わびしき宴・その他


   わびしき宴

さて夜もふけてこれからは
ふたりぼっちのかたらいか
幾夜続けて見た夢を
見果てぬままの寝苦しさ

ふと見上げると星の空
降ってくるとはこのことね──
おまえ探して幾千里
やって来ました月の海
手に持つ金の絵扇を
うかとおとすもむりはない

ひとりの男がおりまして
よりそう女がありまして
なにいうほどのこともない

何千何百何十と
星の数ほど人がいる
草の根わけてみいだした
あわれな男のやすらぎか


    六月         

六月の誰? しっとりと だが
唐突に草木ぬらし ふるゑさせ
大地のため息に似て ぞっとする
からかいに雨ふらせ たゆたげな        

ああたゆたげな かんばしさ 遠い想いに
追憶か? いやうちふるゑる色彩の中
ひそむ君のことばがなつかしい
誰? くりかえされ 立ちどまった時の流れに

ああものうげな いやむしろ恐怖にも似て!
遠い日・もしくは追憶──
昔の時・もしくは慰め──

誰? 六月の蝶か かろやかに!
六月のすき通った誰?
は ここちよいウィット!             


   かろやかな涙

星のしずくじゃありませぬ
海の真珠じゃありませぬ
などて涙の出るものか
なに悲しみのアトラクション

さても今宵はむなしくて
とても歌などうたえない
ああ母さまのお膝もと
春の陽だまりなつかしや

おやそこゆくは人生か
重い荷物もしょいたかろ
急ぐな休むな逃げだすな

幾夜思いはしずみゆく                              
かなしみゆえのかろやかさ 
夜に蝶々も翔ぶまいさ


   夏行            

春を背負うて夏の旅
ゆくあてなしの気楽坂
汗もたらたら出しまして
塩のしこりが目に痛い

夏の青葉の欝蒼と
春の死に場所おしとくれ
おやそこゆくはやがて来る
秋の冷気の研ぎ師殿

おやそこゆくは人生か
はたまた市井の路地裏か
疲れはててはみたものの
夏の嵐に怯えたり
       
見果てぬ夢の焼け残り
人知れずこそ燃えにけり
春の死に場所おしとくれ
春を背負うて夏の旅