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 ■ 不連続な読書日記               ■ No.117 (2002/06/09)
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 □ 中沢新一『緑の資本論』
 □ 佐々木毅・金泰昌編『公と私の思想史』
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連日のサッカー観戦で、もう頭も躰も疲労困憊。ひいきのアイルランドとイングラ
ンドが素晴らしいゲームをしてくれるものだから、よほどのことでは感動しなくな
ってしまった。だから、読んだ本の感想をきちんと書きとめておく気力が湧いてこ
ない。
 

●369●中沢新一『緑の資本論』(集英社:2002.5.10)

 本書は、ニューロサイエンスに裏打ちされた神学‐経済学原論である。

《キリスト教的一神教と古典派経済学(さらには、西欧における生産・流通・分配
の構造そのもの)の間には、いままで考えられてきた以上に、深い本質的な関係が
存在しているのではないか。私たちは、これまで明らかにされることのなかった、
神学と経済学を結ぶ「見失われた環」を再発見するための探求をはじめる必要があ
る。イスラームとキリスト教、同じ一神教の二つの文明圏における、今日の「衝突
」が意味するものを最大の深度で理解するためにも、この探求は重要なのである。》
(「緑の資本論──イスラームのために」,71-72頁)

 認知論的考古学(スティーブン・ミズン『心の考古学』)が明らかにした大脳ニ
ューロン組織の革命的変化から二万年、さまざまな機能に特化された諸領域を横断
的に接続する新しいニューロン・ネットワークがもたらした「流動的知性」の働き
の内部に横断性や変容性や増殖性よりもずっと根源的な「超越」のあり方を発見し、
これを「一[いつ]」と名づけた「第一次形而上学革命」(ミシェル・ウエルベッ
ク『素粒子』)。

 この現生人類の「霊的」飛躍がもたらした「一神教的記号論」の思考は象徴界と
現実界の直接的一致の原理に根ざしたものであって、想像界の魔術的・多神教的増
殖性を、たとえば貨幣(シニフィアン)が父なき処女懐胎や自己増殖によって貨幣
(シニフィアン)を生むことを否定する。

 ……以下、いつもながらの、しかし9.11によって屈折した中沢節が続く。

●370●佐々木毅・金泰昌編『公と私の思想史』
                (公共哲学1,東京大学出版会:2001.11.16)

 いくつかのスクラップ。金泰昌氏の「公共性の捉え方」の三区分。1.国家と公
共性を同一視する共同性の原理、2.公共性が個人の欲求・権利の確保・保護であ
るという前提に立つ自由(化)の原理、3.国家と個人との媒介こそが公共性であ
るという前提に立つ相互媒介(共媒)の原理。

 小林光夫氏が国際法における「コモン(共)とパブリック(公)の区別」という
問題を提起。それを受けて福田勧一氏が、コモンとパブリックは「相互交叉的」に
使われてきたと言う。《温暖化一つ見ても,これが単にコモンであるばかりではな
く政治社会としての単位を重層化して考えるとしたらパブリック以外のなにもので
もない.》(82頁)

 また小森光夫氏が、政府と地方自治体との関係も同じ構造ではないかと指摘して
いる。間宮陽介氏の発言。《単に制度があるだけではパブリックではない.政府が
あるだけでもパブリックではない.何かをしているということがないとパブリック
ではないのではないか.だから,アーレントから汲み取るべきことは「言論活動」
だと思う.もっと一般化して,「活動」があるから「公共空間」が作られるという
ふうなところへ持っていくと,共和主義だ何だという話にならないと思う.》(91頁)

 板垣雄三氏の「イスラーム思想史における公と私」からの抜き書き。

《イスラーム経済論の重要な柱は,(a)福祉目的税としての〈ザカート(喜捨=公
共福祉税)〉の制度的充実であり,(b)不労所得としての〈リバー(利子)〉の禁
止,それにともなう無利子銀行の活動であり,(c)情報ネットワークを通じたコミ
ュニケーションの増殖による〈ムシャーラカ(パートナーシップ)〉の展開である.
[中略]無利子銀行と〈ムシャーラカ〉は密接に関連するので,上記の(c)は(b)の
一環として理解することも可能である.…出資者としての個人と銀行と事業プロジ
ェクトが連携・協同し,各パートナーの自己責任において損益が分担される(PLS
[Profit-Loss Sharing]方式). このような情報の公開と共有,出資者の責任あ
る参加によって,利子生みが回避されるだけでなく,〈私〉の〈公〉化および〈公
・私〉の統合を達成することができる,と考えられている.ここでは,いわば高度
情報化人間こそイスラームにおける人間の理想ということになろう.イスラーム経
済論は,人間のホモ・エコノミクス化の性向を自覚しつつ,「経済」分野を他から
分割して一人歩きさせることを拒否して〈タウヒード[一つにすること,一と決め
ること,一化]〉を実現しようとする〈ジハード(努力)〉の企てであるというこ
とができる.》(121-122頁)

 「発展協議」での板垣氏の発言。

《私はおかしな言葉ですが,多元主義的普遍主義ということを言っております.タ
ウヒードというのは,一つにするということのまず前提として,気も遠くなるほど,
…頭が本当におかしくなるような,そういう多様性というか,差異に満ちた世界,
宇宙の現実を認めて,その上で,これにめげずに,それを一つひとつ数え上げてい
くというタフな精神,それを私は「枚挙の精神」と言っているわけですが,そうい
うものに支えられるところで成り立ってくるような究極的統一の確信,これこそが
タウヒードなのだと理解しております.宇宙から人生にわたるあらゆる事象現象が
神の存在の「しるし」なのだとする確信する精神から科学は成立する,とイスラー
ム教徒は考えるのです./違いはいろいろあろうがともかく一つだ,一つにしてし
まえというような暴力的な話ではないように思う.そこで多元主義的普遍主義と言
ってみたりしているわけです.》(222頁)

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