第5章 四人の王子たち



  27 灰色の鹿の間の裁き
 球根城の牢獄の中で一夜をあかしたぼくたちは、次の日の朝から、交替でカ エレレとアギララの尋問をうけた。ロンガとリジーとぼくの三人がよばれたのは 、一番最後だった。 ぼくたちが尋問をうけた部屋の正面には、灰色の鹿の首の剥 製が飾ってあった。書記のワッパスッパとニッパスッパが、おまえたちがもし嘘を つくとあの灰色鹿の眼の色が真っ赤に変わるのだと、もったいぶっていった。
 「いよいよおまえたちを取り調べるときがきた。眠れるレンゲ姫が涙を流し たのは、おまえたちの出番のときだったのだ。わしらの力の及ばぬことが球根城で おこったのには、なにか理由があるに相違ない。噂にきくゲドーの反乱軍が関係し ておることは間違いあるまい。嘘偽りをせず知っていることをあらいざらい話すよ うに」
 カエレレとアギララは、ぐったりと疲れた声でぼくたちに命じた。ロンガが 何かいおうとすると、ワッパスッパとニッパスッパの二人が、大きな声で口論をは じめた。
 「どう思う、ニッパスッパ。おれにはどうもこいつらとレンゲ姫の涙との間 に関係があるとは思えないんだ」
 「それはまたどういう意味だい、ワッパスッパ。カエレレ様とアギララ様の おおせの通り、この三人は絶対に怪しいと、おれは思うがね」
 「おれの考えはこうだ。まずこのロンガの顔を見るがいい。いかにもできそ こないの役人、役にたたない役人、無用の長物そのものといったところじゃないか 。こんな人物がどうして、われらがコンロン王にはむかおうなどという大それたこ とを企む連中の仲間なものか」
 「いやいや、それは早計というものだ。なにしろこの男の弟は、かの早耳早 がけのロングだということを忘れてもらっては困るよ。ロングがどれほどゴダイ国 にとって手強い男だったことか。だからこそコンロン王はカエレレ様とアギララ様 にお命じになって、ゴダイの戦士が球根城を襲う前に、ゲドーの国から逐われるよ うに仕組まれたのじゃないか。レング王子や怪力ラングやルング大臣と一緒にな」
 「弟は弟、兄は兄。おまえだっておれの弟だが、ロンガ、ロング兄弟とは反 対で、兄のおれに似ず、随分とできが悪いじゃないか」
 「なにをいうんだ。どうしておれのできが悪いんだ。さては兄貴、おれが球 根城の庭師の娘と仲がいいのを妬いているんだな。ロング、ロンガ兄弟とは反対で 、おれたち兄弟の場合は、弟の方が恋の勝利者になる運命のようだな」
 ワッパスッパが真っ赤な顔でニッパスッパに殴りかかろうとしたとき、それ 以上に真っ赤な顔でカエレレとアギララがどなった。
 「ええいうるさい! 兄弟げんかはよそでやれ。ここは神聖なる裁きの場な のだぞ。おまえたちはここでは道化ではない。書記という大切な役をになっている ことを忘れるな」 カエレレとアギララに一喝されて、ワッパスッパとニッパスッ パはしょげかえってしまった。
 「アマクサを知っておるな」
 とつぜんカエレレとアギララがぼくたちにきいた。
 「アマクサ? さて、きいたことがあるといえば、そのような気もしますが 。それは、花の名前ではなかったですかな」
 ロンガが必死に演技をしていた。尋問がはじまる前に、牢獄の仲間たちは一 つの堅い約束をした。それは、ぼくがアマクサだということを決して口外しないこ とだった。尋問をうけた者は、違う牢獄へいれられたらしいので、これまでの取り 調べで、カエレレとアギララがどの程度までつかんでいるのか、わからなかった。
 ぼくはふと妙なことを考えた。さっきのワッパスッパとニッパスッパの会話 は、途中で変な話題になってしまったけれども、本当は何かほかのことをぼくたち にきかせたかったのではなかったんだろうか。ぼくがそんなことを思ったのは、ワ ッパスッパがしきりにぼくの方を盗み見ては、あわててまた目をふせて速記録づく りに専念するふりをしていたからだった。
 「隠さずともよい。わしらにはすべてわかっておる。アマクサとはおまえた ちが信仰する救世主の名前であろう。われらゴダイによって球根城を奪われしより 二十六年の後にこの地にあらわれ、おまえたちをわれらより救いだす。こつぜんと あらわれ、いずこともなく消えさった旅の僧の残した予言が、おまえたちにたった 一つ残された希望だったのであろう」
 カエレレとアギララは皮肉な笑みをうかべてそういったあとで、驚くべきこ とを口にした。
 「そのようなたわごとは、どうでもよいことじゃ。なぜなら旅の僧は、わし らの命令をうけておったのじゃからな」
 ロンガがびっくりした。ぼくも自分の耳を疑った。
 「おまえたちがしめしあわせてわしらに隠し事をしておることは先刻承知じ ゃ。それはどうやらアマクサに関することのようだの。だが、それも無駄なこと 。アマクサなどはけっしてこの世にあらわれはせぬ」
 「では、なぜおまえたちはそんな予言をゲドーの民に信じこませたりしたん だ」
 ぼくは思わずそうきいた。カエレレとアギララは、はじめてぼくの存在に気 づいたように、じろりとぼくをにらみつけた。
 「おまえはだれじゃ。よもやロンガの息子ではあるまいのう。流刑地の者は 子をつくることは禁じられておるはずじゃからな。もっとも、子を生もうにも生め まい。なにしろ、時はずっと止まったままなのじゃから。だれも死なぬかわり、新 しいいのちもあらわれることはないのだからのう」
 「カエレレ様、アギララ様、この子はゲドーの孤児ですよ。流刑地をさまよ っていたのを、ロンガにひろわれたんです」
 ロンガが答えるより先に、ワッパスッパとニッパスッパが答えた。そのとき 、灰色の鹿の目がかすかに赤く光った。
 「ふうむ。まあよいわ。いずれおまえの素性もあばいてくれようぞ。ところ で、さきほどの質問に答えてやろう。尋問の相手から逆に質問をうけようとは、わ しらもずいぶん侮られたものだが、それも一興。おまえたちには、事の真相を教え ておいてやろう」
 カエレレとアギララの顔には、恐ろしいなかにもぼくたちをからかうような 表情がうかんでいた。二人が語ったのは、次のような話だった。
 かつて、球根城がゲドーの民の公開劇場として栄えていた頃、遠くの国から 若い男女がやってきた。二人は得もいわれぬ気品を漂わせていた。だれいうとなく 、道ならぬ恋に悩み国をすてた、某国の王子とその隣国の姫だという噂が流れた 。めざとい興業主の手でさっそく二人を題材にしたオペラが創作され、まれにみる 大当たりをとった。
 オペラのなかでは、二人は悲恋に泣くゲドーの王と羊飼いの娘という設定だ った。そして、いつか物語と現実がゲドーの民のあたまのなかで一緒になった。若 者は球根城を居城とする王として尊敬され、娘はその妃として敬愛されるようにな ったのだ。かくしてゲドーの王国が誕生した。
 二人は数多くの王子と王女をもうけ、ゲドーの国は栄えた。二人は、最期の ときも一緒だった。死のまぎわに、妃が次のようにいい残した。
 「わたしたちがこの国へやってきたとき、わたしは、わたしの生まれた国の 人々が神とあがめる方への捧げ物を手にしていました。それは千年に一度この地上 にはえるといわれる黄金のきのこなのです。このきのこは、はかり知れぬ幸せと底 知れぬ災いを同時に人にもたらすたいへん危険なもの。ですから、このきのこを口 にできるのは神だけなのです。わたしは王と相談して、この恐ろしいきのこを球根 城の一室に秘匿することにしました。その部屋は青い亀の間といいます。扉は固く しまり、二度と開くことはないでしょう。ただ、この国に厄災が訪れ、ゲドーの民 が滅びの危機にさらされたとき、扉はおずおずと開くことでしょう。わたくしたち の血をうけつぐ娘が、こころより愛する人のくちづけを頬にうけるならば」
 それから何年もゲドーの国は安泰だった。人々はいつしか妃の最期の言葉を 忘れてしまった。
 「だが、われらがコンロン王は、妃のいまわの際の言葉を聞き知ったのだ 。神のみ食することが許されるという黄金のきのこを、是非とも手にいれたいもの と、ゲドー攻略をわれらにお命じになった」
 「というのも、他言を禁ずるが、コンロン王は長い患いに苦しんでおられる 。千年の齢を重ねてなおかくしゃくたりし鋼鉄王も、病には勝てぬ」
 「そこで、黄金のきのことやらを口にして、無病不死の神の座にまでのぼり つめたい。そう願われたのだ。これも他言を禁ずるが」
 「黙れ! 余計なことをしゃべるでない」                      ワッパスッパとニッパスッパの兄弟 は、また一心不乱にペンを走らせはじめた。
 「とにかく、今を遡ること二十六年、球根城を奪いし後、わしらは青い亀の 間を必死に探索したが、その扉を見出すことができぬ。そこで、妃の血をうけつぐ 唯一の娘レンゲ姫と、コンロン王の四人の王子のいずれか一人とを相思相愛の仲に することを考えたのだ。わしらは、人のこころを自由に操る秘薬を煎じて、姫と王 子たちに飲ませようとした。だが、遅かった。わしらの魂胆をいち早く察して、姫 はみずからの魂をそのからだから遊離させたのじゃ。いかなる秘術を使ったかはわ からぬが、姫の魂はわしらの操る術ではどうにもならぬところへ逃れてしまったの じゃ」
 意外な話だった。ぼくはもちろん、すべてのゲドーの民、レング王子やルン グでさえ、レンゲ姫はカエレレとアギララの術にかかって魂をぬかれたものだと思 っていた。
 「わたくしには信じられません。なぜ姫様はわたくどもを見捨てて、あのよ うな痴呆けたお姿をさらされる道をお選びになられたのか」
 「わたしたちを見捨てたなどと、馬鹿なことをいうな。姫様は、コンロンの できそこないの息子どもの求愛を逃れるためにそうなさったのだ。黄金のきのこと やらがコンロン王の手にわたるのを防ぐために」
 ロンガがリジーをたしなめた。
 「その通りだ。わしらは、姫がみずからにほどこした術がとけるのを待つよ りほかはなかったのだ。だが、魂の離れた姫のあわれな姿を見て、わしらは一計を 案じた。おまえたちの目に姫の姿をさらすならば、ゴダイにはむかう気持ちを封じ こめることができよう。そう考えたのじゃ。レンゲ姫はおまえたちゲドーのたった 一つの希望の星だったのだからな。それと同時に、わしらは姫の魂が再びゴダイの 国にまいもどれぬよう、強固な結界をはりめぐらせた。この結界は、五つの障害を 除かなければ破れぬ。魂だけの存在となった姫が結界を破るのは不可能なことじゃ 。だがわしらの術は長くとも二十六年しかもたぬのだ。二十六年後には、どのよう な理由によるのかは知れぬが、外部からの侵入者の手で最後の結界が破られ、レン ゲ姫の魂も球根城へ もどってくるであろう。わしらはそのときを待つことにした。長い孤独に苦しめら れた姫の魂をやすやすと捕らえ、わしらの術で姫のこころを操って、コンロン王の 四人の王子の一人とめあわせるときをな。わしらは、その間ゴダイの国の歴史の進 行を止めて、新しい事件は何事も起こらぬようにした。そしてゲドーの民から、自 分たちの手でゲドーの国を救う気概をそぐために、アマクサ伝説を流布させたのじ ゃ。計略は成功をおさめた。ゲドーの民はいつの日にか救済の日か訪れることを信 じ、いつしかゴダイの奴隷生活に慣れきってしもうた。そしてついに二十六年が過 ぎた。最後の結界が何者かに破られた。ゲドーの聖地ウワノガハラの白い石から紅 色のきのこが無数に成育し、それを見たあわて者どもがにわかに反乱軍を組織した 。ところが…」

  28 ウワノガ原の戦い
 カエレレとアギララはとつぜん語るのをやめると、目を細め耳を澄ませた。
 「ゲドーの者どもを閉じこめておる辺りから騒々しい音がきこえるわ。何事 か調べてまいれ」
 灰色の鹿の間を守っていた兵隊の一人が、あわててとんでいった。ぼくには 、何も物音はきこえなかった。
 「さて、話をつづけるとしよう」
 「カエレレ様とアギララ様が『ところが』とおっしゃったところまで、記録 しておりまするが」
 「わかっておる。話の腰をおるでない」
 カエレレとアギララは、ぼくの方をじろじろ見ながら話をつづけた。
 「反乱軍にはせ参じた笑止千万な輩などは、おそれるに足りぬ。だが、結界 を破ったはずの侵入者と、球根城にまいもどってきているはずのレンゲ姫の魂の気 配がいっさい感じられぬのは、解せん。わしらに気取られぬように密かに球根城へ 侵入するなど、なんぴとにもかなわぬことなのじゃ。しかるに昨夜、おまえたちの 出番のときレンゲ姫の目から涙がこぼれた。これこそ、姫の魂が帰還したことのな によりのあかしだ。だが、姫の魂がどこに潜んでおるのか、わしらには皆目見当も つかぬ。わしらがこのように愚弄されたのははじめてのことじゃ」
 カエレレとアギララは、そこで言葉をとめた。その顔は怒りにたぎっていた 。ぼくたちは息をのんで、次の言葉を待った。
 「わしらからの話はこれだけじゃ。次はおまえたちが真相を語ってくれるこ とだろう」 カエレレとアギララは、二本の枯れ木のような腕をもちあげ、ゆっく りとロンガの方を指差した。のびた爪の先から一条の光がとびだし、ロンガのから だを直撃した。ロンガは激しい衝撃をうけてぶるぶる震えた。そしてふるえがおさ まると、うつろな目になってあらいざらい語りだした。
 「お話しします、ええ何もかもわたしの知っていることをお話ししますとも 。反乱軍を指揮しておりますのは、かつて大臣ルングの部下としてならした五人組 、ラリプー、ヘリプー、ガリプー、ゲリプー、プリプーめにございます」
 ワッパスッパとニッパスッパが、ひそひそ声でいい争いをしていた。だから おれが、カエレレとアギララの術にかからない印の結び方を教えようといったのに 、おまえが庭師の娘のことをしゃべるものだからつい興奮しちまったんじゃないか 。なんだ、悪いのは兄貴の方さ、おれのできが悪いなんていうからさ。
 「それから、アマクサ様のことでございますが、驚きめさるな、とうとうわ たしたちの前にお姿をお示しになったのでございます」                      「馬鹿をもうせ。さっきもいったで はないか。アマクサなどはわしらがでっちあげたうわさにすぎぬわ」
 いよいよロンガの告白は、危険な話題にむかいはじめた。リジーが、ロンガ のからだをゆすって目を覚まさせようと必死になっていたが、ロンガはその手をう るさそうにはらいのけるのだった。ワッパスッパとニッパスッパの二人も、浮かれ たようにあたりを走りはじめた。
 「いえいえ、それがあなた…」
 そのとき、たくさんの兵隊がどやどやと部屋にかけこんできた。
 「何事じゃ。今は裁きの最中であるぞ」
 「カエレレ様、アギララ様。たいへんでございます。ゲドーの芸人どもが牢 獄の扉をこわして、逃げ出しました」
 「馬鹿者ども! とっとと行ってつかまえてこぬか」
 「それが、どこからともなくゲドーの援軍がおしよせまして。うわさにきく 反乱軍ではないでしょうか。強いのなんの」
 カエレレとアギララが、真っ赤な顔で命令を下そうとしたそのとき、灰色の 鹿の間の扉を荒々しく破り、武装した男たちがどやどやと入ってきた。男たちは 、アマクサ様はどこだと叫んだ。カエレレとアギララが怒りに目をむいて、男たち を指差し、男たちはしびれたようにその場にたちつくしてしまった。
 カエレレとアギララがとつぜんの侵入者に気をとられているすきに、ワッパ スッパとニッパスッパがぼくのそばにやってきて、小声でささやいた。
 「アマクサ様、いまのうちにお逃げください。カエレレとアギララは、あな たを疑っています。裁きはいずれにせよ、火あぶりと決まっているのです。おれた ちについてきてください」
 ぼくは二人に手をひかれて、逃げた。ロンガとリジーのことが気にかかった が、あいつらも強者、いざとなればなんとか逃げおおせますとも、と二人はうけお った。ゴダイの兵隊たちは、右往左往して、ぼくに気づかなかった。廊下に出たと き、背後から、ついに正体をあらわしたなと、こころが凍りつくような恐ろしい声 がきこえた。ぼくは夢中になって逃げた。
 ワッパスッパとニッパスッパは、球根城の秘密の通路をぼくに教えてくれた 。おれたちにはまだ仕事が残ってます。アマクサ様はここを通ってお逃げください 。城を出て、真っすぐに走ればかならずウワノガ原につくはずです。仲間がいます 。逃げた芸人たちもそこへむかっています。早くしないと追っ手が来ます。急いで ください。二人はそういうと、喧騒の最中へひきかえした。
 外はすっかり夜になっていた。雲にかくれて月がにぶい光を放っていた。走 りつづけるぼくのからだのなかで、また何者かが動きはじめた。
 ・・レンゲ姫ですね。
 ぼくは、自分のこころに語りかけた。
 ・・カエレレとアギララがぼくをみつめている間、あなたはじっと息を凝ら していましたね。ぼくのからだの中に潜んでいることをあいつらに気づかれないよ うに。
 ・・球根城をぬけ出て、ずいぶん遠くまで逃げてきました。カエレレとアギ ララの遠耳の術も、もうおよばぬでしょう。リング、ありがとう。あなたのおかげ でわたしは再びこの地へ帰ってくることができました。
 ぼくのこころのなかに、レンゲ姫のあたたかいこころがとけこんできた。そ れは、地上に生きるすべてのものにわけへだてなく注がれる月の光のように、慈愛 に満ちたものだった。
 ・・弟たちの力が尽きたとき、わたしにはこの世でたよれるものがなくなり ました。黒い森の中で絶望にとらわれていたわたしの前に、あなたがあらわれたの です。あなたは黄金のきのこを探して、恐怖のためだれも足を踏み入れることのな かった黒い森の中へ、たった一人で入ってきました。わたしは、最後の望みをあな たに託そうと思いました。そして、弟たちの霊をよびよせ、あなたとともに黒い森 の五つの集落を再び旅するようにいったのです。
 ・・ちょっと待ってください、レンゲ姫。あなたは今、霊とおっしゃった 。それはどういう意味ですか。それに、ぼくが黒い森へ足を踏み入れたとき、あな たは、レング王子たちの力が尽きたので絶望にかられていたともおっしゃった。ぼ くにはあなたのいうことがよくわからない。ぼくがレング王子たちに会うより先に 、ぼくの知らない出来事が黒い森の中で既に起こっていたのですか。
 ・・哀しい思い出です。今から二十年以上も前のことでした。長くつらい旅 を経て、レングたちが黒い森へ帰ってきたのは。四人はわたしの導きにしたがって 、カエレレとアギララが仕掛けた結界を次々に打ち破っていきました。しかし、最 後の関門で力尽きたのです。
 ・・それは、もしかすると…
 ・・そうです。あなたが思っている通り、イナンナの霧だったのです。
 なんということだろうか。ぼくと出会うよりずっと前に、レング王子やルン グ、ロングやラングはイナンナの手にかかって、この世の人ではなくなっていたの だ。ぼくがいっしょに旅したのは、レンゲ姫の力によって黒い森によびだされた彼 らの霊だったのだ。
 ・・しかしあなたのおかげで、わたしの運命は変わりました。さすがのカエ レレとアギララにも、わたしたちのことは見抜けなかったようです。それどころか 、自分たちが流した偽のうわさのために、ゲドーの民のこころを燃え上がらせる結 果になったのです。弟たちも、草葉の陰で喜んでいることでしょう。
 ぼくはひたすら走った。旅をともにした仲間たちが、やすらかに眠ってくれ ることをこころから願って、走った。
 ただ一つだけ気がかりなことがある。カエレレとアギララは、どうして最初 からロンガに術をかけなかったんだろう。あれは尋問というより、まるでぼくたち に話をきかせることが目的だったみたいだった。あるいは、ぼくの中に潜んでいる レンゲ姫にきかせるために?
 ウワノガ原は、こうこうと照る月の光の中に、紅色の炎をきらめかせていた 。カエレレとアギララがはりめぐらせた時の結界が、あちらこちらでほころび、新 しい時代の到来へむけ、とてつもない若々しい力がそこかしこにみなぎっていた。
 ぼくのからだは、すっかり『アマクサ』に変身していた。ぼくの到着を待ち かねたように、人々が歓声をあげ、戦いの開始を告げる角笛ののびやかな音がウワ ノガ原に鳴り響いた。
 数多くのゲドーの民が集まっていた。ともに牢獄に閉じ込められた人たちも いた。みんな、ゴダイの戦士たちとの最後の決戦にそなえて、気をひきしめていた 。どの顔もかがやいていた。子どもの数が多かった。
 「この子たちは、おれたちの子です。カエレレとアギララの魔術のために 、この国が外の世界と時の流れからへだてられた後で、この子たちは生まれたんで す。おれたちはウワノガ原に深い井戸を掘って、その中で生活していました。カエ レレとアギララの魔術も、殺された仲間の骨でできた白い石に守られた井戸の中に までは及ばなかったんです。おれたちは、ここで以前と変わりない生活をし、いつ かゴダイの手から国を奪いかえす日の来ることを願って、訓練にあけくれていたん です。そして、このウワノガ原に再び紅色のきのこが生えた日、おれたちは旗揚げ をしました。そして、おれたちの総大将であるアマクサ様がお見えになる日を、お 待ち申しあげておったのです。申しおくれました。おれは、ラリプー。名大臣ルン グ閣下の腹心の部下。 こちらにひかえておりますのは、同じくヘリプーめにございます。つづいて、ガリ プー、ゲリプー、プリプーめにございます。われら五人組、アマクサ様のおこころ のまま、いのちを捧げて戦います」
 屈強の男たちが五人、顔を紅潮させてぼくの前にひざまずいた。
 翌日の早朝、戦いははじまった。寄せくる敵兵の数は、ゲドーの反乱軍をは るかに凌駕していた。だが、気力に勝る反乱軍は、ラリプーたち五人組の卓越した 采配を得て、よくもちこたえていた。
 敵の総大将はマリング王子だった。マリング王子はみずから白馬にまたがり 、ウワノガ原を縦横にかけめぐり、多くのゲドーの民を傷つけ倒した。
 鎖を解かれたゲドーの女力士、怪力ラングの奥方が、満身に傷を負って地に 倒れた。すると、どこからともなく五人組の子どもたちが風のようにかけてきて 、小さな手で女力士のからだをいたわるようになでた。虫の息だった女力士はまた 元気をとりもどして、戦いに加わった。
 だが、戦いの趨勢はしだいにマリング側の優勢にかたむいた。ゲドーの民は 、じりじりとウワノガ原の中央においこまれた。マリング王子率いる敵兵にくらべ て、ゲドーの民の疲れは限界に達していた。日暮とともに、雌雄は決せられるもの と思われた。
 そのとき、信じられないことが起こった。勝ち誇ったマリング王子が、とつ ぜん落馬して失命したのだ。王子の背には、ゴダイ国の印しをつけた太い矢がつき ささっていた。

  29 黄色い犀の間の戦い
 形勢は、一気に逆転した。
 総大将を失ったゴダイの軍隊は、もろかった。やがて副将が倒され、隊長た ちがのきなみ打ち死にした。にわかの劣勢に、戦列をはなれる戦士が続出する有様 だった。
 一方、ゲドーの民は敵将の戦死に乗じ、一気呵成に攻めた。女も子どもも武 器をもち、見るからにおそろしい屈強の敵兵と戦った。
 月が出るころには、ウワノガ原は再び静けさをとりもどしていた。ゴダイの 戦士は、ただの一人もいなかった。ぼくは、身を潜めていた深い井戸の中から、ア マクサに変身した姿をあらわし、勝利に酔う人々の歓喜の声につつまれた。戦いで 傷ついた人々は子どもたちの手の力で癒され、不幸にして命を落とした人々も丁重 に弔われ、その魂はやすらかに昇天していった。
 その夜おそく、ロンガとリジーがくたびれきった姿で、ウワノガ原にたどり ついた。
 「アマクサ様、お達者でなによりです。ラリプー、ヘリプー、ガリプー、ゲ リプー、プリプーの諸君、獅子奮迅の戦いぶり、まことにあっぱれしごく。そして 、わが同志の皆さん、ついにやりましたな。今や、ゴダイの奴隷民の地位に安住し ていた軟弱者どもまでもが、ここウワノガ原へむかって怒涛のごとくおしよせてお りますぞ。過去のいきさつは忘れ、ゲドーの民の一大団結をもって、憎きカエレレ とアギララの妖術と戦おうではありませんか。それにしましても、わたしたち虐げ られたゲドーの民の、記念すべき最初の勝利の夜を、皆様がたとともに祝う光栄に 浴し、ロンガ、不覚にも涙のこぼるるを禁じえないところであります」
 「ロンガ、演説はたくさんだ。おれたちはおまえさんの口上をききたいわけ じゃないんだ。おまえさんの取り柄は、地獄耳と早耳だったろう。そうやっていき せききってかけつけたところをみると、何かおもしろい情報をおれたちに提供して くれるんだろうな」
 ロンガは誇らしげに胸をはった。
 「それそれ、驚きめさるなよ。わたしがカエレレとアギララの裁きの部屋か ら命からがらのがれ、リジーとともに球根城の片隅で恐怖に震えておりますと、ミ リング美貌王子とムリング明晰王子が、仲むつまじくひそひそと話しあっているで はありませんか。王子たちの仲の悪さは公然の事実。それが肩を組んでの内緒話と は解せぬ。わたくしめの勘がぴくぴく働きました。そうっと近づき、やつらの語り あっている話の内容をききとどけずにはおくものか。わたしは執念を燃やし、恐怖 に打ち勝ち…」
 「おまえの自慢は後でたっぷりきいてやろう。かんじんな話を早くしろ」
 「とにかく、驚くではありませんか。ムリング王子はミリング王子に、こう いっていたのです。もうすぐ兄マリング豪胆王子がウワノガ原へむかって出陣する 。マリング王子のの指揮のもと、ゲドーの反乱軍が敗れるのは時間の問題だ。この ままではわれわれの出番がなくなる。レンゲ姫の魂が帰還したあかつきには、カエ レレとアギララの秘薬で、マリング王子がレンゲ姫のこころを奪い、ゴダイ国の後 継ぎに指名されることは必定。そうなってからでは遅い。ここはわれらが手をむす び、ミリング王子はレンゲ姫のこころを、そしてわたくしムリングはこの国の王位 を、それぞれわけあってはどうか。と、こういう提案なのです。ミリング王子のこ ころには、美しいレンゲ姫の姿が浮かんだに違いありません。一も二もなく、密談 は成立しました。マ リング王子を暗殺するてはずが相談され、弓の名手が密かによばれました。いいか おまえは討伐軍に参加し、ウワノガ原の戦いのゆくえを見て、おりあらば総大将を 射て。ぶじに首尾を果たしたならば、おまえを将軍にとりたててやろう。ミリング 王子は、興奮した声でそう命じました。ムリング王子は、さきほどのおのれの野心 をむきだしにしたときとはうってかわりいつもの冷ややかな顔で、弓の名手が喜び いさんで去って行くのをみつめておりました。わたしは、その横顔をぬすみ見て 、背筋が凍る思いをしたものです」
 その夜のうちに、ウワノガ原にはすべてのゲドーの民が集まった。流刑地で 果樹園づくりを夢見ていた叔父と甥の姿もみえた。
 長い夜があけた。みんなは気勢をあげて、球根城へ進軍をはじめた。だれも が希望に燃えていた。ぼくは日の光をさけるため黒い服をすっぽりとかぶり、ラリ プーたち五人組に守られながら、行軍の先頭を歩いた。
 ミリング王子とムリング王子が率いる連合軍との戦いは、球根城のいく重も の門をめぐる攻防からはじまった。まるでたまねぎの皮をむくように、打ち破って も打ち破っても門はつづいた。
 「これはカエレレとアギララの術のせいなのです。わたしについてきなさい 」
 ぼくのからだを通して、レンゲ姫がみんなに声をかけた。
 「アマクサ様の後にしたがって、球根城の迷路をぬけだすのだ!」
 おそろしいわなの仕掛けられた場所をさけて、ぼくたちは球根城の中央部へ なだれこんでいった。床も壁も天井も黄色い大理石で作られた広い部屋に、ミリン グ王子とムリング王子の配下の戦士たちが待ちうけていた。床に、大きな犀の化石 が埋めこまれていた。
 「来たな、反乱軍。わたしたちが相手になってやる。これ以上奥へは足を踏 みいれさせないぞ」
 ミリング王子が叫んだ。声だけで、姿はなかった。
 「黙れ。女の後をおっかけまわすしか能のないおまえに何ができる。隠れて ないで、姿をみせろ。臆病者め、おれと戦う勇気もないか」
 ラリプーがあざ笑った。ミリング王子のはぎしりの音が、どこからかきこえ た。
 「わたしを愚弄することは許さぬ」
 ミリング王子が、大理石の壁の一角に隠された秘密の扉から姿をあらわした 。怒りに燃え、髪は逆立っていた。
 「よく出てきた。ほめてやろう。だが、おれと一騎討ちをする度胸まではも ちあわせちゃいないだろう」
 ラリプーは、なおもミリング王子を挑発した。生まれて以来、他人からこん な口のきき方をされたことのないミリング王子は、すっかり逆上してしまった。
 「黙れ黙れ、ゲドーの分際でよくもわたしにそんな口がきけたものだ。もう 許さぬ。皆の者、決して手だしをするでないぞ」
 ミリング王子はおそらく生まれてはじめて剣を手にしたのだろう、やみくも にラリプーに切りかかっていった。歴戦の強者ラリプーにとって、マリング王子ご ときは赤子も同然だった。たちまちのうちに王子は組みふせられた。ラリプーは情 け容赦なく、その首を切り落とした。

  30 赤い馬の間の暝想
 アマクサが、つまりぼくのからだを借りたレンゲ姫が、小さな悲鳴をあげた 。ミリング王子の顔のないからだから鮮血がどくどくと流れ出て、黄色い犀の間を 赤く染めた。
 「見たか。これが、われらゲドーの民を虐げた者の末路だ」
 ラリプーににらみつけられて、ゴダイの戦士たちがどよめいた。さっきミリ ング王子の出てきた扉が再び開いて、こそこそと逃げ出す者がいた。
 「卑怯者め。形勢不利とみると、しっぽをまいて逃げ出すのか」
 五人組の勇者たちが、勝ち誇って高笑いした。でも、事態はそんなに単純で はなかったのだ。逃げ出したのは皆、ムリング王子の配下の戦士たちだった。秘密 の扉が閉じられたとき、部屋に残されたのは、ぼくたちゲドーの民と、首をはねら れたミリング王子の配下の戦士たちだった。
 ミリング軍の戦士たちは、大将のかたきを打たんものとぼくたちに切りかか ってきた。ラリプーをはじめとするゲドーの反乱軍も、これに応戦した。黄色い犀 の間が、血と喧騒と悲鳴に満ち、収拾のつかない混乱におちいった。
 戦いに夢中になっているぼくたちの気づかないうちに、黄色い犀の間の出口 がことごとく閉められていた。やがてぎしぎしと音をたてて、天井がゆっくりと落 ちてきた。
 最初に気ヅイタノハ、ゴダイの戦士たちだった。黄色い犀の間が、かつて大 勢の罪人を一度に処刑するために使われていたことを思い出したのだ。
 「だまされた。ムリング王子の陰謀だ。ゲドーの奴隷民といっしょに、われ らも処分してしまうつもりなのだ」
 ゴダイの戦士たちはうろたえ、戦いを忘れた。失われた出口を求めて、壁に 体当たりを繰り返した。
 継目のない黄色い大理石でできた天井は、重々しくぼくたちの頭上にのしか かった。五人組が十本の太い腕で支えようと、真っ赤な顔でがんばった。でも、天 井はびくともしなかった。やがて骨は砕かれ、肉はすりつぶされてしまうことだろ う。
 天井は、ぼくたちのからだに当たるかどうかというところで止まった。しば らくして、またぎしぎしという音がきこえてきた。ぼくたちは、覚悟を決めて目を つむった。
 そのとき、奇跡がおこった。重い天井はぼくたちの骨は砕くことなく、逆に 元にもどっていったのだった。
 黄色い犀の間がすっかり元どおりになったとき、かたくしまっていた扉が開 いた。
 「アマクサ様。大丈夫でしたか」
 いきせききってかけこんできたのは、ワッパスッパとニッパスッパの兄弟だ った。
 「いやあ、もう少し早くお助けしたかったのですが、しぶとい敵でして」
 ゲドーの民は、驚きあやしんだ。二人は、ゴダイの戦士たちをしたがえてい たのだ。戦士たちは、鶴の絵のかかれた兜をかぶっていた。
 「だれかと思えば、ワッパスッパとニッパスットではないか。おまえたちが どうしておれたちを助けてくれたのだ。ゲドーを裏切ってカエレレとアギララにな びいたのではなかったのか」
 「この者たちは、偽ってゴダイの官吏になりおおせ、いつかこの日の来るの を待っていたのです。わたしの正体が、あわやカエレレとアギララに判明しそうに なったとき、わたしを救ってくれたのもこの二人なのです」
 レンゲ姫が、ぼくの口を通して語った。
 「アマクサ様のおっしゃるとおり。このわたくしめの妻リジーが目撃いたし ておりますも。それにしてもワッパスッパ、ニッパスッパ、どうしてモリング優柔 王子の手下どもをひきつれているんだい」
 道化師件裁判所書記官の兄弟は、鼻たかだかのしぐさをした。
 「裏面工作ってやつですよ。自慢じゃないが、おれたちのさんたんたる苦労 がここにきてついに実を結んだんだ。モリング王子は、皆さんご存じのとおり、平 和を愛し争いを嫌うこころ優しいお方だ。それに、弱くおうまれになったため王位 継承の可能性もまず考えられず、三人の王子たちもカエレレとアギララもすっかり 油断していた。おれたちはことあるごとにモリング王子の部屋へ忍びこんで、ゲド ーの国のためにともに闘ってくれるようお願いしたのさ。この国の平和を乱すのは 、カエレレとアギララの野心なのだ。コンロン王の後ろ盾をいいことに、球根城に 隠された財宝をひとりじめにしようと、あの手この手を使ってみんなを不幸にして いる。ゲドーの民にもゴダイの民にも好かれているあなただったら、二つの部族を 和解させ、悪の元凶 カエレレとアギララを倒すため手を組ませることもできるはずだってね」
 ワッパスッパとニッパスッパは、ここで声をひそめた。
 「それに、モリング王子はレンゲ姫を、恋人というよりは姉のように慕って おられましたからねえ。もしおれたちに協力してくれたら、レンゲ姫を妃にできる ようゲドーの連中にかけあいますよって、約束もした、そしてとうとう、モリング 王子のこころが動いたってわけだ。おれたちにも頼もしい味方ができたんだぜ」
 鶴の絵の兜をかぶった戦士たちの中に、ほっそりとしなやかなからだを白い 布でつつんだ、モリング王子の姿が見えた。王子は、はにかんだ表情でぼくを、い やアマクサになったレンゲ姫をみつめていた。
 五人組に率いられたゲドーの民と、モリング王子の戦士たちとの連合軍は 、破竹の勢いでミリング軍を打ち破り、ついでムリング軍を撃破した。残るはムリ ング王子だけとなった。
 「ムリング兄さんは、学問にふけるとき、きまって赤い馬の間に一人こもり ます。今もきっとそこに潜んでいるい違いありません」
 モリング王子はそういって、ぼくたちを案内してくれた。
 人一人が前かがみになってようやく通れる、小さな扉をくぐって、ぼくたち は赤い馬の間に入った。ムリング王子が、部屋の中央に置かれた大きな椅子に深 々と腰かけていた。部屋は、どこからか差し込む夕日のように、赤い日の光に満た されていた。
 「来たな、悪魔」
 部屋の主は、モリング王子を見てそういった。その顔は真っ白で、生気がな かった。
 「わたしの命はまもなく果てるだろう。ついさっき、毒をあおいだばかりだ 。わたしは自らの命を断つことにしたのだ。だが悔いはない。わたしの学問の正し さが証明されたのだから」
 「おまえの学問とは一体なんだ。陰謀をめぐらして、この国の王位を手にす ることじゃないか。わたしはこの耳できき、この目でみたんだぞ。おまえの野心に 燃えた姿を」
 王子は、熱にうなされたように、ひとりごとをいいつづけた。
 「わたしの頭の中に飛びかい、渦巻く、たくさんの言葉たちよ、様々な声た ちよ、できることならおまえたちに形をあたえてやりたかった。わたしの死ととも に、この部屋でつちかわれたわたしの思想、わたしの学問は消えてしまうのだ。だ が、それは嘆くには及ばない。わたしは生きた、考えた、そして知った。それでい いのだ」
 「あなたがこの部屋で思索し、知ったことをあらいざらいお話してください ませんか」 レンゲ姫が、優しくささやいた。