よりも深く

 

今までに好きだとか愛してるなんて、甘い言葉は言われたことはない。

彼はそういう言葉を口にするのが、ひどく苦手な人だから。

それはよく知っている。

 

でもわたしは言葉にかえて伝えたい。

「真壁くん、だいすき」

囁くように呟く。

つないだ手に一瞬力が入った。

それでも彼は何も言わない。

 

横顔をじっと見つめるわたしの視線を無視して彼は歩く。

でもつないだ手は離さない。

心なしかさっきより、早足になっている。

 

あんまり早く歩くものだから、わたしの家はもうすぐそこまで。

あれから彼はなんにも言ってくれない。

わかっているけど、ちょっとだけ寂しい。これってわがまま?

 

門の前に立つ。つないだ手が離される。

ぬくもりが冷たい空気に触れて、どんどん逃げていく。

「じゃ、おやすみなさい」

ほんとはまだ一緒にいたいのに。

 

門に触れようとしたその手を、彼の大きな手がつかむ。

ゆっくりとわたしは彼の胸の中へ引き寄せられた。

背中にしっかりまわされた両手。

 

何度抱きしめられても、同じように胸が高鳴る。

この音、近すぎてきこえてしまうよ…。

意識すればするほど、速くなる鼓動。

 

あれ?

 

ちょっと待って。わたしの鼓動に合わさって裏打ちされているこの音は?

まさか…。驚いて彼を見上げる。

薄暗くてよくわからないけれど、電燈の白っぽい光を背に受けて彼の耳たぶが赤く染まっている。

 

真壁くんもわたしと同じなんだね。

安心したようにもう一度、彼の胸へ戻る。

そしてもう一度彼にだけ伝わる声で呟く。

「だいすき」

 

つないだ手の温もりが、背中にまわされた手の力が、みんなわたしに教えてくれる。

言葉にならないあなたの気持ち。

 


 

かるさんへプレゼント。

当時はとにかく甘くしようと心掛けて書いたつもりです。

甘々かどうかはおいといて、今読み返すとこっぱずかしいです(笑)

→NOVEL