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 ■ 不連続な読書日記                ■ No.261 (2004/10/31)
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 □ 清水高志『セール、創造のモナド』
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先日、台風23号で被害を被った兵庫県の但馬に出かけました。日高町の集落では、
2階まで水に浸かったという集落を見てゾッとして、出石町では、決壊した堤防の
すぐ脇の空地で、ここに一軒の民家があったときいて唖然とし、豊岡市ではマスク
を被った多くのボランティアの姿を見かけました。市長いわく、まずは一年分まと
めて出たゴミの処理、次に住宅の再建、そして産業の復興(豊岡は全国の鞄の8割
を生産している)。

中貝市長は私の長年の友人です。なにかできることはないかときくと、とにかく人
手が足りない。ゴミを片づけなければ、次の手がうてない。ボランティアの助けが
ほしいとのこと。たまたま連絡のあった某大学の友人にそのことを伝えたところ、
さっそく学生を連日送りこんでくれました。(自分ではなにもしていない。せめて
義捐金でも集めよう。)
 

●913●清水高志『セール、創造のモナド──ライプニッツから西田まで』
                           (冬弓舎:2004.4.20)

 冬弓舎を立ち上げて間もない頃の内浦亨さん(清水高志いわく「新人発掘の目利
き」)と祇園で会食したことがある。とても好感がもてたし、心から応援したいと
思った。人文書中心の一人出版社を経営するのはさぞ困難をきわめることだろう。
それ以来、これはと思う本が出るたび近況伺いをかねて冬弓舎のホームページから
メールで注文をだすようになった。この『セール、創造のモナド』も刊行後すぐイ
ンターネット経由で入手して、梅雨が明ける頃には読み終えていた。

 とてもいい本だった。まず表紙を飾る黒田アキさんのリトグラフが清冽で、物と
しての書物の魅力を高めている。ミシェル・セールという「知恵の人」の末裔にし
て「フランス現代思想の例外者」(いずれも序文を寄せた中沢新一の言葉)の文章
の美しさとそこに盛られた思索の新しさや深さ、多様性──「神話[ミュトス]と
数学の融合、バシュラールがその最終的な後裔であると見なされる、ロマン主義的
精神風土からの、形式主義的思惟に基づく新たなる批評精神の独立。そして「限り
ない多元論と局地的な複雑性の世界」のうちでの、それら双方の和解」(65頁)─
─が素晴らしい。

 なによりもそうしたセールの壊れ物にも似た魅力──幻視者すなわち「自然を、
世界を──人間社会をそう捉えるべきであるように──複雑な物語を啓示するもの
として捉え、真の謙虚さと信仰をもって、その啓示を読み取ろうとするもの」(187
頁)としてのセール──を細心かつ自在な解説と引用と分析をもって造形し、さら
にはドイツ・ロマン主義美学やベンヤミン、デリダ、ルネ・ジラール、そして西田
幾多郎といった「異種思想との対話の試み」(あとがき)を経てセールの思想的磁
場を測定しつつ、大胆に自らの思索へと向かおうとする著者の端正でいてどこか初
々しい叙述の姿勢がいい。

 ──セールはこれまで『五感 混合体の哲学』をざっと眺めたことがあるだけだ
が、その時の鮮烈で芳醇で官能的な読書体験の残り香はいまでも脳髄のなかに漂っ
ている。本書を読みながら、しばしばあの時の陶然が蘇った。

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