいと判断したおれは、構わず横になる。

 

「あれぇいいのかな?」

「……」

何がだよと思いつつも、日野に背中を向けて貴重な睡眠時間をとるべく、思考を閉じようとした。

 

「江藤も行くんだろ?同窓会って恋が生まれる場所だぜ」

 

目がぱちりと開いた。日野の話は続く。

 

「その場のノリで盛り上がってつき合っちゃったり、当時伝えられなかったけど好きだったんですとかさ。多いみたいだぜ、そーゆーの!」

 

既にもう、眠気は掻き消えている。起き上がると、回り込んで来ていた日野と目が合った。おれを見て満足そうににんまり笑う。

小塚といい、日野といい…まったくどいつもこいつも!!今日は昼寝は中止だ。寝てられるか。

 

「真壁く〜ん。あれ、日野くんもいる」

全てを蕩かすような笑顔で駆け寄ってきた江藤と入れ替わるようにして、日野が立ち上がった。

ぽんぽんとおれの肩を叩き、すれ違いざまに意味ありげににやりと笑って立ち去る。

 

「さっきかえでちゃんに会ったんだけどね」

「ああ、おれも貰ったよ」

制服のポケットにねじ込んでいた封筒を取り出してみせる。

「もう、しわくちゃになってるじゃない」

仕方ないなぁと言って笑いながら、江藤は何だか楽しそうにしわを伸ばしている。

 

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

思うように休めなかったおれは空を見上げて深呼吸をした。つられて江藤も上を見る。その横顔は今日の空みたいに、澄んだ笑顔だった。

 


「my graduation」というのは本来真壁くんを主人公にと考えていたお話でした。

きづけば何故か鷹羽くんだったわけですが(笑)

で、本来の主役で、元々考えていたエピソードで書こうと思っていたのです。

でも気づけばまた違った話になりました。

わたしの頭にあった「オリジナル」はいつか形になるのでしょうか??

 

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