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 ■ 不連続な読書日記               ■ No.61 (2001/07/29)
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 □ 細野真宏『経済のニュースがよくわかる本〈銀行・郵貯・生命保険編〉』
 □ 佐藤雅彦・竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』
 □ 糸井重里『インターネット的』
 □ 加藤清・鎌田東二『霊性の時代─これからの精神のかたち』
 □ 小室直樹『日本人のための宗教原論』
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●160●細野真宏『経済のニュースがよくわかる本〈銀行・郵貯・生命保険編〉』
                            (小学館:2001.8)

 たしかにほんとうによくわかる。わかったつもりになっていたこと、わかったふ
りをしていたこともよくわかる。経済や経済学や金融システムではなく、つまり事
実や事実の見方、理論や理論の評定の仕方ではなくて、経済のニュースが「よくわ
かる」ことに徹したところが潔い。風が吹けば桶屋が儲かることは知っていても、
その筋道や論理がわかっていなければ、風が吹いて桶屋が儲かったというニュース
の意味がわかっているとはいえない。でも、風が吹けばいつも桶屋が儲かるわけで
はない、というニュースにならない事実やそこに示されている論理はわからない。
このことさえ弁えていれば、本書は小学生でなくても読む価値がある。

●161●佐藤雅彦・竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』
                        (日本経済新聞社:2000.4)

 ヒルデガルトは、エデンの園でまだ人間が堕落する前には、耳や目は性的器官で
あった、つまり堕落によって霊性(スピリチュアリティ)と性性(セクシュアリテ
ィ)が分離したと語っている(『霊性の時代』)。あまり関係ないのかもしれない
けれど、「労働と失業」をテーマにした本書第9章でシュンペーターが話題になっ
ていて、竹中平蔵が次のように語っているのが妙に印象に残った。

《イノベーションという観念を、シュンペーターは別の言葉で表してるんですよ。
日本語では「新結合」って訳されてるんです。新しい結合。これはまさにアイデア
とか言葉とか、そういうのに通じますよね。新しい結合なんです。それがブレイク
スルーになるんです。》(333頁)

●162●糸井重里『インターネット的』(PHP選書:2001.7)

 インターネットと「インターネット的」は違う。それは、自動車や道路のセット
とモータリゼーション(自動車が社会的に浸透して変化したことのすべて)の違い
みたいなものだ。役割や肩書きのジョイントではなく「思い」を含めた情報のリン
ク、市場占有率ではなくて「おすそわけ」という意味でのシェア、価値のヒエラル
キーからフラットへ。これら三つのキーワードを見るかぎり、インターネット的で
あるためにはパソコンはいらない。

 パソコンやインターネットは道具でしかない、大切なのはそれを使って何をやる
か、どう楽しむかだ。ここまでなら誰でも言える。そこから先のことをまるごと語
った本は、たぶんこれが初めてではないか。

『ほぼ日刊イトイ新聞』を出し続けているのは、クリエイティブの水子供養のよう
なことなのかもしれない、と著者は書いている。《インターネットができたことで、
「誰でも思ったことを垂れ流せる」という意見は否定的にせよ肯定的にせよ、よく
語られてきました。しかし、もっと重要なのは、垂れ流せるとわかったおかげで「
思ったり考えたりすることの虚しさがなくなった」ということだと思います。画面
の向こう側とこちら側に「人間がいて、つながっている」という実感が、クリエイ
ティブを生み出すこと、送ること、受け取ることの楽しさを思い起こさせてくれた
ことが、革命的なのだと思っています。》(159-160頁)

 本書に対して、楽天的すぎる、インターネットの陰の部分が扱われていない、な
どと批判しても無意味だ。インターネットと「インターネット的」とは違う、と著
者は最初に断っている。

 本書でもっとも面白かったのは、インターネット的という切り口から見ると、「
人間まるごと」が、勝ち負けや強弱といった二項対立的な思考を強いる「脳」に反
乱しているように見える、新しい時代には答えの見えないことがもっと価値を持つ
ようになるのではないか、つまりもっと「魂」に関わることに人間の意識が向かっ
ていくのではないか(93-94頁)、という著者の「予言」だ。

 人間の社会は、食を中心とした農業社会(内胚葉→消化器・内臓系)に始まり、
工業化社会(中杯葉→筋肉系)を経て情報化社会(外胚葉→神経系)に移行してき
たのだが、さてそのあとにはどんな社会がくるのか。著者は、それは「魂(スピリ
ット)の社会」なのではないかと言う。

《「食物を持つ・生きられる満足」を得ようとする農業社会の時代が、「ものを持
つ・力を持つ満足」の工業化社会に移行し、「ことを持つ・知恵を持つ満足」の情
報化社会がきたのですから、次は、持つことから自由になって「魂を満足させるこ
とを求める」社会がくるのではないかと考えても、そんなに不思議はないとも思う
のですが。》(112頁)

●163●加藤清・鎌田東二『霊性の時代─これからの精神のかたち』
                            (春秋社:2001.3)

 鎌田東二が書いたまえがきに、本書のキーワードが列記されている。スピリチュ
アリティ、セクシュアリティ、シャーマニズム、イニシエーション、密教、超宗教、
沖縄、場所の力、一人[いちにん]、創造の病、そして健康。(「魔抜け」や「魂
風」という鎌田の言葉と、「調律」や「阪神大震災よ、ありがとう」という加藤翁
の言葉も加えておこう。)

 シモーヌ・ヴェイユと親鸞をめぐる話題(二人とも、病いが創造性を持っている
ということを一つの哲学にし、それを生きた、と鎌田は言う)、親鸞と同じ世紀を
生き「エックハルトの先駆け、ドイツ神秘主義の最初」(加藤)であったヒルデガ
ルト・フォン・ビンゲンをめぐる話題(ヒルデガルトは、堕落以前の人間の目と耳
が性器だったと語った)がとりわけ面白かった。

《ぼくは「今の私」と「私の今」に分けるけれども、現在、私は「私の今」にいる
わけで、「今の私」を捨ててしまって。「私の今」になって、いま話していると思
うんです。そういう点で、将来のビジョンができるだけ見える態勢のもとでいつも
生きていきたいと思う。》(加藤、238頁)

●164●小室直樹『日本人のための宗教原論』(徳間書店:2000.6)

 宗教とは畢竟、このうえもなく恐ろしいものなのだ。資本主義とデモクラシーと
近代国際法を生み出したキリスト教。予定説(キリスト教)と因果律(仏教)の対
比。キリスト教のキーワードは予定説、仏教は「空」、イスラム教は「コーラン」、
儒教は「官僚制度」。日本にあるのは「労働共同体」だけだ。『豊饒の海』で唯識
の法相宗を徹底的に解明し魂の輪廻転生を否定した三島由紀夫は、生まれ変わって
復活するものは何かという宿題を読者に残した。以上、印象に残った断片。(結局、
仏教を論じた章がいちばん面白かった。)

 以前著者の『資本主義原論』を走り読みして経済学が解ったような気になったの
だが、本書を概読して、これは実用書(ホンモノの宗教の見分け方)だと納得した。
(結局、マックス・ヴェーバー。)

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