私が欲しかったのは
あなたを守る力
Precious Sanctuary 葛原紗夜子さま作
「おねえちゃーん!こっちこっちーっこっちだよー!」
「待ってよ、俊くん。おねえちゃん荷物いっぱい持ってるんだから〜」
「早く〜。」
幼い笑顔で手を振るあなた
お弁当を持ってピクニックに行こうと言ったら、はしゃいで喜んでくれたね
遠出なんてできないから、すぐそばの丘までだけど
今日は日差しが温かくて、気持ちがいい
ここは、まるで聖域
季節外れの別荘地は、人影も見えず、訪れる人もいない
私と、おばさまと、そして、あなた
3人で静かにゆっくりと暮らす毎日
のんびり平和で、何の変化もなく、私は一瞬錯覚してしまう
このまま、何事もなく過ごしていけると
「わーい、鮭のおにぎり〜!ボク大好き!!」
「あ、おねえちゃんのはおかかだった。俊くん、玉子焼きも食べてね。ウインナーもあるよ。」
「うん!!」
二人でピクニックシートに腰を下ろして、仲良くランチタイム
何処か花の薫りを帯びて、時に強く時に弱く、戯れのように丘を渡る風
見上げれば、羽根雲がふわりと浮かぶ、薄い青空
凍てついていた大気も、どこか温んで
確かに聞こえる 春の足音
こうして、季節は巡る
時は過ぎる
私は………変わっていく
「ふう。お腹いっぱい。ごちそうさまでした!」
「全部食べたね〜。えらいえらい。美味しかった?」
「うん!おねえちゃんのお弁当、おかあさんのとおんなじくらいおいしかったよ。」
「わ、嬉しいな。有難う、俊くん。」
二人でごろりと寝転がる
ちょっとお行儀悪いけど、咎める人もいない
このまま昼寝しちゃいたいけど、まだ少し肌寒いかな
「あー、お姉ちゃん見て見て!つくしー」
「ホントだ。もう春なんだねぇ。知ってた?つくしって食べられるんだよ?」
「知らなーい。美味しいの?」
「うーん、どうだろ?おねえちゃんも食べたことないなぁ。」
「じゃあ、いっぱい採っておかあさんにお土産にしよう!それで、晩ゴハンにつくし作って
もらおうよ。」
ボク探してくるー、と言うや否や飛び起きてしまうあなた
もうちょっと二人で寝転がっていたかったんだけど
こんなにも、4歳のあなたは元気で素直で、可愛らしかったんだね
「俊くん、あまり遠くに行かないでね。」
「うん!」
笑って駆け出すあなたを、座って見送る
柔らかい光の中
夢中で一生懸命土筆を探している姿は、微笑ましくて愛おしくて
私はまた、錯覚してしまう
ここが、守られた場所だと
ううん、違う
そんなことは判っている
今は追手の捜索が一からやり直されているだけ
いずれは、いつかは、追及の手が伸びる
ここは、結界や守護の力で、閉ざされている訳じゃない
魔界の力は、どれほど強大なものか
どれほど容赦のないものなのか
きっと、私の想像を遥かに超えているのだろう
………いつかは、追われる時が来る
その時、私はなにができるのだろう?
「おねえちゃん?」
突然の呼び声に、びくりと肩が上がってしまう
自分の考えに入り込んでいたから、いつの間にかあなたが隣に来てくれたのに気付かなかった
いけないいけない、気を緩めちゃ
今のあなたは、こんなにも小さいのだから、眼を離しちゃダメ
不安そうな顔も、しちゃいけない
「なあに?俊くん。」
「はい、コレ!」
後ろ手に隠していたものを勢いよく私に差し出すあなた
私の目の前には、小さな太陽のような花
「…たんぽぽ?」
「うん。あっちにいっぱい咲いてたんだ。おねえちゃんにあげる!」
「有難う、可愛いね。」」
「ねえ、おねえちゃん、ボクは王子さまなんでしょ?」
その言葉に、心の底でぎくりと音がする
おばさまが優しく噛み砕いて説明していたけど、まだよく理解はできないみたいだった
それでも、『王子』という言葉は、ちゃんと覚えていたんだね
「…うん、そうだよ。俊くんは、おねえちゃんとおかあさんの、大切な王子さまなの。」
「なら、おねえちゃんはお姫さまだね!」
え…
「だって、王子さまはお姫さまを幸せにするんだよ?それがお仕事だもん。だからおねえちゃんが
ボクのお姫さま!」
「俊くん…」
「ねえ、ボク早く大っきくなるから、それまで待っててね。王子さまとお姫さまはケッコンして、
えーと、なんだっけ?あ、そうだ、スエナガク幸せに暮らすんだよね?」
ああ…
「ボク、おねえちゃんのことお嫁さんにしてあげるから!だからちゃんと待っててね?」
「…うん!」
真壁くん真壁くん真壁くん………!
唇を噛み締め嗚咽を堪え、私はあなたをぎゅっと抱き寄せる
私の細腕でも、すっぽり収まってしまう幼いあなた
「待ってるよ…何年でも何十年でも…俊くんが大きくなるのをずうっと待ってる…だから…」
耳元でそっと囁く、祈りの言葉
「約束してね?なにがあっても、おねえちゃんの側を離れないと…」
「うん!約束する。」
「…有難う、俊くん…」
「…?おねえちゃん、泣いてるの?」
「ううん、泣いてないよ。嬉しいの…」
そうして、殊更力を込めて、あなたを抱きしめる
とめどない涙が、小さな肩に落ちないように
私は、変わっていく
今までの、臆病で弱気な私から、何にも屈しない力を欲して
私が欲しかったのは あなたを守る力
非力で無力なお前になにができるのかと、誰に笑われたっていい
例え、何を投げ出しても
私の全てを懸けてでも
あなたを あなたの未来を
必ず守ってみせるから
神様でも何者にでもなく あなただけに、誓うよ
ここは、聖域
早春の光が満ちる、約束の地
私の想いを刻んだ、大切な大切な場所
葛原紗夜子さまより
私がサイト開設した際に、ぴーさんはチャットでのお約束を守って下さって、 素敵な素敵なお祝を贈って下さいました いずれはぴーさんもサイトを開かれることは知っていたので、その時には 私もご恩返ししますね!!と固く誓って………誓って、このていたらく(号泣) なんで、オープンから一ヶ月以上経ってるのでしょう? 己の間抜けっぷりに、甲子園ほどの穴を掘って埋まってしまいたい気分…
実はこの話、ずっとタイトルを迷っていたのです でも、『P.S.』さま…『Private Sanctuary』さまというサイト名だと知り、 おお〜!ぴったりでない?と思い、ちょいとテーマに拝借させて頂きました
原作の隙間埋め職人(笑)のぴーさんを見習ったつもりなんですが…自爆かも(涙)
それでも、お祝したかった気持ちがなんとか形になってほっとしました これからも末永く仲良くして下さいませv そして、サイトの方も、ぴーさんのお心のまま、のんびり活動なさって下さいね
管理人より
いかがですか皆様。んもうこの完成度の高さったら!! さやこさんの作品が素晴らしいのは今更わたしが述べるまでもないのですが、 やっぱり叫びたくなるほどです。
筒井くんの別荘で過ごした時間も含めて、蘭世にとっては「聖域」なのでしょうね。 でもそれはあまりにも儚くて、波にさらわれる砂の城のようでもあります。 脆いお城の王子様とお姫様が本当に末永く幸せに暮らす為には これから幾多の試練を乗り越えなければなりません。
と真面目に語った後ははじける(笑) 実はわたくし生まれ変わってからのいわゆる「俊くん」には滅法ヨワイのですよ。 めっさかわいい〜〜〜 あぁもう「おねえちゃんがボクのお姫さま」なんて成長したヤツは言わんのだろうなぁ(笑) ぐでんぐでんに酔っぱらわせたら言ってくれるかしら。などとヨコシマなことを考えてみる。
さやこさん、素敵な作品をありがとうございました。
→TOP | ||
![]() | ![]() | ![]() |