まちあわせ
約束の時間よりだいぶ早く着いてしまった。 待ち合わせの場所は、近所の公園。 どこにでもあるような、ありふれた場所。 ベンチがあって、緑に囲まれて。
昨日までの背中を丸める寒さが嘘のよう。 これならカイロ代わりの、いつものホットココアは必要なさそう。 今日はどことなく、春の足音が聞こえてくるような。 そしてなぜか、気分を浮き立たせるような。
ベンチに腰掛けて彼を待つ。 肌に当たる風が、どこかで咲いている桃の花の香りを連れてくる。 日ざしは優しく、洗いたてのタオルのようにふんわり包み込む。 気持ちのいい、穏やかな午後。
少し離れたところで散歩している老夫婦。 ゆっくりと彼らの周りに流れる時間が見える。 手を繋いで、なんだかとてもいい感じ。
わたしたちも、いつかあんな風になるのかなあ。 いつか。そう、いつか…。
「!」
ビデオテープなら、とっくに擦り切れているはず。 何度も繰り返された、あの場面。 わたしの頭の中で、今日も再生が始まった。 今も色褪せない。そしてこれからもずっと。
こぼれだしそうな笑顔。 自分がどんな表情してるか、鏡がなくてもわかる。 真壁くんがそばにいてくれたら、ずっと笑っていられるよ。
少し眩しい太陽の光に目を細め、空を見上げる。 薄いヴェールをかけられたやわらかい青。 そのまま目を閉じて、深呼吸。 身体中に入ってくる、新たな緑が芽吹くちから。
最後に思いきりのびをして、目を開けた。 「あ。」 目の前に必死に笑いを堪えた、さかさまの彼の顔。
「楽しそうだな」 いつのまにか、わたしの顔を見下ろす彼が立っていた。
かるさんへプレゼント。 些細なことも喜びに変えていける才能が蘭世にはあると思います。 本人にその自覚はないのでしょうが。
| ||
![]() | ![]() | ![]() |