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 ■ 不連続な読書日記                ■ No.176 (2003/08/01)
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 □ 『脳の謎に挑む』茂木健一郎編著
 □ 『最新脳科学』
 □ 『InterCommunication』NO.45
 □ 『ソトコト』(2003年6月号〜8月号)
 □ 『21世紀は江戸時代』増刊現代農業
 □ 『論座』(2003年8月号)
 □ 『PLAYBOY』(2003年9月号)
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●598●茂木健一郎編著『脳の謎に挑む ブレイクスルーへの胎動』
     (臨時別冊・数理科学SGCライブラリ24,サイエンス社:2003.5.25)
●599●『最新脳科学 心と意識のハード・プロブレム』(学習研究社:1997.6.5)
●600●『InterCommunication』NO.45「特集|知覚と運動のシナジー」
                          (NTT出版:2003.7.1)

 雑誌を一冊丸ごと読み切って至福の時を過ごすのは、あいかわらずの見果てぬ夢。
そのあげく、書架の限定されたスペースを埋める常備本がいたずらに増えてゆくば
かり。

 『脳の謎に挑む』は、「脳科学の現在」「脳と心のハードプロブレム」「複雑系
としての脳」「脳科学と周辺領域」の四章仕立てで17本の論文・対談を収録し、
編著者いわく「このような,「総力戦」としての脳科学の姿をきちんと提示した書
物は,日本はもちろん,国際的に見てもあまり見られない」。「脳の情報処理のメ
カニズムをよく理解するためには,脳全体をシステムとして理解する必要がある」
に始まる茂木健一郎「脳科学のシステム論的転回」は「錬心術」の時代を抜け出す
一つの(もしかしたら唯一の、そして不可能な)方向を示唆し、「脳と記号は,食
い合わせである」に始まる養老孟司「脳と記号」は養老人間科学の発出を告げる。

 ということで、冒頭の2論文を熟読し、あとはパラパラと眺めた。ここ6年近く
その背表紙を眺めてきた『最新脳科学』(チョムスキー、デネット、ペンローズ、
チャルマーズといった面々のインタビューがたっぷりと収録されたお得な本)とと
もに、間歇的に再訪すべき基礎文献となった。

 『InterCommunication』は、小金を懐にしたとたん書籍購入欲が高じ、でもこ
れといって入手したい本が見当たらない時などに、ついつい特集に惹かれて買い集
めてきた。私が愛読する数学エッセイスト(最近三冊目が出たばかり)で、『サイ
バー経済学』以来めっきり経済学者(貨幣研究者)ぶりが板についた小島寛之の連
載最終回「マネー イズ メモリー」(コチャラコータの貨幣=記憶の代役説を紹介
)が楽しめたし、「声の文化」が支配し「あらゆるものが同時に存在する」カトリ
ック的中世世界の情報様式について、口誦性、触覚性、共感覚性、同時性、多元性
に加え強度・豊饒性としての「冗長性 redundancy」の概念を指摘した山内志朗の
「マクルーハンとカトリック」も秀逸だった。というか、ちゃんと読んだのはそれ
くらいで、残りはこれから少しずつ、折りにふれて読み進めていくことになる。

●601●『ソトコト』NO.48(2003年6月号)
         「特集|癒し系医療を知っていますか?」(木楽舎:2003.6.1)
    『ソトコト』NO.49(2003年7月号)
       「特集|夏休み、エコ体験ツアー100選!」(木楽舎:2003.7.1)
    『ソトコト』NO.50(2003年8月号)「特集|スローライフ大国、
              ドン・キホーテのスペイン!」(木楽舎:2003.8.1)
●602●『21世紀は江戸時代──開府400年 まち・むら・自然の再結合』
                (増刊現代農業,農産漁村文化協会:2003.8.1)

 『ソトコト』(「地球と人をながもちさせるエコ・マガジン」)は、このところ
俄に「スローフード」や「スローライフ」といった言葉に関心が高まってきたので、
久しぶりに定期購読雑誌を一つ持ってみようと思い立ち、とりあえず3号続けて買
って眺めた。編集者や執筆者のセンスにじっくりと触れて、スローな理解、腑に落
ちる理解、というものを体験するため、1年くらい続けてみようかと思っている。

 6月号で「ロハス」(Lifestyles Of Health And Sustainability)という
言葉を知った。(「ナチュラルメディスン」をめぐる竹村真一の文章がいい。)7
月号に載っていた残反バック「KUROMUSUBI」を購入し、8月号を読んで、村治佳織
のCDを買うことにした。「良いギターというのは、表面の板をたたくとわかるん
ですね。それだけで良い音がする。バランスが良くて立体的な響きを出してくれる
んです」(村治)。同じ号で細野晴臣が、打楽器がもたらす快感を「脳と体の橋渡
し」「意識と無意識の橋渡し」と表現していた。

 『現代農業』の増刊(「自給と扶助で暮らしを変える」)は、これまでから「食
の地方分権」や「スローフードな日本!」といったテーマに惹かれてきた。で、一
度じっくり読んでみようと思って、最新刊を入手した。農産漁村文化協会は、国書
刊行会とともに、気になる出版社の一つだった。その農文協から著作集が出ている
守田志郎の『日本の村』への鶴見俊輔の書評が面白い。

《長屋の思想そのものが、私には、日本文化の高い達成のように思われ、それを表
現した落語は、日本の文化遺産のもっとも重大なものの一つと思える。そこにへ、
明治以後の都市文化のとりおとした、あたがいのつきあいの規則がふくまれている
ように思われる。しかし、長屋の思想を部落の思想から見て、このように批判する
ことができるし、部落の思想は長屋の思想よりも、この島で日本人がくらしてゆく
上で、生産に直接結びつくものとして、もっと根本的である。》

●603●『論座』(2003年8月号)「特集南島への想像力」(朝日新聞社)
●604●『PLAYBOY[日本版]』(2003年9月号)
              「総力特集セックス・オン・ザ・エッジ」(集英社)

 もう30年以上も昔の話になるが、かつて『朝日ジャーナル』と『平凡パンチ』
が大学生の必携品と言われた時代があった。

 『論座』は、「会社はこれからどうなるのか」と「40歳からの恋愛講座」の二つ
の特集を組んだ8月号がソールド・アウト続出だそうで、いま旬を迎えている雑誌
らしい。藤原新也と鹿島茂の対談「南島はパリにつながっている」とか「加藤周一、
『日本文学史序説』を語る(上) 「転換期」とは何か──空海、道元、利休、一休、
世阿弥らの「時代精神」」とか、いろいろ読む。『論座』も1年くらい定期購読し
てみようか。

 対談では、鹿島が「南島的思考」(身体で考える)という言葉をひねりだし、藤
原が「「南」は思考自体を溶かしてしまう」と応じていた。金子光晴『マレー蘭印
紀行』から「珊瑚島」の文章が引用され、金子が南島で暮らして(エロ本を書きな
がら旅費を作って)パリへ行ったことが話題になっていたのも印象に残った。(実
は、学生時代に愛読した中公文庫版『マレー蘭印紀行』をこの夏のどこかで再読し
ようと、たまたま手元に持っていた。)

 加藤の「転換期」で印象深かったこと。その1、十三世紀における転換(方角の
変化)をめぐって。《共通点はあらゆるものに対する超越性。そういうものの強調
は同時に信仰の個人化です。それが同時に来たのは日本史上、時代精神としては最
初にして最後です。個人的にはほかにもありますが、鎌倉時代だけなんです。そう
いうかたちで信仰が成立し、超越的宗教が日本をとらえたのは。》──この超越性
は、そのあと「水割り」されていった。一つに、絶対的真理との合一という神秘性
と超越性が世俗化し、宗教が倫理になっていったこと。もう一つは芸術、とりわけ
利休のお茶。

 その2、世阿弥の能(夢幻能)には禅の影響が強いと指摘した後で。《一人の人
間の生と死をまたいだ、人間存在の内部の劇であって、二人の人間の矛盾、争いが
劇を作っているのではない。人間関係は社会ですが、これは社会に超越的な劇です。
その意味で、空間と時間を超えて、ギリシャ神話に非常に近いと思います。》

 その他、河合隼雄の新連載「大人の友情」で、日本語の表現の「虫が好かぬ」、
「虫の知らせ」、「腹の虫がおさまらぬ」などという「虫」を「無意識」のことと
思うと面白いのではないだろうか、という指摘が面白い。松岡正剛の『分母の消息
(三)』に「蠱術と姫君」の章が収録されていて、中国は「虫の国」であった、道路
をつき固めた中国の都市とは「虫封じ」の場所なのである、云々と書かれていた。
──なお、「馬が合う」というときの「馬」については、フロイトが人間の自我と
無意識の関係を、騎手と馬との関係になぞらえているとのこと。「馬が合う」とは、
何らかの無意識的なものを共有しているということ。

 『PLAYBOY』では、鹿島茂と島田雅彦のアカデミック・エロス対談「フラ
ンスより、ロシアより、日本は変態先進国だ」が面白い。鹿島が「変態というのは、
頭脳セックスだから、頭脳セックスの行き着く先は、ノンセックスになっちゃうわ
け。対象がいらなくなっちゃう」と言い、識字率と出生率で社会の進化をはかるな
ら、「世の中が変態化する日本は、文明化したので変態になるのは当たり前で、出
生率の低下とリンクしている。で、ますます性交から遠ざかる。そうなると、女性
の露出度が増えるんです。男を誘惑しなくちゃならないから。(略)だから女性の
露出度と変態度というのも、文明の進化として有効なんじゃないかな」と無責任に
放言する。今後のセックスについて。島田「24人ものキャラが自分にあったら、同
じ相手でも24通り楽しめるかな」。鹿島「これからのセックスは演劇化されること
が必要」。

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