はじまりの朝

 

じりりりり。

 

枕元の目覚まし時計が無機的に、一日の始まりを告げる。

条件反射で布団から手をのばし、再び静寂を取り戻す。

 

カーテンの隙間からこぼれる柔らかな光を感じながら、温かい布団の中で、しばしまどろんで寝返りをうつ。

 

もう一度深い眠りに引きずり込まれそうな心地よい誘惑を断ち切って、少しずつ目を開ける。

 

「わ、アップ。」

思わず声が出そうになるのを、慌てて手で塞ぐ。

隣で眠る彼の横顔と鉢合わせ寸前。

 

男の人にしては、意外と長い睫毛。

あ、寝ぐせついてる。ふふふ。

そろそろ襟足のところ、伸びてきたなあ。

 

そーっと手をのばして彼の髪に触れてみる。

彼はまだ深い眠りの中。

その寝顔につい見とれてしまう。

 

「結婚…したんだよねぇ…わたしたち」

しみじみと呟く。

こんな時実感できる、新しい生活の始まり。

 

彼の髪に朝日があたる。

もう起きなくちゃ。

彼が目を覚まさないように、こっそり布団からでる。

 

でも、でも、あともう少しだけ。

彼の頬にそっと唇を寄せる。大好きな気持ちはずっと変わらない。

真っ赤になりながらキッチンへ向う。

 

足音が遠のき、寝室に残された彼はぱっちり目を開けた。

「ばーか、おれもだよ」

 

幸せってきっと、こんななんでもない瞬間の集まり。

 

 

 


 

かるさんへプレゼント。

結婚したという実感って、日常のささいな一瞬だったりします。

朝起きた時、隣に夫がいる。

今では当たり前すぎることなのですが、当時は新鮮だったなぁ(トオイメ)

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