〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 ■ 不連続な読書日記                ■ No.227 (2004/04/30)
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 □ 鹿島茂『成功する読書日記』
 □ 岡崎京子『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』
 □ 四元康祐『ゴールデンアワー』
 □ 椎名誠『絵本たんけん隊』
 □ 中田力『天才は冬に生まれる』
 □ 福田和也『悪の読書術』
 □ 東山魁夷小画集『ドイツ・オーストリア』
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 

●804●鹿島茂『成功する読書日記』(文藝春秋:2002.10.10)

 成功する読書日記・入門編。まずはアトランダムな引用から初めて、次に引用だ
けからなるレジュメかコント・ランデュ(compte-rendu:物語や思想を自分の言葉
で言い換えて要約)。それに簡単な感想かコメントをつけて、読書日記はここまで。
そこから先は「批評という大それた行為」の領域だと書いてある。あとがきにかえ
て添えられた「理想の書斎について」がよかった。膨大な蔵書を誇る図書館を書庫
代わりにつかう、書庫なし、書棚なしの「理想生活」を送るためにも、引用レジュ
メやコント・ランデュで読書日記をつける習慣が不可欠だと書いてある。成功する
読書日記・実践編では、「オタクたちのバイブルとしての『嘔吐』」が面白かった。

●805●岡崎京子『ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね』(平凡社:2004.3.1)

「…つまりこういうこと。風景や歴史や世界のほうがぼくらよりずっと忘れっぽい
ということ。百年後のこの場所には君もぼくももういない。ぼくたちは世界に忘れ
去られているんだ。それって納得できる?」(23頁)

●806●四元康祐『ゴールデンアワー』(新潮社:2004.2.25)

 黄金の時間。GOLDEN HOUR は医師たちの一種の隠語で、緊急医療における最初の
一時間を意味する。「へーい、教えておくれよ、ぼくは/生き延びたんだろうかぼ
くのゴールデンアワーを/彼らは首を振り繰り返すばかりだ/できるかぎりの手は
尽くした、あとはもう/本人のちから次第だと」。タイトル・ポエム「ゴールデン
アワー」の最後の連だ。

 天才バカボン、巨人の星、あしたのジョー、東京オリンピック、大阪万博、アポ
ロ11号…。詩人は「あとがき」で、1960年代から70年代にかけての懐かしのヒーロ
ーたちを素材とすることを通じて、日々の下に埋もれた回路を開きたかったと書い
ている。「個を超えて、時代そのもの、その時代を共に生きた共同体へと、自らを
開くこと」。

 言葉がどうしようもなく開いてしまう感傷的な回想への回路を逆手にとって、詩
人は、幼年期というもう一つのゴールデンアワーへの回路をたぐり寄せ、マス・メ
ディア時代の叙事詩の書法を模索している。(それにしても、あとがきがついた詩
集ほど詩集らしくない詩集はない。「クレイジー・キャッツ」や「ちあきなおみ」
といったタイトルの詩ほど詩らしくない詩はないように。)

 ──読後、ジョルジュ・バタイユ(『文学と悪』)の言葉を想起した。「詩は、
ある意味では、つねに詩の反対物である」。「文学とは、ついにふたたび見いださ
れた少年時のことではなかろうか」。

●807●椎名誠『絵本たんけん隊 小さなまぶしいタカラモノをさがしに!』
                       (クレヨンハウス:2002.12.1)

 「ぼくは、こわい話というのは、お話の原点ではないかと思っているんです」。
「日本におけるこわさと、西洋におけるこわさというのは、ぼくは絵本のなかにひ
じょうによく表われているような気がします。だいたい日本では、森のなかでこわ
いものに会う絵本って、まずないです。…だからぼくは、『もりのなか』という絵
本を、ひじょうに興味深く読んでいるんです。」。──最後に、ぼく(椎名誠)の
読んだ絵本のなかのベスト1『もりのなか』(マリー・ホール・エッツ,福音館書
店)の朗読で、三年にわたった連続講座が終わる。「絵本は子どものためにつくら
れていると思われがちだけれど、そんなことはないと思うな。これは人間のために
つくられているんです。…もっと言えば、絵本は読むひとの感性に向けてつくられ
ているんです」。

●808●中田力『天才は冬に生まれる』(光文社新書:2002.11.20)

 天才ニュートンはクリスマスの日に生まれた。コペルニクスは2月19日。ケプラ
ー、12月27日。ガリレイ、2月15日。アインシュタイン、3月14日。ハイゼンベル
グ、12月5日。ノイマン、12月28日。ホーキング、1月8日。「本当の意味での天
才」ラマヌジャン、12月22日。そして、キリスト。「冬でなければ天才が生まれな
いわけではない。それでも、何故か、寒い時期に生まれた天才が多い。/この観察
に科学的根拠を示唆することがひとつある。脳の形成過程の法則に従った、自己形
成によるとの指摘である。/脳の渦理論と呼ばれている」。21世紀を代表する(と
本書に書いてある)渦理論を提唱した中田力の生年月日は?

●809●福田和也『悪の読書術』(講談社現代新書:2003.10.20)

 書物との間に緊張を作り出し、同時に他者の視線を導入する、つまり多少の見栄
も張る「社交的読書術」というアイデアが面白い。『資治通鑑』(司馬光)や『ヨ
ーロッパ文明史』(ギゾー)を読んでいる官僚や実業家を見ると「出来るな、と感
動してしまう」とか、高い地位にいる人が『ヘンリ・ライクロフトの私記』(ギッ
シング)のような本を手にしていたりすると「ちょっとかなわないな、と思います
」とか、ジョークも利いている。須賀敦子、白洲正子、塩野七生への評価に共鳴す
る。

 ──本書に触発された「私のブックガイド」。持ち運びに便利な薄い文庫本で、
カバーをつけずに人前で読むための常備本のリスト・日本文学編。石川淳『夷齋小
識』(中公文庫)、金子光晴『マレー蘭印紀行』(中公文庫)、白洲正子『いまな
ぜ青山二郎なのか』(新潮文庫)、幸田文『父・こんなこと』(新潮文庫)、高木
卓『露伴の俳話』(講談社学術文庫)。これは「日本思想編」に分類すべきものだ
が、最近、岩波文庫の三枝博音編『三浦梅園集』を50円で入手した。

●810●『ドイツ・オーストリア 東山魁夷小画集』(新潮文庫:1984.4.25)

 兵庫県立美術館の『東山魁夷展』を観た。東山魁夷の風景画がこれほどのものと
は知らなかった。光と生命と記憶を宿した画布はたしかにそこに有るのに、東山魁
夷の風景画は実はどこか遠くに在って、そこにはもうない。圧巻は唐招提寺御影堂
の障壁画。でも、北欧・ドイツの風景画も忘れがたい。図録を買いかけたけれど、
印刷された色彩と生の印象との乖離が激しすぎるのでやめた。美術館のショップに
揃えてあった文庫版小画集全六巻のうち、本書を記念に買い求めた。序文の第一行
に出てきた文章が『東山魁夷展』の印象を言い当てていた。「憧憬と郷愁、別離と
帰郷──それが旅の姿である。」

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
 ■ メールマガジン「不連続な読書日記」/不定期刊
 ■ 発 行 者:中原紀生〔norio-n@sanynet.ne.jp〕
 ■ 配信先の変更、配信の中止/バックナンバー
       : http://www.sanynet.ne.jp/~norio-n/index2.html
 ■ 関連HP: http://www.sanynet.ne.jp/~norio-n/
 ■ このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』 を利用し
  て発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000046266)
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓