不連続な読書日記(2012.08-10)



【購入】

●内田樹『街場の文体論』(ミシマ社:2012.7.30)【¥1600】

「「アナグラム」「エクリチュール」「リーダビリティ」「宛て先」……こうしたトピックを有機的に関連づけながら、「生きた言語とは何か」を語る。
 「この本がたぶん文学と言語について、まとまったものを書く最後の機会になると思います。そういう気持ちもあって、「言いたいこと」を全部詰め込みまし た」(あとがきより)
 三十年におよぶ教師生活の最後の半年、著者が「これだけはわかっておいてほしい」と思うことを全身全霊傾け語った「クリエイティブ・ライティング」14 講。「街場シリーズ」最高傑作、誕生!(08/02)

●中沢新一『野生の科学』(講談社:2012.8.1)【¥2200】

 たしか8月ときいていた(結局、10月になったらしい)「大阪アースダイバー」より先に本書が刊行された。「諸科学を統一する深層の原論[エレメン ト]」を探求した「思考作品」を集めた本だと序文に書いてある。この「思考作品集」というジャンル名がとても気に入った。目次を眺めているだけで幸せな気 分になる。帯の文章(面妖な語彙群が鏤められている、頭に女性器を置く?)が秀逸だと思うので、全文抜き書きしておく。(08/09)

T─野を開く環
モダン科学を乗り越えるインターフェイスの思想の原型を現代数学に求め、農業と数学における自然過程を探り、マルクス、ラカン、レヴィ=ストロースが試み た、交差[キアスム]を起こす〈不思議な環〉を組み込んだ新しい人間科学を提示する。理性の座=頭に女性器を置くときに、発生する神話的思考の「ねじれ」 とは?
市場で働くふたつのカタラクシー原理による「来るべき経済学」とは? 「穴の幾何学」によって言葉と無意識の心的トポロジーを解明する。

U─知のフォーヴ
「民藝」が示す「無分別」と贈与にもとづく世界へのヴィジョンとは? 深沢七郎の「ゲヒン」な文学が持つ、奥深さと「普遍的人間」への敬愛を語り、真のアニミズムの可能性を拓く。
クラ交易に潜在する多重的な意味を読み解く。アール・ブリュット、アール・イマキュレ、現代美術と心の構造の関係、そして曼荼羅が表現する「心そのもの」 に迫る。

V─空間の野生化
アースダイバーは、稲荷山(京都・伏見)、甲州(山梨)、熱海へと赴く。バベル型とストゥーパ型、塔の背後にある思想を抉り出す。
危機の分岐点を「Y字路」と呼んだ横尾忠則作品の秘密とは? 「土地」が人間の脳に引き起こす野生の活動の本性とは?

W─付録─「自然過程」と「モジュール・ケネー」について

●マルク・エルスベルグ『ブラックアウト』上・下(猪股和夫・竹之内悦子訳,角川文庫:2012.7.25)【¥781×2】

上「電力送電線の異常によりイタリアとスウェーデンで突然発生した大停電は、瞬く間に冬のヨーロッパ全域へと拡大した。交通網をはじめ全ての社会インフラ は麻痺し、街では食品の奪い合いや暴動が多発。原子力発電所でも異常が発生。完全に機能不全に陥った世界で、イタリア人の元ハッカー、ピエーロ・マン ツァーノは、この前代未聞の事態が人為的に引き起こされた可能性に気づく。衝撃のリアリティでおくるサスペンス巨編!」
下「ユーロポールの捜査に協力するマンツァーノだったが、災害の首謀者として疑われ、身柄を拘束されてしまう。隙を見て逃走したマンツァーノは、スクープ の匂いをかぎつけたCNNのカメラマン、ローレン・シャノンと合流。犯行グループからもつけ狙われる中、混乱を極める欧州を駆け巡り、事件の真相に迫る。 一方、大停電はついに米国へも波及、世界に崩壊の時が近づこうとしていた。超弩級のスリラー、緊迫のクライマックス!」(08/19)

●島田裕巳『映画は父を殺すためにある──通過儀礼という見方』(ちくま文庫:2012.5.10/1995)【¥800】

「映画には見方がある。“通過儀礼”という宗教学の概念で映画を分析することで、隠されたメッセージを読み取ることができる。日本とアメリカの青春映画の 比較、宮崎映画の批判、アメリカ映画が繰り返し描く父と息子との関係、黒沢映画と小津映画の新しい見方、寅さんと漱石の意外な共通点を明らかにする。映画 は、人生の意味を解釈する枠組みを示してくれる。」(09/09)

●内田樹『映画の構造分析──ハリウッド映画で学べる現代思想』(文春文庫:2011.4.10/2003.6 晶文社)【¥590】

「〈この本の目的は、(中略)「みんなが見ている映画を分析することを通じて、ラカンやフーコーやバルトの難解なる述語を分かりやすく説明すること」にあ ります。〉『エイリアン』と「フェミニズム」、『大脱走』と「父殺し」、「ヒッチコック」と「ラカン」etc. ハリウッド娯楽大作に隠されたメッセージを読み解く、著者の初期代表作!」(09/10)

●ヴァルター・ベンヤミン『ベンヤミン・コレクション6 断片の力』(浅井健二郎編訳,久保哲司他訳,ちくま学芸文庫:2012.9.10) 【¥1800】

「「叙述の輝きは思考細片の価値にかかっている」とベンヤミンは言う。〈これが青年期の思考だ〉と叫んでいる「形而上学」。第一次世界大戦の勃発直後に自 殺した親友に捧げるソネット群。旅の途上の夢想に紡がれた小品群。夢や思い出、ふと心に浮かぶ想念から生まれた、ベルリンでの幼年期から青年期までを回想 する手記──。本書では、ベンヤミンの特異な〈断片〉概念が織り成す多様な言語表現を立体的に構成。謎に包まれた『パサージュ論』の生成過程を明かす、邦 訳初公開の覚書三篇が注目される。待望の新編・新訳アンソロジー第六弾。」(09/15)

●米田彰男『寅さんとイエス』(筑摩選書:2012.7.15)【¥1700】

「イエスの実像については、マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネという四つの福音書が典拠とされてきた。さらに、二〇世紀後半になって発見された幾つかの資料 は、イエスとその周辺について無視できない情報をもたらしている。その分析を通して見えてきたのは、イエスの風貌とユーモアは、たとえば寅さんの世界に類 似しているという意外な発見だった。聖書学の成果に『男はつらいよ』の精緻な読み込みを重ね合わせ、現代が求めている聖なる無用性の根源に迫る。」 (09/16)

●一ノ宮美成+グループ・K21『関西アンダーグラウンド──暴力とカネの地下水脈』(宝島SUGOI文庫:2012.9.20)【¥657】

「橋下徹と関西ウラ財界、山口組マネーの実態が垣間見えた梁山泊事件、生コンの帝王と辻元清美の蜜月、食肉のドン浅田満のルーツ、西本願寺と暴力団、官製 談合事件で浮上した和歌山闇人脈、関西国際空港大汚職の構図、創価学会の巨大墓地開発とゼネコン、奈良・京都・大阪“不良公務員”たちの後ろ盾……事件に 蠢いた暴力とカネの地下水脈をあぶりだす迫真の実話ドキュメント!」(09/19)

●吉本隆明『日本語のゆくえ』(光文社知恵の森文庫:2012.9.20/2008 光文社)【¥667】

「日本語における芸術的価値とは何か──。著者が生涯追究してきたこの課題について、自ら母校・東工大の学生に語った集中講義を集成。『言語にとって美と はなにか』『共同幻想論』をふまえ、神話時代の歌謡から近現代の文学までを縦横に論じる。そして、現代詩人たちの作品から浮かび上がってきた重大な問題と は?著者自身による「芸術言語論」入門。」(09/22)

●『iPhone 4S マスターブック 2012 au版』(マイナビ:2012.5.11)【¥1680】
●『超トリセツ iPhone 4S ユーザーのための iOS6 完全ガイド』(ILM:2012)【¥1124】

 スマートフォンにかえた。数日かかりきりになり、少しはまった。(09/27,10/20)

●黒木亮『トリプルA 小説 格付会社(上)』(幻冬舎文庫:2012.8.5/2010.5)【¥686】
●黒木亮『トリプルA 小説 格付会社(下)』(幻冬舎文庫:2012.8.5/2010.5)【¥686】

帯「それは神の符号か、愚者の黄金か。ユーロ機器の発端はここに。衝撃の超リアル国際経済小説!」
上「「格付」評価を巡り、単なる意見の表明に過ぎないとする格付会社と、それに反発する金融機関との間に軋轢が生じつつあったバブル期の日本。若き銀行マ ン・乾慎介、生保社員・沢野寛司、格付会社アナリスト・水野良子ら、それぞれの波乱に満ちた生きざまを通して、日本を揺るがした金融危機の実相と格付会社 の興亡を、迫真の筆致で描く話題作!」(10/02)
下「デリバティブや証券化の手法が日進月歩で複雑化していった二〇〇〇年代初頭、投資家は「格付」しか頼れるものがなくなり、米国ではサブプライム・バブ ルが発生する。乾慎介は日本のバブルと重ね合わせ、危機感を抱くが、利潤追求に血まなこの格付会社は金融業界に追従し、世界を震撼させるリーマンショック を引き起こす。圧巻の大団円!」(10/13)

●『ロラン・バルト映画論集』(諸田和治編訳,ちくま学芸文庫:1998.12.10)【¥880 Amazon:中古1050】

「ロラン・バルトは、その初期である1960年に研究的なエッセーを発表して以降、多くの映画評論を残した。『戦艦ポチョムキン』『イワン雷帝』で愛られ るソビエトの映画監督エイゼンシュタインの作品のカットを通して映画における意味形成性を論じた「第三の意味」、映像についての記号学的枠組みを構想する 「映画における意味作用の問題」をはじめとする映画・映像論、またロベール・ブレッソンやクロード・シャブロルらの作品評や、グレタ・ガルボやチャップリ ンらの俳優談義を収録し、1970年までの映画におけるバルトの思索の成果をまとめるオリジナル・アンソロジー。」(10/02)

●中沢新一『大阪アースダイバー』(講談社:2012.10.10)【¥1900】

「大阪こそが、真性[ほんまもん]の都市である。南方と半島からの「海民」が先住民と出会い、砂州の上に融通無碍な商いの都が誕生・発展する。上町大地= 南北[アポロン]軸と住吉〜四天王寺〜生駒=東西[ディオニュソス]軸が交差する大地の一大叙事詩を歌いあげる。」(10/12)

●唐木順三『無常』(筑摩叢書:1965.4.15)【¥680:中古300】

 同じ筑摩叢書の『中世の文學』を古本でもっている。同叢書からは他に『千利休』『無用者の系譜』『日本人の心の歴史』なども出ている。文庫化されたもの もある。いまとりくんでいる和歌・歌論の探検が貫之から俊成を経て定家までいきつくと、そこから先三つの方向に向かうことになる。一つは世阿弥から浄瑠 璃、歌舞伎、江戸音曲へ、いま一つは正徹、心敬から連歌、俳諧へ、最後が千利休を基軸に日本美学全般へ。すべてが芭蕉へと流れていく。この二つ目、三つ目 の方向の導き手が唐木順三。いずれアマゾンあたりで古本を買い求めることになるかもしれない。

●杉田圭『うた変。──超訳百人一首「うた恋い。」【異聞】』(メディアファクトリー:2012.8.5)【¥950】
●美内すずえ『ガラスの仮面』49(花とゆめCOMICS,白水社:2012.10.5)【¥400】

 「うた恋い。」シリーズは実によく出来ている。読み返すたびにそう思う。

●平田オリザ『わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書:2012.10.20)【¥740】

あとがきから「人間は、演じる生き物なのだ。/進化の過程で私たちの祖先が、社会的役割を演じ分けるという能力を手に入れたのだとするならば、演じること には、必ず、なんらかの快感が伴うはずだ。/だから、いい子を演じるのを楽しむ、多文化共生のダブルバインドをしたたかに生き抜く子どもを育てていくこと は夢物語ではない。/演劇は、人類が生み出した世界で一番面白い遊びだ。きっと、この遊びの中から、新しい日本人が生まれてくる。」(10/28)

●大岡信『詩の日本語』(中公文庫:2001.1.25)【¥1048:中古500】
●吉行淳之介『美少女』(新潮文庫:1975.4.25)【¥590:中古300】

 東京駅八重洲地下街でみつけた、金井書店・R・S・Books、という古書店の絶版文庫の棚から記念に二冊購入した。大岡本は単行本(古本)をもってい る。(10/29)


【読了】

●大内秀明『ウィリアム・モリスのマルクス主義──アーツ&クラフツ運動を支えた思想』(平凡社新書:2012.6.17)

 モリスの思想は美しい。唯物史観にもとづくエンゲルス・レーニン流の国家社会主義ではない、共同体社会主義(宗教的かつ美学的な)というもうひとつのマ ルクス主義。その現実的有効性や実現可能性を問うのはたやすいことかもしれないが、赤子の手をひねってどうする。内田樹 vs 橋下徹の「合気道道場が21世紀の都市モデルになるか」、そのひとつの解がここから得られるかもしれない。野生の経済学(中沢新一)がここから生まれるか もしれない。(08/01)

●伊藤邦武『経済学の哲学──19世紀経済思想とラスキン』(中公新書:2011.9.22)

 モリスからラスキンへと遡行していくうち、かつて長谷川尭著『都市廻廊──あるいは建築の中世主義』に触発され導かれて英国式庭園を訪れたときの興奮が 蘇ってくる。築地のラスキン文庫を訪れたこともあった。(08/16)

●四方田犬彦『翻訳と雑神 Dulcinea blanca 』(人文書院:2007.12.10)

《翻訳とは言語と言語の戦いに始まり、ひとつの言語が、本来は「不気味なもの」(フロイト)であるべきもうひとつの言語を歓待して、おのれの文脈のなかに 導き入れるまでの物語である。》(「ドゥルシネーア白」43-44頁)
 ネットで明治学院大学「言語文化」19号[http: //www.meijigakuin.ac.jp/~gengo/bulletin/019.html]に掲載された「西脇順三郎と完全言語の夢」を見つ けた。『翻訳と雑神』に収録されているというので、図書館で借りて読んだ。吉増剛造論も収められている。いつか機会があれば全編をじっくりと読みたい。 (そういえば「言語文化」24号掲載の宇波彰「弱者の言説 パースからラカンへ」もネットでみつけた。)

●西脇順三郎『ボードレールと私』(講談社文芸文庫:2005.8.10)

 みじかい期間だったけれども西脇順三郎のマイブームが訪れた。谷崎潤一郎とともにノーベル文学賞候補にあげられていたとは知らなかった。(09/23)

●内田樹『街場の文体論』(ミシマ社:2012.7.30)

 ソシュールのアナグラムからロラン・バルトのエクリチュール論へ、そしてラカンへといたる叙述、目次でいうと、第3講「電子書籍と少女マンガリテラ シー」から第10講「「生き延びるためのリテラシー」とテクスト」までが本書のハイライト。そこを、とくに第4講「ソシュールとアナグラム」を読みたかっ た。内田節、健在。(08/08)

●永井均・入不二基義・上野修・青山拓央『〈私〉の哲学を哲学する』(講談社:2010.10.4)
●永井均『ウィトゲンシュタインの誤診──『青色本』を掘り崩す』(ナカニシヤ出版:2012.8.3)
●入不二基義『時間と絶対と相対と──運命論から何を読み取るべきか』(勁草書房:2007.9.25)

 昨年につづいて朝日カルチャーセンター中之島教室で生(なま)永井を体験した。今年の演目は「哲学対談 永井均×入不二基義 現実性について─私・今・現実」。対談までにかけこみで関連本を読んだ。議論が濃すぎて体力が消耗した。(08/12)

●木村敏・檜垣立哉『生命と現実──木村敏との対話』(河出書房新社:2006.10.30)

 『臨床哲学講義』につづけて読んだ。刺激が強すぎて体力が消耗した。(08/16)

●マルク・エルスベルグ『ブラックアウト』上・下(猪股和夫・竹之内悦子訳,角川文庫:2012.7.25)

 よくできたエンタテイメント。情報小説としても秀逸。(09/09)

●島田裕巳『映画は父を殺すためにある──通過儀礼という見方』(ちくま文庫:2012.5.10/1995)
●内田樹『映画の構造分析──ハリウッド映画で学べる現代思想』(文春文庫:2011.4.10/2003.6 晶文社)

 島田本(09/16)の通過儀礼、内田本(10/12)の抑圧と反復。前者が神話学の概念で、後者は精神分析学の概念。ともに隠されたものをあきらかに する学問。実に面白い。

●吉本隆明『日本語のゆくえ』(光文社知恵の森文庫:2012.9.20/2008 光文社)
●井筒俊彦『コーランを読む』(岩波セミナーブックス1:1983.6.20)

 井筒俊彦・豊子の和歌言語論と吉本隆明の言語芸術論をたすきがけにしたいと目論んでいる。吉本本(10/14)は再読。井筒本(10/28)はなぜ文庫 本にならないのか不思議。 

●黒木亮『トリプルA 小説 格付会社』上下(幻冬舎文庫:2012.8.5/2010.5)

 この作家の作品は『トップ・レフト』『アジアの隼』以来。この二十年の世界経済の激動の姿がリアルに描かれている。(10/26)

●一ノ宮美成+グループ・K21『関西アンダーグラウンド──暴力とカネの地下水脈』(宝島SUGOI文庫:2012.9.20)

 最後まで読むのが嫌になった。描かれた内容とその描き方が。(10/27)