互いに達した後、蘭世はまだ気を失っているようだった。

俊は彼女に背を向けて、後処理をしていた。

薄い皮膜の中に、どろりとした欲望の成れの果てが入っている。

それを蘭世に気づかれないうちに片付けてしまいたかった。

俊は振り向き、蘭世の様子を窺った。

もうじき目を覚ますような気配があった。

 

完全に処理が終わって、安堵していた時だった。

 

(きゃあ〜〜〜〜〜〜)

 

蘭世の心の中か、

実際のものなのか判別がつかない悲鳴のような声が聞こえて、俊は振り返った。

暗がりの中でもわかってしまうほど、

蘭世の周りに小さなハート形が花びらのように踊っているかのようだった。

思わず吹き出しそうになって、俊は笑いを噛み殺す。

いつまでも見ていたかったが、蘭世の手がやがて俊が乱暴に取り去ったパジャマを探しているのに気づくと、俊は反射的に手を伸ばしていた。

 

「え…ちょっ…真壁くん!?」

 

蘭世の手首を掴んでいた手は、

そのまま蘭世の細い首を辿り顎を強引に上へ向けさせる。

 

「きゃっ」

「なんで、服着ようとしてんだよ」

 

「なんでって…だって」

 

続きの言葉まで待っていられずに、俊は蘭世の唇を奪う。

唇を離し、耳朶を軽く噛む。

刺激に敏感なままの蘭世の声が、再び甘い色を取り戻した。

その声に自分で驚いた蘭世は自分の指を噛む。

 

「…っっ…」

「…」

 

項へと舌を這わせると、また蘭世は噛む力を強くする。

ふうと俊は息を零すと、蘭世の指に触れ、小さくキスを落とした。

 

「声、出せよ」

「い…や…聞こえ…ちゃう…」

 

俊は苦笑する。

聞こえてしまう。聞かれてしまう。

あまりよく知らない他の誰かに。

やっぱりこんな安アパートなんかじゃなくて、

もっとちゃんとした所に行くべきだったんじゃないか?

 

いや、それよりもーーーーー

 

「聞かせてくれ、江藤の声」

蘭世の手をとり、紅くなった指についた跡に恭しく口づける。

唇を離して軽く見上げれば、

蘭世は困ったように赤らんだ顔をくしゃりと歪めた。

 

「んもう!」

可愛らしく膨らませた頬に、次に額にまたキスをする。

髪の香り、手の温もり、キスの味、潤んだ瞳、蘭世の全てを愛おしく思う。

だから。

 

再び布団の上へと倒れ込んだ蘭世の身体に被さりながら俊は思う。

 

蘭世の喘ぐ声も愛おしい。

だから、誰にも聞かせるものか。

俊は部屋に巡らせた結界をこっそりと更に強力なものへと変えた。

 

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