不連続な読書日記(2012.07)



【購入】

●田村和紀夫『音楽とは何か──ミューズの扉を開く七つの鍵』(講談社選書メチエ:2012.1.10)【¥1500】
 刊行されたときからいつか読むことになるだろうと確信していた。それも図書館などで借りて読むのではなく自腹を切って読むことになるだろうと。あとはそ のタイミングがいつどのような経緯で熟するかだった。リベラル・アーツは文法・論理・修辞のトリウィウムと幾何・算術・天文・音楽のクワドリウィウムから なる。「老後は数学を学べ」とは秋山仁さんの言葉。数学を拡大解釈すれば「老後はクワドリウィウムで生きよ」。

●港千尋『芸術回帰論──イメージは世界をつなぐ』(平凡社新書:2012.5.18)【¥780】
 同じ平凡社新書からでた『ウィリアム・モリスのマルクス主義』(大内秀明)か『チャーチルの亡霊』(前田洋平、文春新書)のどちらかを買おうと思って書 店に立ち寄るもみあたらず、とっさの勘をたよりに購入。

●大内秀明『ウィリアム・モリスのマルクス主義──アーツ&クラフツ運動を支えた思想』(平凡社新書:2012.6.17)【¥820】
●伊藤邦武『経済学の哲学──19世紀経済思想とラスキン』(中公新書:2011.9.22)【¥840】

 佐々木雅幸著『創造都市への挑戦』にラスキンとモリスの名がでてくる。ラスキンは苦役としての labor(労働)と生きる喜びの表現である opera(仕事)を区分し、弟子のモリスは「労働の人間化」と「生活の芸術化」を結びつけて論じた。「一八八三年頃マルクスの『資本論』に影響を受けた モリスは、ラスキンが提起した「創造的な仕事の復活」の課題を、マルクスによる資本主義社会への根底的批判を通した社会改革への展望の中に位置づけた。」 (34頁)。
 ラスキン、モリスの思想や実践に触発されて、その昔、「生活美学都市について」(http://www17.plala.or.jp/orion- n/ESSAY/TETUGAKU/11.html)や「コミュニティに根ざした経済・覚書」(http: //www17.plala.or.jp/orion-n/ESSAY/TETUGAKU/28.html)を書いた。さらにその昔、英国式庭園を実地に 視察したこともあった。いままたラスキン、モリス熱が再発するか。(07/12)

●マイケル・J・ロオジエ『引き寄せの法則』(石井裕之監修,講談社文庫:2012.4.13)【¥476】
 最近「軽くなって執着を手放す」(http://blog.sbcr.jp/hikiyose/002108/)という文章に、願望の「本質」(願望が かなったときの感情)と「形」(感情を体験させてくれる物質的枠組み)を混同している状態のことを「執着」というと書いてあるのを読み得心した。この記事 が載っていたのが「『引き寄せの法則』公式ブログ」だった。(07/12)

●『PEN』No.317(2012年7月15日号)[特集|ビートルズが聴こえてくる。](阪急コミュニケーションズ)【¥571】
 わが青春期、決定的にビートルズ体験が欠けている。S&GとかPPMとかエルトン・ジョンとかボブ・ディランとかクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤ ングとかクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルとか、その他もろもろのミュージシャンとの出会いの記憶は鮮明なのに、なぜだかビートルズ体験だけは 決定的に欠けている。(ストーンズ体験は絶対的に欠けている。)

●『SAPIO』2012年8月8日号[特集|脱原発デモだよ、全員集合!](小学館)【¥505】
 日本の脱原発デモは「アラブの春」になれるか。菅原文太が、そのためには「理論を持って主張することができる、強烈な向かい風にも逆らって市民を引っ 張っていくことができるリーダーが必要だと思う。それはたぶん、政治家じゃないね。思いがけないところから、辺境から生まれてくる人間だと思うね。」と 語っている。

●弘兼憲史『黄昏流星群42 星降るホテル』(小学館ビッグ・コミックス:2012.6.25)【¥524】
●高橋留美子『高橋留美子劇場1 Pの悲劇』(小学館ビッグ・コミックス:2003.8.1)【¥514】
●高橋留美子『高橋留美子劇場2 専務の犬』(小学館ビッグ・コミックス:2003.8.1)【¥514】
●高橋留美子『高橋留美子劇場3 赤い花束』(小学館ビッグ・コミックス:2009.11.4)【¥514】
 マンガ本は定期的にまとめ買い、まとめ読みをする。(07/19)

●西脇順三郎『ボードレールと私』(講談社文芸文庫:2005.8.10)【¥1400】
 この夏、井筒俊彦・井筒豊子の論考を素材に王朝和歌の意味論をめぐる文章を書こう(できれば吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』をからませながら) と思っている。そのマクラに井筒俊彦の師・西脇順三郎の詩か詩論からきりだした話題を使いたい。(07/19)

●ジル・ドゥルーズ『シネマ1*運動イメージ』(財津理・齋藤範訳,法政大学出版局:2008.10.7)【¥4500】
●梅田百合香『甦るリヴァイアサン』(講談社選書メチエ:2010.6.10)【¥1600】

 長年親しんできたbk1がhontoネットストアに変わっていた。残ったポイントで『シネマ1』を購入したら、少し足りなかった。追加本に『甦るリヴァ イアサン』を選んだ。
 プルーストの無意志的記憶についてベンヤミンの「プルーストのイメージについて」とドゥルーズの『プルーストとシーニュ』をあわせ読んで、和歌の意味論 につづく論考を書きたいと思っている。そうなるといよいよ「この研究は、ひとつの分類学であり、イメージと記号についての分類の試みである。」と冒頭で宣 言される『シネマ』にとりくむ準備ができる。『シネマ』と『神話論理』だけは死ぬまでに読んでおきたい。
 一年ほど費やしてリヴァイアサンを精読しようと計画しているが続かない。そうこうしているうちに関心が薄れていく。これではいけない。なにか適当な参考 書を読んで刺激をうけねばならない。と思っていたちょうどそのとき、たまたま『甦るリヴァイアサン』の書名が目にふれた。これはけっしてたんなる偶然では なく自分で引き寄せた偶然だと思う。

●尼ヶ崎彬『日本のレトリック』(ちくま学芸文庫:1994.10.6/1988)【¥880/古660】
●萩原朔太郎『帰郷者』(中公文庫:1993.8.10)【¥480/古316】

 はじめてアマゾンを利用して中古本を買った。尼ヶ崎本は古書店、図書館で長年探したが見つからず、とうにあきらめかけていた。アマゾンに出品されている ことは前々から知っていたが敬遠していた。思い切って萩原本とあわせ注文したら三日も待たず配本された。少し値が張るように思うが、目次を眺めただけで価 格以上の価値はあると確信した。朔太郎はネットで見つけた「純粋詩としての新古今集」を活字で確認したいがために購入した。これも目次を眺めるだけでそれ 以上の価値があることがわかった。次は井筒豊子著『白磁盒子』(中公文庫)を購入することになると思う。

●中澤幸夫『テーマ別英単語 ACADEMIC[上級]01 人文・社会科学編』(Z会:2009.1.20)【¥1800】
 英語の勉強をしたいとにわかに思い立った。会話やヒアリングや英作文より読むことに慣れたいと思った。数日テキストを物色して本書を選んだ。初級中級を 飛ばしていきなり上級。つづくかどうかは買った直後の数日が肝心。(07/19)

●木村敏『臨床哲学講義』(創元社:2012.6.20)【¥2500】
 毎日新聞・今週の本棚の書評(村上陽一郎)を読んで読みたくなった。ずいぶんひさしぶりに梅田の紀伊國屋書店で買った。(07/24)

●『Tarzan』No.608(2012年7月9日号)[特集|カラダを巡る、ホルモンの威力。](マガジンハウス)【¥476】
 この雑誌ははじめて。(07/27)

●永井均『ウィトゲンシュタインの誤診──『青色本』を掘り崩す』(ナカニシヤ出版:2012.8.3)【¥1800】
●太賀麻郎『5000人抱いた男の無重力セックス──これが、女が悦ぶ!モテる愛し方』(イースト・プレス:2011.6.30)【¥1300】

 8月18日の土曜日、朝日カルチャーセンター中之島教室で「哲学対談 永井均×入不二基義 現実性について─私・今・現実」がある。昨年の「永井均 語りえぬこととしての存在」に続き受講する。これを機会に、読みあぐねていた『〈私〉の哲学を哲学する』(永井、入不二ほか)や『時間と絶対と相対と── 運命論から何を読み取るべきか』『足の裏に影はあるか? ないか? 哲学随想』(ともに入不二の単著)を読み、その勢いで『意識する心──脳と精神の根本理論を求めて』(チャーマーズ)その他の関連本を読破もし くは棚卸して、「夏休みのハード・プロブレム」[http://www17.plala.or.jp/orion- n/ESSAY/TETUGAKU/23.html]のパート2に取り組むべく(心の)準備をしていた矢先、永井の新刊がでると知ってかなり焦った。
 このところ(思いつきで始めた我流の筋トレや英語音読の効果なのか)わりと集中して本が読めるようになった。そうなると悪い癖で見境なく同時並行読書の 本数を拡大する。意識的に戦線縮小しておかないと、とっかえひっかえで訳がわからなくなる。だから焦った。焦ったけれど、やはり店頭に並んでいるのを目に すると速攻で手にとり、単独では買いにくかった本とセットで購入した。太賀本は、伝説の男が書いた「性を通して、生き方まで訴えてくる凄い本だ」(代々木 忠)。というわけで前々から気になっていた。永井本とはなんの関係もないが、関係づけて考えることはもちちろんできる。(07/28)

●小林敏明『フロイト講義〈死の欲動〉を読む』(せりか書房:2012.6.29)【¥2500】

 朝日新聞・読書欄の書評(柄谷行人)で本書を知り、以前読んだ細見和之著『ベンヤミン「言語一般および人間の言語について」を読む──言葉と語りえぬも の』が滅法面白かったのを思い出し、その日のうちに買い求めた。数年前に始めたフロイト「快感原則の彼岸」(中山元訳『自我論集』)の精読ノートの製作が (全六節のうちの)五節目にさしかかったところで中断していたので、これを機会に再開しようと決めた。それから思うところがあって、同じ「解読本」「解釈 =改釈本」つながりで『ウィトゲンシュタインの誤診』と(余力があれば「○○を読む」つながりで丸山圭三郎著『ソシュールを読む』も)あわせて読むことに した。(07/29)

 フロイトとウィトゲンシュタイン(さらにソシュール)とくると、個人的関心からいってもはずせない哲学者がもうひとりいる。
 渡辺哲夫著『フロイトとベルクソン』(岩波書店:2012.6.27)のプロローグに、小林秀雄が講演「現代思想について」で、ベルクソンの『物質と記 憶』(1896年)とフロイトの『夢判断』(1899年)が近代思想にとって最重要な書物だと力強く語ったことが書かれている。該当の個所を、同書に掲載 された講演のテープ起こしから抜き書きしておく。
「ちょうどベルグソンがその本を書いて、ちょうどその頃です、フロイトが『夢判断』を書いたのも、ちょうどその頃です。で、『夢判断』という本も、ちょう どベルグソンが日本で流行って、原著を全然読まないで、「ベルグソンはこんなことを言った人だ」ってことだけでもって流行ってしまったように、フロイトも そうです、『夢判断』なんかおそらく読んでる人なんかないでしょう。だけど、フロイトっていう人はこんなことを考えた人、なんていうのはみんな知ってるん ですねぇ。そういうことはホントに悪いことなんです。『夢判断』を読めばいいんです、大きな本じゃないんですから。諸君も買って読めばいいんです。
 そういうふうなねぇ、やはり思想界には古典的な名著というものがありましてね。そういう古典的名著というものは、もう古くなるなんて性質のものじゃない んです。徹底したものがあるんです、そこには。僕はそう思ってます、近代の思想でいちばん重要な事件っていうのは、あの二つの本だと思ってます。で、あの 二つの本を自分で読まなきゃいけないのです。」


【読了】

 最近、わりと集中して本が読めるようになった。いや「集中して本が読めるような気になってきた」というのが正しい。そんな根拠のない自信に気が大きくな り、自粛していた新刊本漁りが(ネットでの物色にまで拡大して)復活し、積ん読状態だったあれこれの関連書の一気読みを口実に衝動買いをするようになっ た。
 肝心なのは、そうやって買い求めた書物を矯めつ眇めつ手に取り眺め入る時間をどれだけとることができるかで、この時間の量と質がその本との関係のほとん どすべてを決定するといってもいい。いや本当は読中読後の時間の量と質も大いに関係するに違いないが、いま現在のところは、本を入手した直後の高揚がよう やく戻ってきつつあることをもってよしとしておく。(2012/07/30)

●三浦展『第四の消費──つながりを生み出す社会へ』(朝日新書:2012.4.30)
 第五の消費社会の話題が面白い。行政に頼らない社会保障の仕組み、金銭的な保障だけではなく、生活のしかた全体を変えていくことで、人々が安心、安全、 幸福に暮らすことができる、人口減少と経済縮小を前提とした「シェア型」の社会モデル(230頁)。
 「シェア型」社会の仕組みには死と性の問題が欠かせないと思う。──人生に疲れ果てて死ぬのではなく、人生を全うして満足して死ぬことができる社会 (245頁)。「楽しい」ことより「うれしい」ことを求めていく社会(249頁)。

●港千尋『芸術回帰論──イメージは世界をつなぐ』(平凡社新書:2012.5.18)
 小見出し(数えてみると、110もある)のついた細部の文章はそれぞれ瑞々しい感性の流動と繊細な知性の輝きをたたえていて素晴らしいのに、全体(9章 +1)の流れがうまくつかめない、というか乗れなかった。

●佐々木雅幸『創造都市への挑戦──産業と文化の息づく街へ』(岩波現代文庫:2012.5.16[新編集版]/2001.6)
 第1章「「都市の世紀」の幕開け」以外は事例集。職場の常備本。

●マイケル・J・ロオジエ『引き寄せの法則』(石井裕之監修,講談社文庫:2012.4.13)
 けっこう真剣に読んだ。

●T・S・エリオット『荒地』(岩崎宗治訳,岩波文庫:2010.8.19)
 ここ1年ほど、休日の夜の時間をエリオットのためにさいていた。

●木村敏『臨床哲学講義』(創元社:2012.6.20)
 非人称の〈生命〉(ゾーエー)と個別の身体に現勢化した「生命」(ビオス)。メタ・レアールな〈生命〉(おのづから)とレアールな「生命」(みづか ら)。これら一対の概念(と、本書ではふれられなかったヴィルチュアリティとアクチュアリティ、リアリティの概念区分)は実に豊穣な内実をもっている。引 き続き積ん読の『生命と現実──木村敏との対話』(木村敏・檜垣立哉)を完読して、きっちりと「書評」を書き残すことができたらと思う。

●高橋留美子傑作集『運命の鳥』(小学館:2011.7.20)
●高橋留美子『高橋留美子劇場1 Pの悲劇』(小学館ビッグ・コミックス:2003.8.1)
●高橋留美子『高橋留美子劇場2 専務の犬』(小学館ビッグ・コミックス:2003.8.1)
●高橋留美子『高橋留美子劇場3 赤い花束』(小学館ビッグ・コミックス:2009.11.4)
●弘兼憲史『黄昏流星群42 星降るホテル』(小学館ビッグ・コミックス:2012.6.25)
●萩尾望都作品集『なのはな』(小学館:2012.3.12)
●美内すずえ『ガラスの仮面』44(花とゆめCOMICS,白泉社:2009.8.30)
●美内すずえ『ガラスの仮面』45(花とゆめCOMICS,白水社:2010.10.5)
●美内すずえ『ガラスの仮面』46(花とゆめCOMICS,白水社:2010.11.5)
●美内すずえ『ガラスの仮面』47(花とゆめCOMICS,白水社:2011.7.30)
●美内すずえ『ガラスの仮面』48(花とゆめCOMICS,白水社:2012.3.1)
●小玉ユキ『坂道のアポロン』1(小学館・フラワーコミックスα:2008.4.30)
●小玉ユキ『坂道のアポロン』2(小学館・フラワーコミックスα:2008.10.15)
●高橋留美子『境界のRINNE』1(少年サンデーコミックス:2009.10.21)
●成田美名子『花よりも花の如く』第1巻(花とゆめCOMICS,白泉社:2003.7.10)
●蛇蔵&海野凪子『日本人なら知っておきたい日本文学──ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典』(幻冬社:2011.8.25)
●杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。3 DVD付特装版』(メディアファクトリー:2012.4.23)

 ためこんでいたマンガ本を一掃。高橋留美子の短編と「うた恋い」シリーズが群を抜いて秀逸。「ガラスの仮面」の物語世界は濃すぎる。