不連続な読書日記(1996.7〜1996.12)


★1996.7

 

☆エド・マクベイン『稲妻』(井上一夫・ハヤカワミステリ文庫)

 うーん。達者すぎて酔えない。

 

☆蒼村狼『美人校医・少年解剖保健室』(フランス書院文庫)

 展開が早すぎる。プロセスが大切。

 

☆別冊宝島262『インターネットの激震』(宝島社 '96)

 期待はずれ。情報社会を論じた面白い書物はないのか。

 

☆中沢新一『リアルであること』(メタローグ '94)

 軽く書かれた文章にこそ「地」が透けて見えるものだ。

 

☆ヨシフ・ブロツキー『ヴェネツィア・水の迷宮の夢』(金関寿夫・集英社 '96)

 これぞ散文。最近「失われた時を求めて」「ユリシーズ」に取りかかった。優れた散文には高次元の情報論がたたみ込まれている。

 

☆中山元『フーコー入門』(ちくま新書 '96)

 昔、数年かけて「言葉と物」の読書会をやった。深いところで影響を受けていたことに最近気付いた。フーコーにはまだその先があったのだ。

 

★1996.8

 

☆埴谷雄高『生命・宇宙・人類』(角川春樹事務書 '96)

 立花隆との対談は、以前「太陽」の特集で読んだ。(「ラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調」「初期ギリシア哲学者断片集」「ギリシア哲学者列伝」そして「ベネツィア」。)その存在自体が既にして奇跡としか思えない。

 

☆古瀬幸広『インターネット活用法』(講談社ブルーバックス '96)

 久しぶりに骨のあるインターネット本に巡り会えた。

 

☆『Heaven NO.1 5/20.1996 』(マガジンハウス) 

 「革命的アダルト・ノベル誌。女が書いた官能小説22編」結構、いい。

 

☆松岡正剛『知の編集工学』(朝日新聞社 '96)

 「オペラ・プロジェクト」の話が面白い。

 

☆金子郁容『ボランティア もうひとつの情報社会』(岩波新書 '92)

 松岡の「フラジャイル」を、金子は「バルネラビリティ」という。

 

☆西垣通『秘術としてのAI思考』(ちくまライブラリー'90)

☆栗田昭平『2000年のコンピュータ社会を読む』(パーソナルメディア'91)

☆現代哲学の冒険10『交換と所有』(岩波書店 '90)

☆アルビン・トフラー・ハイジ・トフラー『第三の波の政治 新しい文明をめざして』(徳山二郎・中央公論社'95)

 「情報革命」の意義について考えるためまとめて眺めた。

 

☆『BRUTUS 1996.8.15,9.1合併号』(マガジンハウス)

 特集「君はフェルメールを見たか?」。この3月、アムステルダムの国立美術館で4枚のフェルメールを探しても見つからなかったはずだ。「ハレー彗星のような」フェルメール展がハーグで開催されていたのだから。

 

☆中沢新一『純粋な自然の贈与』(せりか書房 '96)

 気持ちのいい読物。

 

☆『月刊ボーダーランド 1996.9月号』(ハルキ・コミュニケーション)

 荒俣宏・責任編集。特集「失われた大陸を探せ!」。グラハム・ハンコックのベストセラーを読まずに済ませようと思った。

 

★1996.9

 

☆グラハム・ハンコック『神々の指紋』下(大地舜・翔泳社 '96)

 読まずには済ませられなくなった。大小12の書店を探し回って下巻が数冊。図版がもっとあればもっとスリリングだったろう。

 

☆『理系のためのサバイバル英語入門』(講談社ブルーバックス '96)

 東大サバイバル英語実行委員会編。副題が「勝ち抜くための科学英語上達法」。

 

☆中沢新一『東方的』(せりか書房 '91)

 中沢本の中でも題材と文体がとても気持ちよく適合した一冊。次元感覚がキーワード。

 

☆竹内薫『宇宙フラクタル構造の謎』(徳間書店 '94)

 1時間で読んだ。素粒子のスピンが1/2の倍数だということは、リーマン予想と何か関係するのだろうか。巨大数仮説の話も面白い。

 

☆ロジャー・ペンローズ『皇帝の新しい心』(林一・みすず書房 '94)

 3ヶ月かけて読んだ。なぜ量子重力論の確立が意識の問題を解く鍵になるのか、結局よく理解できなかった。思考が非言語的であり意識が非アルゴリズム的であることはよく判った(というより読む前から根拠なくそう思っていた)が、かえってアルゴリズムへの関心が強まった。

 

☆西部邁『知性の構造』(角川春樹事務所 '96)

 ここ数年取り組んでいる(そしてここ数年中断している)作業を再開することにした。観念の図式化。刺激的でありながらも不毛な作業。実践への契機したがって不断の運動とともにあることが肝要。

 

☆高橋たか子『意識と存在の謎』(講談社現代新書 '96)

 不思議な本。

 

☆佐々木力『科学論入門』(岩波新書 '96) 

 数学と医学と自然科学を扱った章を読みたくて購入したが、むしろ技術論、倫理、環境社会主義といったあたりが面白かった。

 

☆『特選小説 96.11』(綜合図書)

 たまに読みたくなる。

 

☆『現代思想 96.9』(青土社)

 特集「観測のパラドクス 世界は記述できるか?」例によって興味深い箇所を摘み喰いした。

 

★1996.10

 

☆アリアドネ『調査のためのインターネット』(ちくま新書 '96)

 人文系を中心にしたアドレス集。必需品。

 

☆マルセル・プルースト『失われた時を求めて 1』(井上究一郎・ちくま文庫)

 第一編「スワン家のほうへ」。誰かが退屈な書物だと評していた。恍惚とした退屈を味わいたくて読み始めた。

 

☆レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』(上遠恵子・新潮社 '96)

 気持ちがよくなる本が読みたくなった。森本二太郎の写真がよかった。

 

☆新宮一成『ラカンの精神分析』(講談社現代新書 '95)

 昔からラカンには関心があったが、どこか薄ら怖い感じがして手が出なかった。対象aとは黄金数である。この謎めいた言葉に魅かれて読んでみたら、数学書としてはいま一つだったが(あたりまえか)、思想の書物としてはやはり薄ら怖いラカンの世界をみごとに表現していた。

 

☆『現代数学への誘い』(岩波書店 '96)

 岩波講座「現代数学の基礎」刊行にあたって「読者の皆さん」への無料の小冊子。岡潔が、数学は精神科学の粋だと文化勲章の授賞式で叫んだ。このことを知っただけで十分価値があった。講座「現代数学への入門」10巻を購読して「基礎」「展開」へと進みたい。

 

☆鯵坂真ほか『ヘーゲル論理学入門』(有斐閣新書 '78)

 メーリングリスト「ポリロゴス」に参加した。ヘーゲル「大論理学」のフォーラムのモデレーターをやることになった。そこで大急ぎで読んだ。ヘーゲルの間違いだと著者たちが指摘しているところが実はヘーゲルの凄さの現れだと、思う。

 

☆下村寅太郎『ライプニッツ』(みすず書房 '83)

 こういう本を読みたかった。

 

★1996.11

 

☆ディヴィッド・レイブ『クロッシング・ガード』(飛田野祐子他・角川文庫)

 ジャック・ニコルソン主演の映画のノベライゼーション。言語の表象描写は映画の情報量には到底及ばない。文章の情報量は文体に尽きる。

 

☆マルセル・プルースト『失われた時を求めて 2』(井上究一郎・ちくま文庫)

 第二編「花咲く乙女たちのかげに」の前半。実に濃密な情報量。

 

☆由紀かほる『アフター・フライト』(日本出版社)

 由岐かほるには文体がある。

 

★1996.12

 

☆ヘーゲル『大論理学 上巻の一』(武市健人・岩波書房)

 ヘーゲルは天才だ。

 

☆金子武蔵『ヘーゲルの精神現象学』(ちくま学芸文庫)

 原作は物語としておもしろそうだ。

 

☆三枝博音『ヘーゲル・大論理学』(こぶし書房 '96)

 三枝博音という生き方に興味を覚えた。

 

☆本多修郎『近代数学の発酵とヘーゲル弁証法』(現代数学社)

 ヘーゲルと数学。実におもしろい。

 

☆イアン・ハッキング『言語はなぜ哲学の問題になるのか』(伊東邦武・ 草書房)

 まえがきと結論部分だけを読んだ。

 

☆加賀野井秀一『20世紀言語学入門』(講談社現代新書)

 実に手際のよい入門書。

 

☆吉永良正『「複雑系」とは何か』(講談社現代新書)

 この人の作品は、そこをもっと読みたいと思うところで終る。

 

☆植島啓司『男が女になる病気』(福武文庫)

 叙述のスタイルがいい。

 

☆手塚治虫『地球を呑む』(小学館)

 若書きの作品を読む面白さと不満。