written by 夢子さま

 

 

 

 

扉を開けて飛び込んだ先は、普段慣れ親しんでいる町並みとは違って、美しいリゾート地のようだった。

(・・・なんだ?ここは・・・。)

そこへ、一組のカップルが腕を組みながら近づいてきた。俊はさっと物陰に身を隠しつつ、様子を伺っていた。

 

「さっきのお食事もとってもおいしかったわね。」

「・・・そうだな。」

「こうして、あなたと二人っきりで旅行できるなんて、夢みたいだわ。」

「あいつら、気を遣いやがって・・・。」

「それだけ、成長したってことじゃない?結婚記念日に二人で旅行してきて、だなんて。」

「まぁな。」

「だって、新婚旅行以来なのよ?二人だけで旅行だなんて・・・。」

「そういえばそうだな。」

「子どもたちに甘えて、思いっきり楽しんじゃおうと思って。」

「・・・ああ。」

 

30代後半といったところだろうか。落ち着いた雰囲気のカップル・・・それはきっと未来の自分と彼女。

彼女は髪型こそ少し短くなってパーマがかかっているものの、全くといってよいほど変わらない。変わったのは・・・平気で腕を組んで歩けるようになった自分といったところか。

 

「ねぇ、あなた。あそこにベンチがあるわ。ちょっと座らない?」

「ああ・・・。」

 

物陰に隠れつつ、未来の二人を追う俊。・・・未来の自分が能力を解放していたら、今のこの姿はきっとバレバレなんだろうなどと思いつつ、極力気配を消して二人の様子を伺うことにした。

 

「んふふふ?」

「何だよ、気持ち悪いな。」

「ひどぉい。・・・でも、いいの。幸せなんだもんっ。」

「・・・そいつは良かった。」

「ありがとう。あなた・・・。」

「・・・何だよ、改まって。」

「わたしを幸せにするって、約束を守ってくれているもの。」

「・・・。約束だからってだけじゃねぇよ。俺も、お前に幸せにしてもらってるってことだ。」

「あなた・・・。」

「・・・言わせんなよ、こーゆーことを。」

「ありがとう。何より、嬉しい・・・。」

「あーもう、泣くなって・・・。」

 

 

物陰から伺っているために、会話にやけに集中してしまうのだが、そのやりとりを聞いているだけで俊は赤面状態だ。未来の自分も、やはり言葉足らずだとは思う。

きっと、もっと伝えたい思いはあるのだろうと。でも、今の自分には決してこんな風に言う事はできない。今の彼女も、きっとこんな言葉を期待しているに違いないのに。

 

喜びの涙をにじませる未来の彼女に手を伸ばし、その涙をぬぐうと、未来の自分はそっと彼女にキスをした。

その姿があまりに自然で、大人に見えて、今の自分がどんなに小さな男かを思い知らされる。こんな自分を信じて待ってくれている彼女に対して、感謝と愛情が新たにされた。

 

「・・・あなた。」

「ん?」

「これからも、ずっと幸せでいましょうね。」

「・・・ああ。」

「子どもたち、大丈夫かしら・・・。」

「ぷっ・・・。さっきまで、あいつらの好意に甘えようって言ってたくせに・・・。」

「・・・だってぇ。」

「・・・あとで、電話してみろよ。」

「うん。」

「・・・ま、そんなもんだよな。俺たち、親なんだし。」

「そうね。」

「二人でゆっくりは、あいつらから手が離れてからでも時間は十分あるさ。」

「・・・あなた・・・。」

「・・・な?」

「うん・・・。」

 

(ああ・・・。結婚、とはそういうことなんだ。)

ただ好きで一緒にいるというだけでなく、夫婦というのは、子どもを持ち家庭を築くというものなのだ。

・・・自分がこれから彼女に対して負っていくべき責任と将来の重みを教えられた気がした。

「いつか」という曖昧な言葉で彼女をつなぎとめておくのではなく、具体的に、安心させていくべきだと。

 

(・・・よしっ。)

 

俊は立ち上がった。物音を立ててしまったようで、ベンチの二人が気づいてしまったようだった。

 

「あら、何か物音がしなかった・・・?」

「ああ・・・。」

 

(やべっ・・・。)

俊は走り出した。どうしたらこの世界から、自分の時代へ戻れるのかはわからない。でも、早く帰らなければ。そして、彼女に伝えなければ。「いつか」を「もうすぐ」にするために。

走って、走っているうちに、大きな光に包まれた。

 

気がつくと、そこはいつもの自分の部屋だった。

「帰って・・・きたのか。」

将来の自分と彼女・・・。それは自分が望んでいる姿そのものだった。

それを現実のものとするために、一歩、進んでいかなければ。

 

トゥルルル・・・

「はい、江藤でございます。」

「江藤?・・・俺・・・。」

「真壁くん?どうしたの?」

「・・・次の日曜、デートしようぜ。」

「えっ・・・。」

「・・・だから。デートしようぜ。」

「・・・嬉しい・・・。そんな風に誘ってくれたの、初めて・・・。」

「ばーか。そんなことで感激してんじゃねぇ。」

「だってぇ・・・。」

「・・・そのうち、もっと感激させてやるから。」

「えっ・・・。」

「・・・じゃ、日曜日10時に駅前で。」

「うん。楽しみにしてるね。」

「ああ・・・じゃぁな。」

 

 

こちらからデートに誘うだけで、こんなに喜んでくれる。

もっと、彼女を喜ばせてやりたい。もっと、素直に自分の気持ちを伝えていきたい。

・・一歩ずつ、一歩ずつ、彼女に伝えていこう。

 

未来を現実のものとするために。

 


第一話担当 ぴーのあとがき

今回リレーの第一走者を担当させて頂きました。

できるだけ早く次の走者である夢子さんへバトンを渡さないといけないのですが、

時間だけが過ぎてしまい、非常〜〜〜〜に焦りました。

でも亀の歩みでなんとか渡し終えた後は、

その後の展開は知っていても続きが気になって仕方がありませんでした(笑)

書き手としても一人の読者としても、リレー小説は本当に楽しかったです。

ご覧頂いた方が楽しんで下されば幸いです。ありがとうございました。     

 

第二話担当 夢子さまのあとがき

初のリレー小説、楽しく書かせていただきました。

ときめき二次の世界に飛び込んで約1年半、まさか自分がこうしてイベントに参加させていただくことができるとは、思いもしませんでした。

先輩方が優しく親切に助けてくださって、加えてくださって感謝しています。また、読んでくださる皆様にも感謝しています。

初めてのコラボで、ほとんどの作業をしてくださったぴ ー様、本当に初心者の私をフォローしてくださってありがとうございました。

 

 

 

 

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