不連続な読書日記(2014.09-12

 


【購入】

●柿木伸之『ベンヤミンの言語哲学──翻訳としての言語、想起からの歴史』(平凡社:2014.07.15)【¥3900】

 前々から気になっていた。細見和之著『ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」を読む』は強烈な刺激を受けて、今でも読後の余韻が残っている。 (09/05)


●加藤精一編『ビギナーズ日本の思想 空海「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」』(角川文庫:2013.07.25)【¥743】

 金剛界九会曼荼羅の存在論的・意識論的構造と言霊の言語構造との相補性、といった事柄について思いをめぐらせている。常備本の『言葉と在るものの声』 (前田英樹)を繙く前に、せめて「声字実相義」の原文訓み下し文に目を通してきたくて。(09/09)


●安田登『日本人の身体』(ちくま新書:2014.09.10)【¥820】

 禅竹の『定家』を素材にして、「目から鱗」ではなく「身から心」がおちる身体文化論が語られる。(09/11)


●永井均『哲おじさんと学くん──世の中では隠されているいちばん大切なこと』(日経プレミアシリーズ:2014.09.08)【¥850】

 文學界7月号から「哲学探究」の連載がはじまっていることを最近知り、講談社現代新書50周年の小冊子にエッセイが掲載されていることを知り(短いがと ても重要なことが書かれている)、日経日曜版に40回も連載が続き今年の2月に終了していたのにまったく気づかなかったことに愕然とし(日経の文化欄には 注意をはらってきたつもりだったのに)、その連載が(連載分とほぼ同じ分量の書き下ろしを加えた『哲おじさんと学くん』が)すでに刊行されていることを迂 闊にも見逃していたことに大変なショックを受けた。(09/16)


●工藤美代子『絢爛たる醜聞 岸信介伝』(幻冬舎文庫:2014.08.05)【¥800】

 1泊2日で片道4時間、列車の旅に出かけることになった。旅の友を物色していて、直観的に選んだ。(09/18)


●島内裕子・渡部泰明『和歌文学の世界』(放送大学教材,NHK出版:2014.03.20)【¥2600】

 三浦しをんさんが讀賣の読書欄(9月21日)で大絶賛していたので。10月1日から第2学期が始まる。タイミングがいい。(09/26)


●三浦しをん『仏果を得ず』(双葉文庫:2011.07.14)【¥600】
●高田郁『天の梯 みをつくし料理帖』(ハルキ文庫:2014.08.09)【¥620】
●原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮文庫:2014.07.01/2012)【¥670】

 よくできた物語に飢えていた。(10/03)


●平田オリザ『演劇のことば』(岩波現代文庫:2014.06.17)【¥800】

 城崎国際アートセンターで「変身 アンドロイド版」(青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト)を観た。作品そのものについては、後でよく考えてみようと、いくつかの問いをたててみた。
・アンドロイドの下腹部はどうなっていたのか。
・アンドロイドの声は医者を演じていた俳優の声だったらしいが、それは、人間になりたがっているアンドロイドと人間なのにロボットみたいな医者との対比を 際立たせるためにあえてそうしたのか。
・ロボットとアンドロイドは(概念として)どう違うのか、どう使い分けているのか。
・アンドロイドが最後に月の光を見たがったのはどういうわけか。

 上演後の石黒浩と平田オリザとの対話、観客との質疑応答の「アフタートーク」がとても面白かった。
 精魂こめて制作した作品について、「観ていただいたのがすべてで、何も申し上げることはない」とつきはなすのではなく、あからさまに語る。
「あの最後のアンドロイドのセリフは何を象徴していたのでか」とか、はては「あなたはこの作品で何を伝えたかったのか」という身もふたもない質問にさえ答 えかねない雰囲気。
 石黒浩がとても戦闘的で、最初見たとき「これは本人ではなくてアンドロイドなのではないか」と思い、最後までその疑いをぬぐえなかった。(それにしても この人はいつも怒っている。)
 そう思うと、こんどはあの平田さんの満面の笑み、超一流の笑みも、一種の演技ではないか、平田オリザという実在の人間を造型する名人芸のごとき演技なの ではにかと思えてきた。
 しかも、対談する二人の背後の舞台の上で、「出演」していたときと同じように、アンドロイドが時おり瞼を閉じたり手を動かしたりしているのをみている と、いま・この場面そのものが三人の登場人物による独立した演劇作品なのではないかとさえ思えてきて、とにかくそういうところがとても面白かった

 トークが終わって、平田オリザの一番新しい(たぶん)本を買ってサインをもらい、城崎の街を歩きながら、あの演劇は、ロボットになった家族を家族として 受け入れる愛の物語であり、ロボットになった人が、それでも人間のままの家族を家族として受け入れる愛の物語だったのだろうか、などと考えていた。
 いずれにしても、あのアフタートークがなければ、この作品の印象はとても散漫なものに終わってしまっていたのではないかと思う。(10/04)


●山本健吉『いのちとかたち──日本美の源を探る』(角川ソフィア文庫:1997.06.25/1981)【古¥1190】

 根津美術館所蔵の国宝「那智滝図」のことを調べていて、本書にたどりついた。(10/04)


●桑田忠親『日本の芸道六趣──書・歌・連歌・能楽・花・茶』(中公新書:1983.07.25)【古¥250】

 三ノ宮商店街の古本屋で見つけた。いつか役にたつのではないかと思う。(10/14)


●ロマーン・ヤーコブソン『一般言語学』(川本茂雄監修,田村すゞ子他訳,みすず書房:1973.03.15)【¥5400】

 「言語学と詩学」が読みたくて。(10/14)


●渡辺京二『無名の人生』(文春新書:2014.08.20)【¥750】

 前々から読みたかった。図書館で借りて拾い読みをした短文集『万象の訪れ わが思索』が素晴らしかったので。(10/20)


●ジョン・ル・カレ『誰よりも狙われた男』(加賀山卓朗訳,ハヤカワ文庫NV:2014.09.15)【¥1040】

 読み飛ばすことのできない、緻密に書き込まれた重厚な虚構世界に浸りたくなった。ジョン・ル・カレ以外に思いあたらない。映画も観たい。(10/24)


●周防柳『逢坂の六人』(集英社:2014.09.10)【¥1700】

 紀貫之と六歌仙との人間ドラマ。「やまと歌の心と歴史の謎に迫る書き下ろし長編小説」とくれば、読まずにすますわけにはいかない。「おもしろう、ない な」。古今和歌集の序文に取り組む貫之のうめき声から始まる。(11/02)


●ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』(宇野利泰訳,ハヤカワ文庫NV:1978.05.31)【¥900】

 『スクールボーイ閣下』がみつからなくて。この本は昔読んだことがある。手にしたのは、今年9月に刊行された第35刷。(11/07)


●ジョン・ル・カレ『スクールボーイ閣下』上下(村上博基訳,ハヤカワ文庫NV:1987.01.31)【¥1200×2】

 神保町の三省堂で。(11/10)


●杉本秀太郎『見る悦び──形の生態誌』(中央公論新社:2014.09.25)【¥3500】

 ひさしぶりに古本屋街を歩いた。テーマはポール・クローデルの『朝日の中の黒い鳥』(講談社学術文庫)。探しつかれて、前々から気になっていた本書を三 省堂で購入した。(11/10)


●渡部泰明編『和歌のルール』(笠間書院:2014.11.01)【¥1200】

 放送大学の第7回が「藤原定家の方法」で、これはとても面白かった。最近、講師の渡部泰明氏の共著本(『読解講義 日本文学の表現機構』『絵でよむ百人一首』)、編集本(本書)、監修本(『うた変。2』)があいついで刊行された。(11/16)


●宇田亮一『吉本隆明 “心”から読み解く思想』(彩流社:2014.10.30)【¥1700】
●中沢新一編著『吉本隆明の経済学』(筑摩選書:2014.11.15)【¥1800】

 『和歌のルール』を買いにでかけた書店で、中沢本を見つけて立ち読みし、これはそのうち買い求めることになるだろうと直感した。2日後に、宇田本とあわ せて購入した。(11/18)


●三浦哲哉『映画とは何か──フランス映画思想史』(筑摩選書:2014.10.15)【¥1500】

 吉本本二冊を買った日に、中沢本と同じ筑摩選書から刊行されたばかりの本書の背表紙が目の隅に刻印された。その映像が日に日に鮮明になり、とうとう入手 した。
 本を読むことよりも買うことの方が主目的になりつつある。歳をとって体力が落ちているのに、心がそのことに気づかない。それとちょうど同じことが起きて いる。事故をおこすまえに生き方を変えなければ。(11/22)


●『文學界』平成二十六年十二月号【¥898】

 七月号から始まった永井均の連載「哲学探究──存在と意味」が第六回目。ツイッターに「立ち読みでも読める分量」[https: //twitter.com/hitoshinagai1/status/475239874262335488]と書いてあった。立ち読みではがまんで きなくなり、永井さんの文章を読むためだけに購入した。前回までの分はバックナンバーを揃えるか、図書館でコピーをするか。(11/24)


●西炯子『娚の一生』1〜4(フラワーコミックスα,小学館:2012.12.20〜2013.08.05)【楽天電子ブック¥432×4】

 海江田に似ていると人に言われて。(12/02)


●『別冊サンガジャパン1  実践! 仏教瞑想ガイドブック』(サンガ:2014.07.24)【¥2376】

 永井均と香山リカの対談が読みたくて。(12/03)


●『文學界』平成二十七年一月号

 七月号から十一月号までは図書館で借りてコピーをとった。連載がつづくかぎり定期購読することになるかもしれない。(12/09)


●『哲楽』第6号 [Kindle版] (MIDアカデミックプロモーションズ:2014.09.25)【¥545】

 特集「永井哲学の道のりと広がり」。編集者・田中さをりによる永井均と木村敏へのインタビュー。こんな本雑誌が出ていたとは知らなかった。 (12/11)


●吉本隆明『日本的なものとはなにか』(吉本隆明〈未収録〉講演集1,筑摩書房:2014.12.10)【¥1900】

 いま『日本のゆくえ』を読んでいて、吉本隆明の「語り口」が身中にしみこんでいる。全12巻の第一回配本。(12/13)


●米澤穂信『満願』(新潮社:2014.09.12[電子書籍版])【honto¥1382】

 短編ミステリーが電子書籍にあっている。(12/13)


●藤田一照・山下良道『アップデートする仏教』(幻冬舎新書:2013.11.27[電子書籍版])【honto¥903】

 この種の本は紙版で読むべき。そう思っていたのに、簡便さに負けてダウンロードした。(12/14)


●大今良時『聲の形』1〜7(講談社:2014.01.01〜2014.12.01[電子書籍版])【honto¥432×7】

 宝島社の「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位。タイトルに惹かれて。(12/24)


●安藤宏・高田祐彦・渡部泰明『特別講義 日本文学の表現機構』(岩波書店:2014.03.26)【¥3500】
●冲方丁『はなとゆめ』(角川書店:2013.11.06)【¥1500】
●杉田圭『うた変。2 限定版──超訳百人一首「うた恋い。」【異聞】』(メディアファクトリー:2014.09.21)【¥1500】

 今年の買い納め。和歌を軸とする古典文学をめぐる三つのアプローチ。(『はなとゆめ』は清少納言が主人公。)
 ほんとうは渡辺秀夫著『和歌の詩学──平安朝文学と漢文世界』(勉誠出版:2014.06.13)を入手したと思っていたが、税別で1万3千円の価格に 怯え、山中桂一著『和歌の詩学』(大修館書店:2003.03.01)を図書館で借りた。(12/28)


【読 了】

●ブライアン・フリーマントル『知りすぎた女』(松本剛史訳,新潮文庫:2006.03.01)

 4年ぶりのフリーマントル。チャーリー・マフィンものではない。物語の前半から後半の前段、そして後段へと、叙述の軸となる人物が入れ替わっていくのに うまく乗れず、やや興醒めな思いをしたが、それでも楽しめた。(08/04)


●吉村昭『高熱隧道』(新潮文庫:1975.07.25/1967)

 黒部ダムを見に出かけることになったので、石原裕次郎の『黒部の太陽』を観て、『高熱隧道』を読んで、気持ちをもりあげることにした。記録文学の面白さ に目覚めたように思う。(09/16)


●工藤美代子『絢爛たる醜聞 岸信介伝』(幻冬舎文庫:2014.08.05)

 おもしろかった。(10/01)


●原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮文庫:2014.07.01/2012)

 絶品。結末に疵。説明調。ヴァイラーの動機が? 孫娘が唐突。織江の決断の理由。これだけの疵があるのに、絶品。(10/15)


●三浦しをん『仏果を得ず』(双葉文庫:2011.07.14)

 よくできたテレビドラマを観ているような感じ。(10/20)


●ジョン・ル・カレ『誰よりも狙われた男』(加賀山卓朗訳,ハヤカワ文庫NV:2014.09.15)

 ジョン・ル・カレを読むのはかれこれ四半世紀ぶり。濃密な描写にめまいをおこしそうになる。はまると抜けられない。(11/06)


●西炯子『娚の一生』1〜4(フラワーコミックスα,小学館:2012.12.20〜2013.08.05)

 電子書籍で長編漫画を読むのは初めて。とても気持ちよかった。作品の水準が高い。(12/06)


●米澤穂信『満願』(新潮社:2014.09.12[電子書籍版])

 よくできた短篇群。堪能した。(12/19)


●ジョン・ル・カレ『スクールボーイ閣下』上下(村上博基訳,ハヤカワ文庫NV:1987.01.31)

 すこし時間をかけすぎて、最後はよくわからないままに終わった。(12/28)


●笠井潔・白井聡『日本劣化論』(ちくま新書:2014.07.10)(09/05)
●内田樹『日本の身体』(新潮社:2014.05.30)(09/13)
●フィリップ・ローソン『タントラの世界』(本園正興訳,青土社:2007.07.26)(09/15)
●山折哲雄『能を考える』(中公叢書:2014.03.2)(09/25)
●伊東邦武『九鬼周造と輪廻のメタフィジックス』(ぷねうま舎:2014.07.24)(09/27)
●與那覇潤『日本人はなぜ存在するか』(集英社インターナショナル:2013.10.30)(09/28)
●安田登『日本人の身体』(ちくま新書:2014.09.10)(09/29)
●永井均『哲おじさんと学くん──世の中では隠されているいちばん大切なこと』(日経プレミアシリーズ:2014.09.08)(10/24)
●渡辺京二『無名の人生』(文春新書:2014.08.20)(11/07)
●丸山圭三郎『生命と過剰』(河出書房新社:1987.11.5)(11/16)
●『哲楽』第6号 [Kindle版] (MIDアカデミックプロモーションズ:2014.09.25)(12/15)
●宇田亮一『吉本隆明 “心”から読み解く思想』(彩流社:2014.10.30)(12/28)

 内田本と安田本(と読むきっかけがつかめないでいる安田登『身体感覚で『芭蕉』を読みなおす。』)は、できればひとまとめにしてきちんと「書評」を書い ておきたい。
 笠井・白井本は與那覇本(や読みかけのまま中断している東島誠・與那覇潤『日本の起源』、読了後未整理のまま放置している白井聡『永続敗戦論』や赤坂真 理『愛と暴力の戦後とその後』、いま手元において眺めている朴裕河『帝国の慰安婦』)とともにきっちり反芻しておきたい。
 伊東本は九鬼文学論の「勉強」のための参考書にしたい。永井本は『文學界』連載分とあわせてそろそろ本気でとりくみたい。宇田本はよくできている。等 々。思うところは多々ある。