炎天下/灘帰一句集


炎天下森羅万象影一つ
炎天下影一点に集まりて
炎天下影たじろかず佇立する
炎天下一刻たりと物揺れず
炎天下談笑の老婆らふと黙す
炎天下刻一刻と時歩む
炎天下少年一人遊びおり
炎天下老犬の骸かわきけり
炎天下意思なきものの気配する
炎天下魂のかたち顕わなる
炎天下思惟止み脳髄ただうつろ
炎天下身に覚えなき罪を悔う

犬吠えてふと目上げれば梅雨の坂
梅雨明けて朝の霊園ひかりさす
蓮の花パステルカラーに水染まる
漆黒の夏の夜に一人寝ている
愚直という文字を思えり向日葵花

生彩を欠いた日の夜黴を見る
さえざえとひかりしたたるなつのほし
黒き夜の海に溶け入る花火かな
花火終えて飼犬を待つ老父かな
天涯を映して静か夜の滝
風一陣涼しき夜の走馬灯
人界にさまよい来たる蛍かな
群れ離れ蛍一言居士のごと
夏痩せの観念白く眠るなり
蝉死んで何やら静か黒き森
緑陰に微睡む少女汗かわく
緑陰に老婆ら密語し風止まる
しづかなる語らい聞こゆ大銀河
淡々と過ゆく日々や地蔵盆
(伊賀上野、松阪、鈴鹿の旅から)
石段を歩みて涼し伊賀の夏
緑濃き城跡本居記念館
炎天下爆音涼しサーキット