不連続な読書日記(1998.1〜1998.6)


★1998.1

 

☆加藤尚武『20世紀の思想 マルクスからデリダへ』(PHP新書 '97)

 20人の哲学者の思索のさわりを紹介しその限界と問題点を短評。以外と面白い。

 

☆司馬遼太郎『菜の花の沖 (五)』(文春文庫)

 ロシア事情やレザノフその他の物語が中心で嘉兵衛がほとんど出てこない。退屈。

 

☆司馬遼太郎『菜の花の沖 (六)』(文春文庫)

 ようやく物語が佳境に入り、抑えた文体通して作者の感動が伝わってくる。

 

☆佐和隆光『地球温暖化を防ぐ 20世紀型経済システムの転換』(岩波新書 '97)

 経済学の面白さが満喫できる。政策に携わる者にとって本書第3章は必読だろう。

 

☆瀬名秀明『ブレイン・ヴァレー』上下(角川書店 '97)

 いいところまでいっているがラストに疑問が残る。システムとしての生命、神。

 

☆藤縄謙三『ホメロスの世界』(新潮選書)

 オデユッセイア=「英雄叙事詩+民話」「女の国・地下の国の漂泊譚」説が刺激的。

 

☆ハンナ・アレント『人間の条件』(志水速雄・ちくま学芸文庫)

 インターネット上の読書会で一年かかって読み終えた。たぶん深い影響を受けている。

 

★1998.2

 

☆藤沢令夫『プラトンの哲学』(岩波新書)

 プラトンへの関心がピークに達したときに刊行された。こういうことが時々ある。

 

☆モーティマ・J・アドラー『天使とわれら』(稲垣良典・講談社学術文庫)

 調べものがあって読み流すつもりが思わぬ拾い物だった。

 

☆エリック・A・ハヴロック『プラトン序説』(村岡晋一・新書館)

 昨年暮れ出版された日に衝動買いをした。久しぶりに勘が冴えていた。

 

★1998.3

 

☆野村修編訳『暴力論批判 ベンヤミンの仕事1』(岩波文庫)

 刺激的だがわからないところが多い。批評は謎めいているが散文は素晴しい。

 

☆野村修『ベンヤミンの生涯』(平凡社)

☆ピーター・ゲイ『神なきユダヤ人』(入江良平訳,みすず書房)

 いずれも拾い読み。

 

☆落合仁司『〈神〉の証明』(講談社現代新書)

 優れた啓蒙書。

 

☆石川修武『住宅道楽』(講談社選書メチエ)

 これはとても素晴しい本だった。

 

★1998.4

 

☆長谷川尭『都市回廊 あるいは建築の中世主義』(相模書房)

 十年前、中公文庫で読んだ。再読して、深い影響を受けていたことに驚く。

 

☆岩渕潤子『美術館の誕生』(中公新書)

 実に文章がいい。

 

☆篠田一士編『谷崎潤一郎随筆集』(岩波文庫)

 「私の見た大阪及び大阪人」と「陰翳礼讃」を二回読んだ。時を忘れさせられた。

 

☆東秀紀『荷風とル・コルビュジエのパリ』(新潮選書)

 日曜の午後、午睡をはさんで読んだ。酔った。

 

☆田島正樹『哲学史のよみ方』(ちくま新書)

 面白い試み。もっと刺激的な書き方もできるはず。

 

☆スメート・ジュムサイ『水の神ナーガ』(鹿島出版会)

 副題は「アジアの水辺空間と文化」。東南アジア大陸、木の文化、両生建築、フラー。

 

☆志水辰夫『情事』(新潮社)

 読後、喪失感が漂う。結構の破格が刺となって、少し苦い味わいが残る。

 

☆矢作俊彦『ポルノグラフィア』(小学館)

 文章がすべてのジャンル。物語の破片。言葉となった肢体。時間と感覚の細部。

 

☆松谷健二『旅する石工の伝説』(新潮社)

 フォレット『大聖堂』を薄めて実録風にした感じ。物語の過剰が抑制されてやや秀逸。

 

☆堀田善衛・加藤周一『ヨーロッパ・二つの窓』(朝日文芸文庫)

 北と南、トレドとベネツィア。スペインが面白くなった。

 

☆加藤典洋編『村上春樹 イエローページ』(荒地出版社)

 実に面白い「読み」。ムラカミ・ハルキをまとめて読みたくなった。

 

☆河合隼雄・村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(岩波書店)

 デタッチメントとコミットメント。河合さんはなんでも分かってしまう。

 

★1998.5

 

☆香山リカ『自転車旅行主義』(青土社)

 不思議な味わいがある。可能世界意味論。

 

☆オギュスタン・ベルク『都市のコスモロジー』(篠田勝英・講談社現代新書)

 ベルクの議論はあまり好きではないけれど、この本の「日米欧都市比較」はよかった。

 

☆落合仁司『トマス・アクィナスの言語ゲーム』(勁草書房)

 タイトル論文だけ読んだ。分析哲学が面白くなってきた。

 

☆マルセル・プルースト『失われた時を求めて 5』(井上究一郎・ちくま文庫)

 第三篇「ゲルマントのほう」読了。文庫本全十冊の半分が終わった。二年かかった。

 

☆星川啓慈『言語ゲームとしての宗教』(勁草書房)

 期待していた収穫がなかった。走り読みゆえか。

 

☆三浦俊彦『可能世界の哲学』(日本放送出版会)

 ブックガイドがいい。ロジカル・ハイという言葉もよい。

 

☆酒井健『バタイユ入門』(ちくま新書)

 フォルスとピュイサンス。

 

☆村上春樹『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』(講談社文庫)

 批評心を刺激する作品群だ。

 

☆治部眞里・保江邦夫『脳と心の量子論』(講談社ブルーバックス)

 金を捨てた思い。印税が来年の意識科学国際会議の運営費に充てられるのならいいか。

 

☆長尾重武『建築家レオナルド・ダ・ヴィンチ』(中公新書)

 天才ダ・ヴィンチ、建築家ダ・ヴィンチについてもっと読みたかった。

 

☆エリエット・アベカシス『クムラン』(鈴木敏弘・角川書店)

 「ピンナップガールの容姿を備えた若きアグレジェ」の作。期待が大きすぎたか。

 

☆新宮一成『無意識の組曲』(岩波書店)

 書店で見つけてずっと気になっていた書物。勘は冴えていた。

 

★1998.6

 

☆辻井重男『暗号』(講談社選書メチエ)

 パブリック・キーとプライベート・キー。意識と無意識、表現と解読、自己と他者。

 

☆高津道昭『レオナルド=ダ=ヴィンチ 鏡面文字の謎』(新潮選書)

 左利きだったからではない。鏡を見ながら書いたか、将来の印刷に備えて。

 

☆中沢新一・鶴岡真弓・月川和雄『ケルトの宗教 ドルイディズム』(岩波書店)

 中沢の「息子による宗教」と鶴岡の「古代創造」。

 

☆『金子國義アリスの画廊』(美術出版社)

 澁澤龍彦は金子の絵を初めて見て(それも壁面いっぱいの)たちつくした。

 

☆永井均『これがニーチェだ』(講談社現代新書)

 いつもの明晰さがないのは読み手の側の問題か。

 

☆井上太郎『モーツアルトの「いき」の構造』(新潮社1989)

 「エロスと死の交響──《ドン・ジョヴァンニ》をめぐって」を読みたくて。

 

☆金成陽一『誰が「ねむり姫」を救ったか』(大和書房1993)

 いくつかの情報は得られた。

 

☆黒川信重『数学の夢 素数からの広がり』岩波高校生セミナー4(1998)

 こういう本を探していた。数式の鑑賞でひとときを過ごした。

 

☆鹿島茂『『パサージュ論』熟読玩味』(青土社1996)

 評論のお手本。ベンヤミンを引用することの楽しさ(と怖さ)に満ちた書物。

 

☆鈴木晶『グリム童話 メルヘンの深層』(講談社現代新書1991)

 メルヘンの精神分析的解釈の「いかがわしさ」とイデオロギー分析の有効性。

 

☆池内紀『モーツアルト考』(講談社学術文庫)

 愉楽の書。第5章「オペラの魅惑」が秀逸。

 

☆高橋哲哉『デリダ──脱構築』(講談社)

 優等生が書いたレポートのような本。デリダの凄味が伝わってこない。

 

☆村上春樹『世界の終りとハード・ボイルドワンダーランド』上下(新潮文庫)

 ついに「無意識」が構造化された。不死性の時間構造論が秀逸。