我がコスモロジイ
 
 
 
 
 
 
 

           我がコスモロジイ
 
 

        解析された火は青黴の寄生した骨格晒し
        考古学博物館の陳列台に展示され
        沈痛の面ざし醜怪のサラマンドラさながら
        永久懐疑の方程式にその身を自縛し
 

        形而上学に腐蝕した森林を廃馬は跳梁し
        生誕への憎悪を螺旋状に蒔き散らし
        査問委員会の断罪峻厳これ極まり
        白骨状の火は巡回裁判所の吏員に捕捉され
 

        干涸びた詩法は専制君主に恭順の態
        剥出しの陰核に無機質の喜悦にじませ
        拝礼の頌歌に告発の脚韻を踏み
 

        アルシミストは分析への希求やみ難く
        錆びたレトルトに再生の焔密封し されば
        火は白く怒りのごとく白く燃え尽きるのだ
 
 
 
 
 

           海洋
 
 

        海の響きの中に金属の生誕を告げる陣痛の呻きが聞こえる
        鉄の甲羅に身動きならぬ蟹は錆びついてひときわその重みを増す
 

        <重さは存在の悩みである あるいは悩みとは重量である>
 

        海底火山の噴火は海洋の階級闘争を撒き散らす
        魚族と烏賊族の空中戦 プランクトンの屍臭
 

        <階級とは質料の謂である あるいは質料は階級のはかりである>
 

        波打ち際には裏側の世界の風景が打ち上げられる
        胎児は波間を漂い 海草(スーブニール)の色に染まっていく
 

        <生誕は凄惨(プロデュース)である あるいは……>
 

        水夫は陸にあがり売笑婦の股間(コン)に嘔吐する・
        吐瀉物は腐敗した海洋であり機械仕掛けのヴィナスの種子を宿す
 

        <死とは堕落である あるいは……>
 

        老いたる廃馬は潮に腐飾し 赤く赤く錆びゆく
        海洋を流れる血潮は引き裂かれた遠心力なのだ!
 
 
 
 
 

           
 
 

        鳥は自分の影をみつけようとする
        影は彼の恥辱であるから
 

        鳥は大地を上に太陽を下に飛ぶのである
        彼は太陽に重みをゆだね影に存在をゆだねている
 

        鳥はだが自分を空飛ぶ便器であるとは認識しない
        彼の飛行原理は追憶ではないので
 

        影を釘付けにされた鳥は哀れである
        彼は機械的な叫びをあげて存在を回復する
 

        死んだ鳥は重みを失って太陽に光速度で転落する
        だがその影は気紛れな人間の手で剥がされる
 

        またぞろ存在と重みを分割されて
        鳥は空へと落下する
 
 
 
 
 

           テトラポット
 
 

        テトラポットは叙事詩的悲哀に濡れている
        生まれながらの幾何学的精神は
        牡蛎の殻で下腹部を覆う羞恥心に蝕まれ
        わずかな亀裂に貪欲な「海」はしのびこむのだ
 

        夜──波打ち際で裸体でいるためには
           プロメテウスの火が必要だ
 

        テトラポットは万古不易に呪われている
        ただ海底をコンクリートで敷きつめてしまうことで
        テトラポットは救われるのだ
 

        想像力を失った船は沈没し
        遠い昔にネプチューンは溺れ死んだというのに
        テトラポットは万古不易に
        叙事詩的悲哀に濡れている!
 
 
 
 
 

           黒塗りの薬缶
 
 

        むしろ「老い」とは得難きナチュラルである
        黒塗りなのは透明であることの証しで
        透明とはだから形を保つことである
 

        その形において薬缶は「老い」ている
        「若さ」は本来グロテスクで
        クロニクルを追い求めるものだ
 

        薬缶は水の形に支えられる
        薬缶はむしろ形而上の世界にいる
 

        宇宙への蒸発──コスモロ自慰
 

        薬缶がしんしんと「暗い日曜日」をうたうのは
        あれは透き通った「老い」の明朗さである
 
 
 
 
 

           補遺
 
 

         眼孔ウズメル宇宙ノ電波。──千年ノ
         血ヘノ別離。我ハ、石。
 

         地盤沈下。我ユーラシア人。海底ニ
         捨テン、ストロンチウム90ノ悩ミ。
 

         アマゾネス幼キ乳房河下リ。
         潜水艦沈ミ、ペダンティックニ沈ミ。
 

         貝殻ハ舞踏家ノ電磁発光(エレクトロ・ルミネンス)。
         青黴ハ死ス。電磁嵐来タル。
 

         十月ノ処女受胎。──乖離セル
         人造子宮(ダイヤ)。露ハシタタル。
 

         ソノ河ノ沈メル神(オシリス)。天翔ケヨ。オオ
         ストリッパア地平線ニ立ツ!
 

         見ヨ我ガ母。人造子宮(ダイヤ)。。酵素。蜘蛛。
         オオダッコチャン。少女ノ亀裂。
 

         小夜嵐。鹿鳴館ノアルテミス。
         鋼玉イジクル天体装置(プラネタリウム)。
 

         月食ノ子宮(ダイヤ)。光合成。子午線。
         陶器ノ肌ニ祈祷(ザーメン)ブチマケ──
 

         ペリカンハ薔薇。蛇ハ十字架。
         蜥蜴ハ鉄(マルス)。アヌスノ名ハアヌス。
 

         図書館ハ切片追放ニ駆逐サレ。
         銀河帝国ハドブ川ニ身ヲ映シ。
 

         我ハ書記(トト)。呪文唱エテ天翔ケル。
         女(アマ)ガ蹴ル魂、正方形ノ部屋。
 

         海流ハ年代記(クロニクル)流シ。石女(ウマズメ)ハ
         処女膜(ヒーメン)流シ。炭素14ノ彼岸。
 

         女(タオヤメ)ハヒーメンヒーメント泣き、
         男(マスラオ)ハ非有(メーオン)非有(メーオン)ト泣クカ?
 

         神殿ノ血マミレ胎児、ホムンクルス。
         トト神ハ来マセリ。黒キ地(ケム)ヨリ来マセリ。
 

         眩暈ノ蝶ノ死(シンメトリイ)。沓乎ノ
         神聖文字(ヒエログリフ)。氷河ノ起源。
 

         我、午後ノ錬金術師(アルシミスト)。──太陽ノ
         生殖眺メ、コスモロ自慰。
 

         鼻孔ヨリホトバシル聖液。
         円形劇場(コロシアム)ノ神学者、自涜。