Ethan Weisgard
World Jazz Monthly

 

David Sanborn & Maria Schneider on tour with the Danish Radio Big Band March 2003

 デンマーク放送ビック・バンドは、今期(’02、10月〜’03、3月)演奏活動のファイナル・プロジェクトとして、指揮者、アレンジャー、そしてバンド・リーダーのマリア・シュナイダーと一緒に仕事をする幸運を得ました。
 マリアは、非常に優秀な才能の持主ですから、何時も素晴らしい経験の連続でした。彼女は、自分の目指すサウンドを説明するのが非常に上手です。音楽によって表現すべき気持ちと感情について、自分がどのように望んでいるか、音楽用語を使って言葉巧みに大変上手に説明しました。これは音楽に更なる次元をもたらします。マリアは、バンドとのリハーサル中、非常に効率的で冷静沈着、しかも何時も我々に対して大変暖かく好意的です。バンド・リーダーが、20名の人と一緒に働き、短期間の内に沢山の音楽を学ばせる為に備えた素晴らしい力量です!
 私達は、マリアとデヴィッド・サンボーンとのリハーサルを始める前に、予め音楽に精通しておく必要から、前以てバンドのみでリハーサルを行いました。
 私達とデヴィッド・サンボーンは、此れまでに二度共演しています。最近の機会は、ギル・エヴァンスの音楽を演奏する最後のヨーロッパ・ツアーで、今ツアーのテーマでもありました。デヴィッドは、1970年代以降、10年以上もビル・エヴァンス・オーケストラと共に共演していましたから、エヴァンスの音楽に特別な想いがありました。
 一方のマリアも、ビル・エヴァンスの後年、彼の身近に居て多くのアレンジメントを扱い、影響を受けていますから尚更です。
 更に特別な出来事として、ギル・エヴァンスの何年間も失われていた多くの古典的な旋律であるオリジナル・アレンジメントが見付かった事です。特にマイルス・デイビスのリード・ヴォイスでプレイされたミュージカル「ボーギーとベス」は、実際のレコーディング以来、このアレンジメントの原型でプレイされたことがありませんでした。
 デヴィッド・サンボーンは、今回、オリジナルにおけるリード・ヴォイスをプレイする事になっていました。と、言うのも、どんなに優れたトランペット独奏家でも、マイルス・デイビスのバージョンと合わせる事は至難です。そこでアイデアとして、別の楽器と自由な解釈に基づいてプレイすることにしたのです。マリア・シュナイダーとデヴィッド・サンボーンのソウルフルでダイナミックなプレイは、オリジナル・アレンジメントに似合いの二人でした。
 デヴィッド・サンボーンと共に働くのは、他のミュージシャンにとっても非常に価値ある経験です。簡単に言えば、デヴィッド・サンボーンは、あらゆるリハーサル、コンサートにおいて、自分のプレイに完全燃焼するのです。これは我々ミュージシャンの全てに、本当のレッスンとなりました。音楽を演奏するには一つの方法しかありません。それは100パーセント傾倒することです。デヴィッドは、世界一有名な今日のサクソフォン・プレイヤーの一人ですが、何時も我々と共にミュージシャン仲間・同僚としてプレイし、一緒に仕事をする全てのミュージシャンに感化を与える人です。

 我々の最初の仕事は、デンマークにおける二番目に大きい都市で、優れた文化と伝統があるオールフスです。
 マリアの指揮は、アレンジメントの表出に長けています。そして、このアレンジメントこそが、何年もの間失われていたオリジナルであることを詳細に説明。聴衆は、此れまで聴き馴染んできた周知の曲を、オリジナル演奏で聴ける特別なコンサートであることを知って、注意深く捉え、そして暖かい声援を送ってくれました。私は、聴衆が音楽に対し、非常に耳が肥えている事を強く感じました。
 勿論、デヴィッドのプレイは、ストレートに彼等のハートを仕留めていました
 私達の二番目の仕事は、コペンハーゲンの大きいクラブで、通常ロック・コンサートとして使われていましたが、映画館にコンバートされた所です。聴衆は、年齢的に広い階層の素晴らしい人達で、ジャズ・クラブでありませんが、デヴィッド・サンボーンとラジオ・ビック・バンドの演奏を大いに楽しんでくれました。
 ツアーの最初のコンサートとなったオールフスは大成功であり、特別な印象として残っています。
 私は、初めて聴衆の前に立った時、音楽を演奏できる事に、とても喜びを感じました。聴衆の反応は、プレイする度に増し、盛り上がっていきます。アレンジメントがビシッと決まっていると、音楽がより以上にリズミックとなり、音色に正確を増し、リズム・セクションの響きが音楽として快いものとなって演奏できるようになります。リズム・セクションとしてアレンジメントをよく理解すると、アレンジメントを更に広げ、より即興的なソロが展開できます。私達は、そうする事で聴衆と一体となり、素晴らしい音楽の創造に成功しました!
 デヴィッドはその夜、初めから巧みにプレイしていましたが、彼のソロで私達は更に奮い立たせられました。彼のメロディー・ラインの解釈は、演奏している間展開され、聴衆に大いに受けていました。
 私が、コンサートの後で話した人々はとてもハッピーでした

 我々は、コペンハーゲンにおけるコンサートの後、二日のブレイクがありましたが、最初のヨーロッパ・コンサートの為に、もうオーストリアのウーンに向かわなければなりませんでした。私達は、ウーン、フィンランドのヘルシンキ、そしてリトアニアのビリニュスと三ヶ国でコンサートを行う事になっており、ツアーの為に凡そ40名の人を収容することができるエンジンが二つ付いたプロペラ機(双発機)をチャーターして、私達楽団員と全ての楽器や器具類、そしてツアー・スタッフを一斉に移動する事が出来ました。我々が、定刻に三回のコンサートを演奏する為に設備やスタッフと共に目的地に着くことが出来たのは、ロジスティックに、我々が確実にする事が出来るだろう唯一の方法です。しかも私達自身のチャーター機を持っている事が、スターのような気分にほんの少ししました!

 コンサートは、ウーンの古典的なコンサート・ハウスである美しい「Wiener Koncerthauz」で行われましたが、それは銀行員のグループの為に催された個人的なコンサートで、1800名もの人がコンサート・ホールに居ました。この人達は、現代のビッグ・バンド音楽でなく、デヴィッド・サンボーンの強力なサクソフン・プレーに期待を寄せている事を、確かなものとして感じました。
 私達のコンサート・ツアーのオープニング・ナンバーは、デヴィッドが出演する前に、バンドの紹介とマリアの非常に長くて複雑なアレンジメントによる「ハンググライディング(Hang Gliding)」からでした。それは、リズミカルな11/8拍子で演奏される非常に現代的な作品で、普通の標準的なビッグ・バンド・タイプの題材でなく、二つの長いソロを持った美しい作品です。バンドと共にステージに立った時の想像を絶する会場全体からの拍手喝さい、そしてファースト・ナンバーが終わった後のそれ以上の熱狂的な反応に、私達が大変優れた聴衆の為に演奏した事に何ら疑問の余地もありませんでした。彼等は、私達の全ての演奏に対して率直に応えてくれました。
 私達は、このようにウーンの美しい都市と素晴らしいコンサート・ホールで演奏することに、興奮を覚えました。クラシック・オーケストラの為に建てられたホールは、音響効果に非常に優れ、私達から最高の演奏を引き出す効果を備えています。そして何よりも各ナンバーの後に湧上る1800人の拍手は、私達を駆立てました。
 コンサートが終わって、我々が設備の後始末をしている時、聴衆の一人がピアノに座ってチョットしたジャズ・ピアノを演奏しました。この人が、コンサートの主催者であったのです。この私的な催しの為に、マリア・シュナイダーとデヴィッド・サンボーン、そしてデンマーク放送ビッグ・バンドを雇うという素晴らしいアイデアを持った紳士です。彼は、ビッグ・ビジネスの大変厳しい企業社会の中で働く人々が、グッドなジャズを好んでいる事を知って、彼等にこの音楽をプレゼントしたのです。私は、その事を知って感激しました。彼の為に、ブラボー!

 私達は、ウーンで自由な一日を過ごしました。コンサートや、その他の出来事の中で仕合せな気分に為った時は、何時も夜遅くまでその余韻を楽しみます。
 私達は、非常に良いホテル「Inter Continental」に滞在していましたが、コンサートの後にロビーのバーに戻ると、ピアノ、ベース、及びヴァイオリン・トリオが演奏していました。私とピアノ奏者のNikolaj Bentzonは、幾らかの飲み物の後で、「俺達も一緒に演っていいかな?」と尋ねました。打楽器奏者の私には、生憎手元に楽器を持っていなかったので、音を出す物であれば何ででもプレイするのに慣れていますから、何か打楽器の替わりになるような物がないか物色していた所、打楽器に恰好のワインやシャンパンを冷蔵するのに使用されるアイス・バケットを見付け仲間に加わりました。それは実に素晴らしいボンゴに変身、ホテルのミュージシャンと共に、かなり多くのジャズ・スタンダードをプレイしながら良い時間を過ごしました。ホテルのミュージシャンはタキシード、其れに加わった私とNikolaj も黒のビック・バンド・スーツを着ていましたから、私が膝にアイス・バケットを挟んでプレイしている恰好は、とても可笑しかったに違いありません。
 私達が、演奏し終えてファイナル・ドリンクをバーに飲みに行く途中、其れまで飲み物を楽しみながら、私達の演奏を聴き続けていたアメリカ人が「ヘイ!イカシてたヨっ!アイス・バケットもゴキゲンだね!」と、声を掛けてきました。私には、此れまで、そんな褒められ方をされたのは、これが初めてでした

 我々は、次ぎのコンサート地、フィンランドのヘルシンキに向かって、チャーター飛行機でかなり長い時間でしたが、快適な飛行の後、フィンランドに到着。ウーンの天気は、まるで春のようでしたが、ここフィンランドでは零下で非常に乾いていました。
 我々は、フィンランド・シンフォニー・オーケストラのホーム・グラウンドであるヘルシンキ・コンサート・ホールで演奏しましが、非常に素晴らしいコンサート・ホールでした。私達の世話をコンサート・ホールのスタッフが、まるで専属スタッフのように甲斐甲斐しくしてくれるのです。
 私達は休暇を取ってリフレッシュしていましたから、その夜のコンサートがナイス・フィリングであった事は言うまでもありません。フィンランドの聴衆は、通常反応がほんの少し控え目です。従って、このコンサートでも同様に控え目でしたが、彼らが音楽を好きでないと云うことでなく、とても注意深く聴いてくれました。聴衆の中には、交響楽団の楽員や他のグループで活躍している多くのミュージシャンが居たようです。

 我々の最終公演先はビリニュスでした。デヴィッドは当地での公演に先立ち、他所での演奏がありました。私達は快適な飛行の後、定刻にビリニュスへ到着。ホテルのチェック・インをする為に街をドライブしましたが、ビリニュスは、非常に多くの古い教会や歴史的なビルで美しい都市です。私達の宿泊するホテルは古い都心にありました。この一帯は、新築された素晴らしい店やレストランで一杯です。ホテル自体は、500年以上の歴史がありましたが、ビルは美しく建て替えられ、大きい素適な浴室に、居心地の良い部屋で大満足でした。そして私達の昼食が、地下の美しいレストランに用意されていました。バンドが良く(良いホテルと良い食事)扱われるなら、良く振舞うと云う音楽世界の古い諺があります。それは、本当です!
 コンサート・ホールは、丁度ヘルシンキのようなビリニュス・シンフォニー・オーケストラ自身のホールでした。それは良い部屋、良い講堂、そして、とても気の付くスタッフと共に、非常に現代的です。更に我々が会ったビリニュスの人々は、とっても親切に歓迎してくれました。通常、コンサート・ホールのステージは、非常に高くて聴衆が見物するのを難しくしています。しかし、このコンサート・ホールのステージは、凡そ900名の人を着席させる事が出来る位の大きさでしたが、かなり低かったです。バンドは、スーパースターで、乱暴なファンからセキュリティを心配する必要がないなら、低いステージで聴衆の近くでプレイするのが好きです。幸い(!?)我々にとってセキュリティは問題でありませんから、聴衆の近くで演奏が出来、彼等がどう音楽に反応するかを見ることが出来ます。これは、ミュージシャンにとって奮い立たされ、コンサートは非常に上手く行きます。
 コンサート・アレンジャーは、コンサートに入りたがっている、とても多くの人々の為に、急遽余分な200人の客を入れました。スタッフは、その人達の為に余った椅子を提供しましたが、足りずにホールの端に沿って立ち上がる人々が居たほどです。これは、全体のツアーの最も熱心な聴衆でした。
 その夜は、確実に、とても熱心な多くのデヴィッド・サンボーンのファンがホールに居ました。しかし其れだけではありません。ビリニュスの人々が、どんな種類の音楽にもオープンであった事が、大きな反響となって返って来たのだと信じます。最早、彼等がジャズ・ファンであったかどうかは重要でありません。音楽の持つ力が、人々の心を動かすのです。そして彼等は、応じました!
 これは、本当に素晴らしいツアーの最も良い結末でした。私は、良い音楽が全ての力を集約されてプレイされるなら、音楽のスタイルに関係なく境界を越えて感動をもたらすものと信じます。そして、これは我々のツアーで立証されました!
 通常、デヴィッド・サンボーンの演奏を聴く人々は、彼のレコーディングを聴くのと全く同じ美しい音とダイナミック、リズミカルなフレージングで彼の演奏を聴きます。所が、ビリニュスの人々は別の音楽設定でデヴィットの演奏を聴いています。それは、音楽の本質を理解している事の証明です!
 そして彼等は、我々を指揮するマリア・シュナイダーと、彼女のハートを見事に表出するデヴィット・サンボーンによって息を吸い込まれたデンマーク放送ビッグ・バンドを聴き、其れまでビッグ・バンド音楽が余り好きでなかった人々さえ、我々のコンサートのひとつから積極的な経験を得たと信じます。私は、このツアーを通じて聴衆の多くから、幾らかのジャズとビッグ・バンド・ファンを生み出したと思います。
 マリア・シュナイダーの指揮によって奮い立たせられたデンマーク放送ビッグ・バンド、そしてデヴィッド・サンボーンのソウルフルなプレイ、この空想的な組み合わせのツアーを世界中のずっと多くの場所に持ち出す事が出来るのを望んでいます。

2003年3月27日
イースン・ウイスガード (デンマーク放送ビック・バンド)

 
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