【8】 表象作用から模倣作用へ

 模倣作用は、私たちの社会の表層における社会過程(すなわち諸主体の諸行為の連鎖を通じて様々な社会事象が産出される過程)を編纂する。

 模倣作用は、四つの異なった社会過程を紡ぎ出す。それらは、表象作用によって諸主体の意識の網の目に捕捉された四つの表象物に対応している。第一に、自己という意識(あるいは「私」と発語する権利の行使)に対応するそれは命名過程である。第二に、性的身体のイメージ(あるいは盲目的な目的の達成)に対応するそれは儀礼過程である。

 第三に、精神もしくはその運動としての言語(あるいは自己の意味の探究)に対応するそれは言説過程である。最後に、欲望する生命(あるいは生命という価値の実現)に対応するそれは生産過程である。


【9】 命名過程の四類型

 私たちの社会の諸主体は、まず権利主体として社会過程に参入する。権利行使としての行為は、あらゆる対象を名付けることをもって開始される。というのも、そもそも諸主体の内省を通じて獲得される自己意識そのものが、名付けえぬ何かに対する名付けの欲望の上に生成するものに他ならなかったから。

 何物かに名を与えるとき、命名者は当の何物かを「対象」として切り出す。存在の連続性に裂け目入れて、無定形な名付けえぬ何かをそれとして分節する。また、命名は単独の行為ではなく、名付けのルールを共有する共同体(命名共同体)における明示的、黙示的な命名行為の総体を前提にしている。(共同体の起源を神話的思考によって探究するとき、そこに原初の、殺戮にも比すべき暴力性に彩られた根源的な命名行為が物語られるであろう。)

 諸主体の共同行為による命名過程の四つの類型。第一は、空間的・時間的隣接性という事実的・具象的な次元における事象間の関係に着目する換喩的命名である(約束・契約に基づく命名)。第二は、類─種関係という論理的・抽象的な次元における事象間の関係に着目する提喩的命名である(伝統に基づく命名、合法的手続に基づく命名、カリスマ的人物による命名)。

 第三は、事実的・具象的次元と論理的・抽象的次元を通約する事象間のアナロジカルな意味的類似性に着目する隠喩的命名である。第四は、可視的な具象性と不可視的な抽象性を浮遊する事象間のアイロニカルな両義性、あるいは差異(否定)と同一性(同値)をめぐる意味逆転性に着目する逆喩的命名である。

 逆喩的命名は、他の三つの命名過程とは決定的に異なっている。諸主体による意識的な命名とはかかわりなく、名は自ずから変容し自己否定を繰り返し抽象的次元と具象的次元を行き交う。そして、名付けのルールはその無根拠性を暴かれ、原初の命名行為の暴力性が明らかにされる。──このような逆喩的命名の過程は、むしろ名の破壊、名付けの体系としての社会秩序を根底的に動揺させ再編成させる契機という性格をもっている。

 あるいは次のように言うこともできるだろう。名は、部分─全体、先─後の関係に基づく換喩的な結合・交換を通じて、また類─種関係に基づく提喩的な包摂・排除を通じて、自ら変容しあるいは新たな名を産出する。さらに、名は、語の抽象性と具象性を自在に往来するメタフォリカルな運動の中から新たな名を紡ぎ出し、あるいは新たな命名の対象を導き出す。──このように、逆喩的命名は他の三つの命名類型の基礎をなすものであると。


【10】 記憶術の四類型

 命名の四類型は、また記憶術の四類型でもある。事象間の事実的な隣接性に着目する換喩的記憶術、論理的な関係に着目する提喩的記憶術、アナロジカルな同型性・類似性に着目する隠喩的記憶術、そしてアイロニカルな反転性に着目する逆喩的記憶術がそれだ。

 ここで重要なのは第一の類型である。たとえば、身体を剣で傷つけ刻印を刻み、他と識別しあるいは記憶を喚起する指標(INDEX)とすること──このような換喩的記憶術の一手法は名付けの暴力の痕跡を可視化し、また言語の生誕をめぐる原風景を「記憶」の底から浮かびあがらせさえするのである。