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■ 不連続な読書日記 ■ No.135 (2002/10/26)
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□ 『芸術新潮』「特集 少年ピカソ」
□ 『芸術新潮』「追悼特集 バルテュス」
□ 『バルチュス展』カタログ
□ 『芸術新潮』「大特集 ケルトに会いたい!」
□ 『ケルト美術展』図録
□ 『フェルナン・クノップフ展』図録
□ 『ベルギー・ゲント美術館展』図録
□ 『姫路市立美術館ベルギー美術コレクション』
□ 『ベルギーの巨匠5人展』カタログ
□ 『ブラッサイ展』図録
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●428●『芸術新潮』2002年11月号「特集 少年ピカソ」
先日仕事で東京へ出かけて、半日時間が余ったので上野の美術館をはしごした。
まず国立西洋美術館の『ウィンスロップ・コレクション──フォッグ美術館所蔵1
9世紀イギリス・フランス絵画』で、「過去と東方」「神秘と顕現」「誘惑と堕落
」「象徴と偶像」の四つの部屋の70の作品を観て陶酔し(よく知っている絵もよ
く知らない絵も、どれもみな好きな絵ばかりだったので)、図録は重かったので購
入せず、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの「奴隷のいるオダリスク」
とギュスターヴ・モローの「出現」とエドワード・バーン=ジョーンズの「パーン
とプシュケ」とダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「窓辺の淑女」とオーズリー
・ビアズリーの「孔雀のスカート」(『サロメ』のための挿絵)の絵葉書を買った。それから上野の森美術館へ行って、『ピカソ 天才の誕生 バルセロナ・ピカソ美
術館展』で「幼年時代からアカデミー(美術学校)へ」から「愛とエロス」まで1
1のコーナー、少年期からパリ定住までの222の素描中心の作品群(日本初公開
)に圧倒されて、ここでも図録は購入せず、「初聖体拝領」と「自画像ほかのスケ
ッチ」の2枚の絵葉書を買い、上野駅のアイリッシュ・パブで珈琲を呑みながら(
夜に仕事が入っていたのでギネスは呑まなかった、残念)カフカの『失踪者』を読
み終えた。とても充実した午後だった。美術館や博物館で特別展を観るたびに気に入った数枚の絵葉書を買うようになっ
たのはいつ頃からだろう。物心ついて初めて自分の意志で足を運んだのは、という
より記憶している最初のミュージアム詣では、大学受験を間近にひかえた寒い日に
同じ大学を志望していたガールフレンドと二人で、当時住んでいた姫路から神戸ま
で兵庫県立近代美術館へルノアール展を観にでかけたのが最初なのだけれど、その
時に絵葉書を買った覚えはない。1984年に京都国立近代美術館で「バルチュス展」を観たときは、作者の希望
により絵葉書は販売しないと断ってあったのをいかにもバルテュスらしいと思った
記憶があるので、その頃にはこのささやかな趣味ははじまっていたのだろう。その
時は絵葉書のかわりにはじめてカタログを買った。それまでは図録を買うくらいな
らそのお金でもっと印刷が綺麗な美術書を買う方がいいと思っていた。なによりあ
のくだくだしく大仰な解説の類が嫌だった。でも「バルチュス展」のカタログはと
てもいい出来だったので気に入って、それ以来、よほどのことがない限り図録を購
入するのが習慣になって、絵葉書と同様後日反芻することがこよない歓びとなった。『ウィンスロップ・コレクション』の図録はあまり印刷がよくなかったし、ほと
んどの絵は別の方法で確認できるのであまり後悔していないが、『ピカソ 天才の
誕生』の方はいかに旅先で鞄が重くなるのを嫌ったとはいえやはり購入しておくべ
きだったと少し悔やんでいた矢先、『芸術新潮』が特集(副題「天才神話を旅する
」)を組んでくれたので、さっそく求めて休日の午後、最初はバロック・オルガン、
後半は50年代のジョン・コルトレーンを聴きながら読んだ。思いはバルセロナを遊
弋している。●429●『芸術新潮』2001年6月号「追悼特集 バルテュス」
●430●『バルチュス展』カタログ(朝日新聞社:1984)『芸術新潮』の特集副題は「なぜあなたは“少女”を描くのですか?」。1984年、
京都国立近代美術館の「バルチュス展」で観た「コメルス・サン・タンドレ小路」
「部屋」「美しい日々」「画家とモデル」「子供たち」等々の具象画の残像が甦っ
てくる。──「バルチュスの生成変化」(ガタリ「街路のなかの亀裂」)。『嵐が
丘』を読みたくなった。──2000年、フランスで刊行された晩年のインタビュー集
の抄訳が掲載されていた。そこから「女 Femme」の項を抜き書きしておく。《少女とは生成の受肉化である。これから何かになろうとしているが、まだなりき
ってはいない。要するに少女はこのうえなく完璧な美の象徴なのだ。成人した女性
がすでに座を占めた存在であるのに対して、思春期の少女[アドレサン](この言
葉はラテン語の「アドレスケレ」=「成長する」から来ている)は、まだ自分の居
場所を見つけていない。…でも、わたしの作品をエロティックと評するのは馬鹿げ
ている。少女たちは神聖で、厳かで、天使のような存在なのだから。結局のところ、
わたしとあの哀れなナボコフに共通点があるとしたら、それはユーモアのセンスだ
けだ。》●431●『芸術新潮』1998年7月号「大特集 ケルトに会いたい!」
●432●『古代ヨーロッパの至宝──ケルト美術展』図録(1998)事の発端は1998年6月、東京都立美術館で開催されていた『ケルト美術展』
で観た「仮面」にある。「本体が失われた木製水差しの装飾部品」(紀元前三世紀、
モラヴィア博物館蔵)六点のうちの前面の青銅製人面がそれで、1991年春、ヴ
ェネツィアで開催された『ケルト人──始源のヨーロッパ』展のポスターにも使わ
れたもの。この奇怪な立体装飾を前にして、いま自分は何か根源的なものに面して
いるのだという身震いするような時空感覚の痙攣に襲われた。それは、抽象的かつ
感覚的な情動性そのもの、あるいは内面性や深層的次元を欠いた(いまそこにある
)無意識の「表現」に面しているのだ、といった戦慄をともなう経験だった。この
獣めいた人面は、人格的同一性や内面的一貫性などに拘束された「顔」であるはず
もなく、強いていえば生物的・精神的な圏域を超越した「貌」なのではないか。こ
うして、仮面をめぐるあるアイデアが私のうちに浮上してきた。……『芸術新潮』の特集の副題は「魂の島アイルランド旅行」で、本書は特集「ケル
ト 螺旋のコスモロジー」を組んだ『STUDIO VOICE』vol.240(1995年12月)ともど
も、いつの日にかケルトの地を踏むときのための永久保存本。●433●『フェルナン・クノップフ展』図録(1990)
●434●『ベルギー・ゲント美術館展』図録(1994)
●435●『姫路市立美術館ベルギー美術コレクション』(1998.1)
●436●『ベルギーの巨匠5人─アンソールからマグルット、
デルヴォー─展』カタログ(2000)大学生の頃、友人と友人のガールフレンドと、それから私と私のガールフレンド
の四人で「ポール・デルヴォー展」を観たことがあって、澁澤龍彦の本で仕入れた
知識を思うさま披露した覚えがあるのだけれど、たぶん誰も聞いていなかった。そ
れがいったいどの美術館だったのかは思い出せない。1983年に兵庫県立近代美
術館で「ベルギー象徴派展」を観て、クノップフのすべての絵、とりわけ「赤い唇
」と「みすてられた町」に魅了されて以来、ラファエル前派や英国ロマン派ともど
も、アンソールやマルグリットもふくめたベルギーの画家たちがすっかり気に入っ
てしまってから、それはきっと近美だったに違いないと確信している。上に掲げた三つの企画展はいずれも姫路市立美術館のもので、この一貫したポリ
シーはとても素晴らしい。(もしかすると「ポール・デルヴォー展」を観たのも姫
路だったのかもしれない。)●437●『ブラッサイ展──パリの憂愁を謳う写真の詩人』図録
(PPS通信社:1990)と、こうやって終日、蒐集した絵葉書やたまたま手元に置いていた図録を眺めて
過ごしているうち、これまですっかり忘れていた写真展のカタログが出てきた。1
930年代のパリの夜や街や人々、ピカソやヘンリー・ミラーのポートレイトを一
枚、一枚丹念にみつめていると、それがどこから来るのかはわからないけれど、詩
になりきれない言葉のようなものが浮かび上がってくる。ジル・ドゥルーズが『批
評と臨床』の序言に「人が見るのは、そして聴くのは、言葉を通してであり、言葉
のあいだでのことである」と書いているのは、私の場合、(絵画ではなく)写真を
眺めているときに実感できるあるメカニスムのことを言っているのではないかと思
う。(気に入った絵画はけっして忘れないけれど、たとえばブラッサイのように、
それがどれほど強烈な印象を刻印するプリントであったとしても、写真はたちまち
忘却の闇に沈んでしまう。ちょうど、暗闇のなかで観る映画のように。いずれも、
私の場合。)〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
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