休日


昼目覚めて久しぶりに夢を見ていた・心が充実していた・怪獣の出てくる夢だった・巨大な岩の上で格闘した・人々は岩の中に住んでいた・怪獣をあや つる魔女をとっちめて僕は勝ったが仲間ととともになぜか追われるはめになった・そういう場合いつもの事だったが僕達はアパートの中に追い込まれた
昼目覚めて「休日は神の仕掛けた罠」という言葉が浮かんだ・雨が降っていた・湿っぽい一日が息づいているようだった


   Ⅰ

ミルクに濁った紅茶・砂糖を溶かし込んで休日の朝は始まる
聴き慣れたレコード・海にひた寄す波のねむたげな響きで休日の朝は目覚めた
摘み集めてた日々のお気にいりの時間を
せっせとキャンバスに塗りたくってゆく僕の休日

雨の降る薄暗い昼下がりなど
僕は呼吸するのを忘れていることがある
湿っぽくなった畳に寝そべって
雨垂れの暗号文を解読している
この雨の中に咲く花は毒々しく
息づく歴史はふっとわらいもする

  VARIATION 1

忘却の海のうねりゆるやか
忘れじの岩にくだける・朝
潮干狩にはしゃぐ子らは
手にするものの意味は知らない・昼


  Ⅱ

街にでる・十一人の男達がそれぞの軌跡描いて
ここ・音のたちこめる空間を共有する

都市は巨大な子宮である
都市の居住まいが整然としているのは
あれは胎教のためなのだ・と第一の男が言って
胎児に心を与え肉体をそぎとると
残るのはアンニュイである・と第二の男が笑った
都市が孕んでいるのは何なのだろう
九人の男達は椅子に寄りかかって聞いていた
欠伸をかみ殺した不快感に似たものを覚え
僕は立ちあがった

都市は回廊である
また都市には窒息感が漂っている

  VARIATION 2
 
ドン・キホーテは再び
ドルシネアにめぐり会わんものと
老馬ロシナンテにまたがったが
もはやサンチョ・パンサは従わなかった
                   

     Ⅲ

巨大なクレバス──地の苛立ち
夕暮れの雨の空白
立ちすくむ光達
君は道を歩むな
道には花の死骸の集積
集積回路に閉じ込められたものは何だ!
巨大なクレバス──むしろ怒りだ
その日
俺は四条河原町あたりをうろついていた
突然大音響──閃光に
俺の視点は居所を失い
時間は白い光の流れに変質し
粒状にきらめいた
俺は見たのだ
巨大なクレバス──地の叫びが
君はもはや歩むな
歩みには貝の粘液のからまり
巨大な貝類──
地球は貝類のすみかなのだ
地球の内部には怒りがたぎっている
君はみはや語るな
むしろ耳をすませ
歴史は巨大な貝だ
貝の口──クレバス!
I'll go without you.
俺は行こうクレバス越えて
俺はおまえに月をたずさえて会いに行く
だがおまえは俺を見るな
銀色の月のパルテノン
文明は病んでいる
巨大なクレバス──貝の口!


     Ⅳ

雨の背後には代理人がたたずんでいるのだ

イルカは思った
海の中にも雨は降る
クラゲは傘だ
ブランコは思った
世界は揺れている
揺れる世界にがんと動かぬものがある
ポストが振り返った
ブランコは電柱に恋をした
柱はそ知らぬ顔で立っていた

雨の背後には代理人がほくそ笑んでいるのだ

海の底には
蟹がはっていた
蟹はわらっていた
イルカは詩人だ
蟹はゲス野郎だ
ブランコはホームシック
ポストは傘をさしていた
電柱は寡黙だった
避妊薬自動販売機は雨の中につっ立って
プラカードをふりまわしていた

雨は旅する
雨は背中見せない
雨は孤独だ

ところで
海に降る雨は
しっとりと濡れたレイン・コオトはおって
府立図書館に今
静かにたたずんでいる

1973年4月24日午後6時45分15秒


    Ⅴ

それは原型[メモリアル]だ!
去っていったのは狂気だ

狂気に根がはえて根は自己増殖して
根は青白く地中で光って
荒野には動くものとてなかったが

深海の色の重なりの暗がりに
うごめくもののように根は孤を描きからまり
岩を砕き陽は差しこまない地下生活者
                   
雨の日の放浪にはなぜかきのこの匂いがした
ああまたいやなこの匂い
都会はやり場のない精液に満たされて
ただ巨大な自慰行為が繰り返されて  
繰り返されて果てることがない
都会が夢想するものは何だ!

それは原型[メモリアル]だ!          
やって来たのは巨大な穴をもったいきものだ

壮大な穴のイメージが俺をとらえる
都会の上空には暗く深い穴がある
穴は生命の象徴だ

トンネルの中には時間がない
時間と空間が共存するこの穴の内側に
蝶の死骸が一つ落ちていた

ああ俺の郷愁もわびしさもすべて
この一枚の符丁にたくされていた
俺が手にするこの造形楽譜
                      
それは原型[メモリアル]だ!