不連続な読書日記(2014.01-03

 


【購入】

●小林秀雄ほか『小林秀雄対話集──直観を磨くもの』(新潮文庫:2014.01.01)【¥710】

 今年の初買い。
 講談社文芸文庫版の「対話集」が中断したまま。装丁、活字の組み方は新潮文庫版が気に入った。十二人の対談者のうち福田恆存、大岡昇平、永井龍男、河上 徹太郎の四人が文芸文庫版とかぶっている。
 河上徹太郎との「歴史について」はその音源が「小林秀雄最後の日々」を特集した『考える人』(2013年春号)の付録CDで公開されていた。「対談」よ り「対話」がこの人の話芸に相応しい。できればすべて耳で読みたい。(01/03)

●鎌田東二『歌と宗教──歌うこと。そして祈ること』(ポプラ新書:2014.01.07)【¥780】

 「人に笑われるリッパな神道ソングライターに」の覚悟で15年。鎌田東二の歌の思想を知りたくて。(01/13)


●柄谷行人『遊動論──柳田国男と山人』(文春新書:2014.01.20)【¥800】

 昨年読んだ『柳田国男論』がめっぽう面白かった。文学界に連載されたのを読まずに我慢して新書がでるのを心待ちにしていた。(01/17)


●黒瀬陽平『情報社会の情念──クリエイティブの条件を問う』(NHKブックス:2013.12.20)【¥1000】

 情報社会の「本当の」クリエイター(作者)はインターフェイス(表層)のデザイナーかプラットホーム(深層)の運営に携わるエンジニアか。
「人間の創造性(=作者性)」か「環境[プラットフォーム]の生成力[ジェネレイティビティ]」(49頁)か。──もしくは2チャンネル(SNS)、ニコ ニコ動画、初音ミク、ピクシブといった「インターネットのなかに作られた個別の環境、つまりプラットフォーム」(39頁)に宿るクリエイティビティ(39 頁)か。(01/19)


●弘兼憲史『情愛 島耕作』(講談社:2013.06)【楽天電子ブック¥525】
●大沢在昌『鮫島の貌 新宿鮫短編集』(光文社:2014.01)【楽天電子ブック¥525】
●有栖川有栖『幻坂』(メディアファクトリー:2013.12)【楽天電子ブック¥1238】

 電子書籍でいちばん馴染むのはどのジャンルか試行錯誤。(01/24)


●『芸術新潮』2014年2月号[特集|英国ヴィクトリア朝美術の陶酔〕(新潮社:2014.01.25)【¥1333】

 いちばん好きなのはラファエル前派の絵画かもしれない。(01/25)


●山鳥重『脳からみた心』(角川ソフィア文庫:2013.07)【楽天電子ブック¥590】

 この本はかねてから目をつけていた。いつか読まねばならぬと思っていた。(02/02)


●大西克礼『幽玄・あはれ・さび』(大西克礼美学コレクション1,書肆心水:2012.12.30)【¥5200】
●吉本隆明『源実朝』(ちくま文庫:1990.01.30)【¥800】
●保田與重郎『後鳥羽院(増補新版)』(保田與重郎文庫4,新学社:2000.01.08)【¥950】
●安田登『異界を旅する能 ワキという存在』(ちくま文庫:2011.06.10)【¥740】

 久しぶりの大人買い(というほどの冊数でもないか)。
 和歌と連歌と俳諧、能・人形浄瑠璃・歌舞伎、茶の湯を起点に花、書、香、そして美術建築工芸へと、日本の美学に関連する書物を集中的に読みたいと思って いる。ここ数年ずっと思いつづけている。(02/08)

 昨年読んだ田中久文著『日本美を哲学する』が面白かった。
 「大西の説く「あはれ」・「幽玄」・「さび」についての議論を、西田幾多郎、唐木順三、井筒俊彦らを援用しながら追いかけ」(第一部)、また「大西の議 論を中心におき、柳宗悦や久松真一らを援用しながら、日本と西洋との「芸術」に関する見方の根本的な相違点を明らかにする」(第二部)。
 「はじめに」にそう書いてある。
 ぱらぱらと眺め返して、やはり大西克礼の原著にあたらなければならぬと思った。「コレクション1」は『幽玄とあはれ』と『風雅論──「さび」の研究』を 収める。

●夏目漱石『夢十夜』(オリオンブックス:2013.10)【楽天電子ブック¥100】

 安田登さんの朗読(第三夜)をユーチューブ[https://www.youtube.com/watch?v=GaqUZFJWrKk]で観た。漱石 が謡を本格的に習いだしたときに書いた作品で、能そのものの構造をもっているという。(02/11)


●飯田隆・丹治信春・野家啓一・野矢茂樹編『大森荘蔵セレクション』(平凡社ライブラリー:2011.11.10)【¥1700】

 いつか買って常備しておかねばと思っていた。『流れとよどみ』と『時間と自我』『時間と存在』『時は流れず』の晩年の三部作は家宝のように所蔵してい る。(02/12)


●有栖川有栖『ロシア紅茶の謎』(講談社文庫:2013.06)【楽天電子ブック¥473】

 『幻坂』が素晴らしかったので、楽天の講談社本のフェアで評判が高かった短編集を選んだ。(02/17)


●大西克礼『東洋的芸術精神』(大西克礼美学コレクション3,書肆心水:2013.05.30)【¥6400】

 楽天のポイントがたまっていたので、日本芸術の「パントノミー」的構造をめぐる議論にふれたくて。(02/19)


●大西克礼『自然感情の美学──万葉集論と類型論』(大西克礼美学コレクション2,書肆心水:2013.02.28)【¥5400】

 ここまできたらすべて揃えておきたくなって。(02/26)


●坂部恵『不在の歌──九鬼周造の世界』(TBSブリタニカ:1990.12.17)【古¥1000】

 井筒俊彦と丸山圭三郎を比較し援用しながら和歌と言語哲学を論じ、吉本隆明と九鬼周造を比較し援用しながら和歌と文学を論じる。そんな構図がおぼろげに 浮かんでいる。
 『不在の歌』は近所の図書館に置いてなかったので、ネットで探して「古書 花布(あかいはなぎれ)」で購入した。(03/01)


●サリンジャー『フラニーとズーイ』(村上春樹訳,新潮文庫:2014.03.01)【¥630】

 2年ほど前に野崎孝訳の「フラニー」を読み、事情があって「ゾーイー」は読まないままだった。
 フラニーとレーンのちぐはぐな会話、というかフラニーの独言と失神で構成される緊迫した時間の流れが、完璧に計算され尽くした文章の配合によって瞬間凍 結され、誰かによって読まれるたび息をふきかえし再び上演される。そんな読後感が鮮やかに残っている。(03/02)


●内田樹・中田考『一神教と国家──イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(集英社新書:2014.02.19)【¥760】

 どこか怪しく如何わしい風貌の二人。この「怪しく如何わしい」を言い換えたら「カワユイ」になるか。(03/02)


●今野真二『かなづかいの歴史──日本語を書くということ』(中公新書:2014.02.25)【¥860】

 会合までの時間潰しに立ち寄った三ノ宮駅のブックファーストで。会費の支払いに備えて万札を両替するために。
 この本に続いて『日本語の近代──はずされた漢語』(ちくま新書)が出ている。『日本語のミッシング・リンク──江戸と明治の連続・不連続』(新潮選 書)が近刊。(03/05)


●井筒俊彦『禅仏教の哲学に向けて』(野平宗弘訳,ぷねうま舎:2014.01.23)【¥3600】

 最近、西平直著『無心のダイナミズム──「しなやかさ」の系譜』の第五章で、1969年のエラノス学会での井筒俊彦の講演“The Structure of Selfhood of Zen Buddhism”がとりあげられているのを読み、あわせて井筒本人の「日本語訳」(『コスモスとアンチコスモス』所収の「禅的意識のフィールド構造」) を読んだ。
 本書には、そのエラノス講演が元になった「無位の真人──禅におけるフィールド覚知の問題」が収められている。(03/06)


●図録『ターナー展』(神戸市立博物館)【¥2400】
●山城祥二編『仮面考 シンポジウム』(リブロポート:1982.04.01)【古¥950】

 平日に休みをとり、高齢の団体客でごったがえす(というほどの混雑ではないが、想像以上に多かった)神戸市立博物館に出向き、2時間近く滞在してター ナーに浸った。ラファエル前派よりターナーの方がほんとうは好きかもしれない。
 帰りに三宮センター街のあかつき書房に立ちって、30年も前に刊行されていた「仮面」をめぐるシンポジウムの記録を発掘した。四部構成の第三部「仮面の 体験─憑依(トランス)の構造」を坂部恵が仕切っている。(03/06)


●古井由吉『鐘の渡り』(新潮社:2014.02.25)【¥1600】

 「現代文学の最高峰を示す連作八篇」と帯にあったのが気になって。和歌、俳諧を思わせる題名が気に入って。はじめての古井由吉。
 書き始めの文章を少し読むと、『未明の闘争』(保坂和志)の冒頭が思い浮かぶ。この本はもうかれこれ半年も読まずにとってある。そろそろ潮時かと思い始 めている。
 牛島孝[http://ushijimako.net/]の装画が素晴らしい。(03/08)


●アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル[上]──追いつめられた金融エリートたち』(加賀山卓朗訳,ハヤカワ文庫: 2014.02.15)【¥940】
●アンドリュー・ロス・ソーキン『リーマン・ショック・コンフィデンシャル[下]──倒れゆくウォール街の巨人』(加賀山卓朗訳,ハヤカワ文庫: 2014.02.15)【¥940】

 電子ブックで漱石の『行人』(青空文庫版)を読み始めたが続かない。いまひとつ気分が乗らない。北欧ミステリーかなにかじっくり書きこまれた極上のエン タテインメントを読みたくて物色しているうち本書が目にとまった。(03/08)


●若松英輔『岡倉天心『茶の本』を読む』(岩波現代文庫:2013.12.17)【¥900】

 井筒俊彦(井筒豊子)と丸山圭三郎の言語哲学、吉本隆明と九鬼周造の文藝論を「合金化」した和歌論を構想している。井筒俊彦と九鬼周造をむすびつける媒 介を探していて本書にいきついた。
 あとがきに「言葉は生きている。生きていなければ、どうして言葉が人間の魂を揺り動かすことがあるだろう。」とある。この言葉を真に受けてみることか ら、「合金化」の作業は始まる。(03/13)


●『書を知る』(サンエイムック・大人の趣味シリーズ:三栄書房:2014.04.28)【¥1143】

 小学校高学年まで、父親の書道教室で毎週日曜、習字の練習をしていた。
 その記憶とここ数年の和歌への関心から、かなへの興味がしだいに高じ、ある日とうとう筆と半紙を買い、図書館で借りた入門書を手本に書き始めてみたら、 気持ちがしずまってとても感じがいい。本格的にはじめてみようかと思い始めている。英語やDTMはつづかないが書道はもしかしたらつづくかもしれない。 (03/16)


●安田登『身体感覚で『論語』を読みなおす。──古代中国の文字から』(春秋社:2009.11.20)【¥1700】

 孔子の時代の文字に直して『論語』を読む。面白い。どうしてこの本のことをこれまで知らなかったのだろう。『身体感覚で「芭蕉」を読みなおす。』もあわ せて購入したかったが、まずは『論語』篇を読んでからの楽しみに。(03/17)


●安田登『身体感覚で『芭蕉』を読みなおす。──『おくのほそ道』謎解きの旅』(春秋社:2012.01.20)【¥1800】

 堪え性がなく、『論語』をしあげるまえに『芭蕉』に手をだした。(03/22)


●柳田国男『「小さきもの」の思想』(柄谷行人編,文春学藝ライブラリー:2014.02.20)【¥1480】

 『遊動論』を買ったときに刊行が予告されていた。心待ちにしていたのに、気がついたら新聞に書評が掲載されていた。
 ドゥルーズによるベルクソン・アンソロジー(『記憶と生』)のように、柄谷行人による「解題」を丹念に読みこみながら、まだこの世に現われていない(自 分だけの)書物を造形していこう。(03/26)


●山折哲雄『能を考える』(中公叢書:2014.03.25)【¥1600】
●アンリ・ベルクソン『精神のエネルギー』(原章二訳,平凡社ライブラリー:2012.02.10)【¥1500】

 気になる本を買い始めたらとまらなくなった。山折本は定期的に読んでいる。ここ十年ほどの間に『愛欲の精神史』『みやびの深層』『「歌」の精神史』『こ ころの作法──生への構え、死への構え』。
 梅田のジュンク堂で探していて、ついでにベルクソンも買った。『精神のエネルギー』はレグルス文庫版(宇波彰訳)を愛読してきた。(03/28)


【読了】

●中畑正志『魂の変容──心的基礎概念の歴史的構成』(岩波書店:2011.06.28)

 山内志朗著『「誤読」の哲学』から本書へ。本書から神崎繁著『魂(アニマ)への態度』へ。
 山内本では「媒介の喪失と観念の参入」(=「三項関係から二項関係への移行」)や「虚(構)体」といった議論や語彙が濃く記憶に残った。本書でとくに強 く印象に残ったのは、「われわれの世界は認知されるべく自らを潜在的な情報源として提示しており、魂の能力は、そのような世界のあり方を示す情報を受容す る能力それ自身である」という「アリストテレス的なヴィジョン」と、「歴史性に注目して考察することは、自然科学の仕事ではなく人文学の課題である」とす る「心の人文学」をめぐる議論。
 「語りの様式とヴィジョン」や「ファンタシアー」や「志向性」をめぐる話題も面白かった。(01/04)


●安田登『あわいの力──「心の時代」の次を生きる』(ミシマ社:2014.01.06)

 正月休みに読み始め、サクサクと流し読みをするつもりが、内容の深さと濃さと拡がり、汎用性の広さに驚き、一頁一頁、一文一文、一語一語、はては行間に まで気をやって読み終えた。(01/11)


●小浜逸郎『日本の七大思想家──丸山眞男/吉本隆明/時枝誠記/大森荘蔵/小林秀雄/和辻哲郎/福澤諭吉』(幻冬舎新書:2012.11.30)【楽天 電子ブック】

 初めての電子ブック体験。全体の分量が感覚的につかめないのが苦痛だし、後で文章を確認するのに苦労する。議論ではなく物語に溺れるのに向いているので ないかと思う。(01/12)


●鎌田東二『歌と宗教──歌うこと。そして祈ること』(ポプラ新書:2014.01.07)

 神道シングライター・鎌田東二のパフォーマンスは(ユーチューブで見るかぎり)まだ少しイタイところがある。怪しく如何わしい芸の域に達するにはあと 600年はかかると思う。
 でもこの本にはその未完成の芸能の本質が完璧に理論化され余すところなく叙述されている。能が生まれる前に書かれた能楽書のような趣がある。
 鎌田東二にしか書けない和歌(古今、新古今)論、能楽論、俳諧論が惜しげもなく盛り込まれている。とくに「俳句アニミズム論」とその解説は圧巻。 (01/18)


●田中泯×松岡正剛『意身伝心――コトバとカラダのお作法』(春秋社:2013.07.25)

 対談の圧巻は田中泯と松岡正剛が語る「恋愛観」。二人の関係に嫉妬を感じながら読んでいた。このところ松岡正剛さんにあまり如何わしさ、怪しさを感じな くなりかけていたけれど、やはりこの人は「ホンマモン」だと思った。(01/19)


●黒瀬陽平『情報社会の情念──クリエイティブの条件を問う』(NHKブックス:2013.12.20)

 一気に読み切ってあとで頭の整理をしておかなかったものだから、読後感が拡散してしまった。面白かったのかそうでもなかったのか、はては、はたして読ん だかどうかさえ曖昧になってしまったが、もう一度読み返す価値はあった。
 九鬼周造、岡本太郎、寺山修司の名が記憶に残っている。とくに寺山修司。(01/20)


●神崎繁『魂(アニマ)への態度──古代から現代まで』(双書哲学塾,岩波書店:2008.3.25)

 以前、買ってすぐ読み始めて、なぜか途中で放置していた。こんど(なかば必要に迫られて)読み返して、テーマも素材も興味深いし、そしてなによりあの 『プラトン序説』の著者が書いた本なのに、なぜだか難渋してようよう最後までたどりつけた。(01/25)


●ダン・ブラウン『インフェルノ(上下合本版)』(越前敏弥訳,角川e文庫:2013.11.28)【楽天電子ブック】

 電子書籍で読むにはこの種の没頭本がよい。(01/28)


●柄谷行人『遊動論──柳田国男と山人』(文春新書:2014.01.20)

 柳田国男は二種類の遊動性(遊動民)を区別した。日本列島に先住し農耕民に滅ぼされた「山人」と、移動農業・狩猟を行う「山民」や工芸・武芸を含む「芸 能的漂白民」。「国家に抗する」タイプの遊動民と、「常民」(定住農民)の共同体を媒介しこれに依存しつつ国家(王権)と結びつく遊動民。
 『柳田国男論』に収められた「柳田国男試論 一九七四年」を超えるところがあるとしたら、この(「交換様式の4つの形態」に通じる)「二種類の遊動性」 をめぐる議論なのだろう。『哲学の起源』ともどもいつかまとめて再読の上、吟味したい。(01/30)


●弘兼憲史『『島耕作』30周年スペシャルエディション 大町久美子セレクション 永遠の伴侶』(講談社:2013.06)【楽天電子ブック】
●弘兼憲史『『島耕作』30周年スペシャルエディション 大町久美子セレクション 永遠の恋人』(講談社:2013.06)【楽天電子ブック】
●弘兼憲史『情愛 島耕作』(講談社:2013.06)【楽天電子ブック】

 懐かしい。(02/02)


●大沢在昌『鮫島の貌 新宿鮫短編集』(光文社:2014.01)【楽天電子ブック】
●有栖川有栖『幻坂』(メディアファクトリー:2013.12)【楽天電子ブック】

 大沢本はファン心理をくすぐる短編集。
 有栖川有栖の『幻坂』はどの短篇も絶品。とくに「枯野」と「夕陽庵」。これほどの書き手だったとは。(02/02)


●松岡心平『能の見方』(角川ソフィア文庫:2013.8.24)【楽天電子ブック】(02/13)
●佐々木閑『科学するブッダ──犀の角たち』(角川ソフィア文庫:2013.10.25)【楽天電子ブック】(02/25)
●山鳥重『脳からみた心』(角川ソフィア文庫:2013.07)【楽天電子ブック】(02/28)

 偶然、角川ソフィア文庫が三冊つづいた。どれも再読本だが、電子版は拾い読み、部分読みに不向き。佐々木本が収穫だった。


●前田英樹・安田登『からだで作る〈芸〉の思想──武術と能の対話』(大修館書店:2013.07.01)

 安田登さんが「あとがき」に「本書は、かなり濃いです」と書いている。「特に第一部は……お好きなもので割って、還元してお読みいただければ」とも。ほ んとうに濃いと思うし、適度に希釈して読まないと下してしまう。
 第一部はたしかに素晴らしかったが、第三部も捨てがたい。桧山うめ吉という俗曲師を知ったことは大きな成果。ユーチューブで毎日繰り返しうめ吉の都々逸 を聴いている。(02/15)


●安田登『異界を旅する能 ワキという存在』(ちくま文庫:2011.06.10)

 「うた」は「打つ」ことという語源説があるという。「あるものを打って、感じさせて動かしてしまう、まさしく感動させるのが歌だった。そう考えると鼓を 「打つ」のも同じ「うた」だ(鼓を「たたく」とは言わない)」(240頁)。ほんの一例だが、こんな話題がふんだんにでてくる。
 松岡心平さんの『能の見方』と同時に読みすすめていた。(02/21)


●夏目漱石『夢十夜』(オリオンブックス:2013.10)【楽天電子ブック】(02/24)
●有栖川有栖『ロシア紅茶の謎』(講談社文庫:2013.06)【楽天電子ブック】(02/27)

 夢十夜は上質の紙の本で読むべき。『ロシア紅茶』はよくできた短編集だと思うが『幻坂』のあとでは印象が弱い。
 

●杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。4』(メディアファクトリー:2013.12.15)

 うた恋い。の公式サイト[http://www.utakoi.jp/index.html]から杉田圭公式サイト「カボラボ」[http: //www.cabolab.info/]へ。Gallery. が素晴らしい。アニメ版[http://www.videomarket.jp/title/100011?cup=- VM_Youtube_t100011_2&ra=Youtube]も捨てがたい。(03/01)


●『坂部恵集1 生成するカント像』(岩波書店:2006.11.7)

 あの頃はこの著作集を刊行と同時に買い求めることが生きている証であるかのように感じていた。これまで部分的にくりかえし読んできたが通読するのははじ めて。できれば全巻まっとうしたい。(03/02)


●前田英樹『ベルクソン哲学の遺言』(岩波現代全書:2013.0820)

 半年ほどかけて断続的に読み進めた。
 前田英樹の本を読むことは、身体のなかを竜巻がかけめぐるのを経験するのに等しい。精神をカンナで削られる体験といってもいい。(『言葉と在るものの 声』のときもそうだった。)
 坂部恵と大森荘蔵、ベルクソンとベンヤミンを系統的に読み進めようと決めている。(03/04)


●吉本隆明『源実朝』(ちくま文庫:1990.01.30)

 力のこもった評伝。6年後に刊行された『初期歌謡論』(1977年)の和歌(史)論の原型となるアイデアが、ほぼ完成形で記されている。(03/10)


●内田樹・中田考『一神教と国家──イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(集英社新書:2014.02.19)

 領域国民国家のつぎにくる(だろう、あるいはべき)二つのグローバリズム、世界をフラット化するアメリカン・グローバリズムとカリフ制再興のもとでの 「イスラーム世界というオルタナティブ」。
 「法人概念がムスリムの最大の敵」だという中田考の発言。「左翼には共同体論がない。共生の作法を知らない」という内田樹の発言。等々。記銘すべき発 言、議論は数多い。(03/14)


●サリンジャー『フラニーとズーイ』(村上春樹訳,新潮文庫:2014.03.01)

 バスタブから始まるズーイとベッシ―の会話、スタインウェイのグランド・ピアノがある居間でのフラニーとズーイの会話と(喋っているのはほとんどズーイ だが)、啜り泣くフラニーを残してシーモアとバディーの古い部屋で受話器を取り上げ市内局番を回すズーイ、ミセス・グラスが取り次いだバディーことズーイ からの電話を受けるフラニー。
 この四つの場面からなる四重奏曲の最後に登場するファット・レディーことイエス・キリスト。その前に、一茶の句(かたつぶりそろそろ登れ富士の山)と無 門関が引用され、慧能の名が(イエス、仏陀、シャンカラと並んで)でてくる。命がけの言葉の噴出。(03/14)


●井筒俊彦『禅仏教の哲学に向けて』(野平宗弘訳,ぷねうま舎:2014.01.23)

 これは井筒俊彦の文体ではない。井筒俊彦の文体ではないのに、紛れもない井筒俊彦の論考の世界がひろがっている。とても新鮮な感覚だった。
 東アジアの絵画と書道をめぐる議論をマクラにふった「禅ぶおける内部と外部」、「非表現」をめぐる水墨画と能と芭蕉俳句の関係に説き及んだ「東アジアの 芸術と哲学における色彩の排除」の二篇が収穫だった。(03/16)


●古井由吉『鐘の渡り』(新潮社:2014.02.25)

 水墨画のような写真か墨色の映画(その画面には連句の切れ端が浮かび上がっている、まるで屏風歌のように)を眺めているようだった。その印象は装画(牛 島考)からくるだけではないだろう。
 霧に包まれ輪郭の定かならぬ松林のような、掠れて判読不能となった文字のような、重なり希薄化する主語と前後が曖昧に多義化する記憶群とがモノトーンの 朦朧とした構図のなかに、それでもくっきりと濃い蟠りを残してすぎていった。
 アルヴォ・ペルトの音楽を流しながら読んだ。(03/16)