不連続な読書日記(2012.05-06)



【購入】

●保坂和志『カフカ式練習帳』(文藝春秋:2012.4.20)【¥1700】

 小説は何を書いても自由であるということと、小説を小説たらしめている何かがあるということとは別の問題だ。小説のかたちを壊したあとにのこる細片や形 象、あるいは小説にかんする方法や意思のようなものからすりおちてゆく細片や形象を、それはきっとベンヤミンの思考細片や歴史形象のアイデアを借りて、カ フカ的小説細片あるいは小説形象と名づけることができるものたちのことなのだと思うが、とにかくそういった素性の断片群を書きつけ、保存し、蒐集し、組み 合わせることのうちに保坂和志が到達した小説の方法と、そしてなによりも小説への意思(小説にたいする境位)がうかがえる。うかがえるどころか、それがこ の作品で保坂和志が誰にもわかるかたちで実験したことだ。

●ウルルッヒ・ベック『世界リスク社会論──テロ、戦争、自然破壊』(島村賢一訳,ちくま学芸文庫:2010.9.10)【¥950】
●佐々木雅幸『創造都市への挑戦──産業と文化の息づく街へ』(岩波現代文庫:2012.5.16[新編集版]/2001.6)【¥1240】

 政策の領域で最近関心を高めている二つの事柄、リスク社会論と創造都市論への入門のために。

●吉本隆明『定本 言語にとって美とはなにかT』(角川ソフィア文庫:2001.9.25)【¥743】
●吉本隆明『定本 言語にとって美とはなにかU』(角川ソフィア文庫:2001.10.25)【¥705】
●橋爪大三郎『永遠の吉本隆明[増補版]』(洋泉社新書y:2012.5.25)【¥800】

 昔、角川文庫で「共同幻想論」「心的現象論序説」とつづけて読んだことがある。(「共同幻想論」はそれ以前、大学に入ったばかりの頃、単行本で読んだ。 梅雨のある日、京都の吉田山の、だったと思う、近辺の寺社の境内で読んでいた記憶がある。あれは『世に棲む日日』のことだったかもしれない。)文庫本で読 んだ吉本隆明はそのほかにも「最後の親鸞」「カール・マルクス」があって、そのどれもとても面白かった。(鼎談「日本人は思想したか」もそうだ。)ほぼ2 年近く「初期歌謡論」を読みこんできて、もういちど「言語にとって美とはなにか」が読みたくなった。吉本隆明という思想家そのものについて書かれた書物も 読みたくなった。

●『現代思想』2012.5[特集|大阪]【¥1238】

 木村政雄「大阪はなぜ橋下徹を選んだか」と中沢新一「アースダイバー的「大阪の原理」」を読んだ。

●木村俊一『連分数のふしぎ──無理数の発見から超越数まで』(講談社ブルーバックス:2012.5.20)【¥1100】

 老後の趣味はオペラと数学。かつてそんなことを公言していた。ところが歳を重ねるとともに余裕がなくなり、いっこう準備ができない。この本もまた(数日 は楽しめても、やがて、DTM教則本やその他の音楽本ともども)積読本になっていくのだろう。最初から順を追ってノートをとりながら、問題もときながら じっくり読むのが正しいのだろうが、面白いところだけ勘をたよりに折にふれて気楽に眺めたり拾い読みをするのも、本を買って所有したものの特権だと思う。

●カミラ・レックバリ『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』(原邦史朗訳,集英社文庫:2009.8.25/2003)【¥905】

 北欧ミステリーが好きだ。

●パスカル・メルシエ『リスボンへの夜行列車』(浅井晶子訳,早川書房:2012.3.25/2004)【¥2500】

 海外の現代小説も何冊か積読もしくは読みかけ状態のまま放置されているのに、定期的になにか新しいものを読みたくなる。ポルトガルという国への関心が高 まっている。

●ホッブズ『リヴァイアサン(一)』(水田洋訳,岩波文庫:1954.2.5;1992.2.17改訳)【¥900】
●ホッブズ『リヴァイアサン(二)』(水田洋訳,岩波文庫:1964.4.16;1992.8.18改訳)【¥1000】
●ホッブズ『リヴァイアサン(三)』(水田洋訳,岩波文庫:1982.5.17)【¥900】
●ホッブズ『リヴァイアサン(四)』(水田洋訳,岩波文庫:1985.6.17)【¥800】

 ある地方銀行の幹部との昼食会で、銀行の会長が若い職員を相手に古典購読の会を定期的にもっていると聞いた。とてもいい話だと思った。なるべく若いうち に古典をしっかり時間をかけて読むことは、あとあとの人生の背骨のようなものをかたちづくることになる。できれば近代の政治や経済や社会の仕組みができあ がる創成期にあって、後の時代をつくりあがることとなるオリジナルなアイデアや視点や方法を打ちだした書物を読むのがいい。そんな話をその時した。念頭に あったのはマルクスの「資本論」とミルの「自由論」だったが、その後、経済活動の舞台そのものを、つまり近代主権国家の概念を確立した書物へと関心がう つっていった。『永遠の吉本隆明』に何度かホッブズの名が出てきたのも大きなきっかけとなり、また柏書房から『哲学原論/自然法および国家法の原理』とい う浩瀚な訳書(1708頁、21,000円)が刊行されたのも刺激となって、全4巻一気買いを敢行した。1年くらいかけてじっくり読み込んでみるつもり。

●中村淳彦『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書:2012.5.30)【¥800】
●坂爪真吾『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書:2012.6.6)【¥720】
●アダム徳永『出世する男はなぜセックスが上手いのか?』(幻冬舎新書:2009.7.30)【¥740】
●三浦展『第四の消費──つながりを生み出す社会へ』(朝日新書:2012.4.30)【¥860】

 代々木忠の本が面白くて、また最近知ったVictriaの日記というブログの記事に触発もされて、その他いろいろと考えるところもあって、いつかまとめ て読み、まとめて考えるための参考文献を新書でまとめ買いした。最近、園子温監督の「恋の罪」を観た。三人の女優の競演に圧倒され、四人目の女優の業の深 さに撃たれた。


【読了】

 本が読めなくなった。まったく読まないわけではなくて、最近は朝晩の電車のなかで「永遠の吉本隆明」と「氷姫」を読み、ときに「リヴァイアサン」か「世 界リスク社会論」か「動きが心をつくる」などを断続的に読む。夜は夜で時間と余裕があれば「カフカ式練習帳」か「リスボンへの夜行列車」を少し読み、さら に時間と余裕があれば「言説、形象」か「読むと書く 井筒俊彦エッセイ集」を少し読む。興がのると「職業としてのAV女優」その他や雑誌類を読む。休日に は「マーラーの交響曲」か「荒地」を読み、時折「掌の小説」か「中井英夫全集7」か「中世歌論集」あたりを手にする。思いだしてはフロイトの「自我論集」 やベルクソンや永井均やらもノートをとりながら読んでみる。
 読みかけの書物、開きかけの本の背を目にしては心を騒がせる。そんな習慣化した読書スケジュールに飽きてくると、たとえば数時間列車に揺られるときなど を利用してそれまで手を出さなかった蔵書に挑み、結局途中まで読んで放置する。いろいろ読みかじるがほとんど最後まで読み切れない。読んだ気がしないまま 雲散霧消していく。これはずっと以前の、読書日記をつけなかった頃の読書体験と一緒だ。つまり書かなければ読めない。これを敷衍すると「書かないと生きな い(生きた気がしない)」になる。それでは困る。とても困るのでなにか一冊、きちんと感想を書いてまとめておこうと思うが、思いがこうじて気が焦るだけで 手と頭がついていかない。(2012/06/20)

●森鴎外『阿部一族・舞姫』(新潮文庫:1968.4.20)
●大崎善生『エンプティスター』(角川書店:2012.2.29)
●カミラ・レックバリ『氷姫 エリカ&パトリック事件簿』(原邦史朗訳,集英社文庫:2009.8.25/2003)
●代々木忠『快楽の奥義──アルティメット・エクスタシー』(角川書店:2012.4.15)
●代々木忠『つながる──セックスが愛に変わるために』(祥伝社:2012.3.10)
●アダム徳永『出世する男はなぜセックスが上手いのか?』(幻冬舎新書:2009.7.30)
●中村淳彦『職業としてのAV女優』(幻冬舎新書:2012.5.30)
●坂爪真吾『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書:2012.6.6)
●橋爪大三郎『永遠の吉本隆明[増補版]』(洋泉社新書y:2012.5.25)