顧問概論 | ||||
はじめに | ||||
この部活動に関するページは、大会などで金賞を目指してがんがん活動する、といった部活動は想定していません。 そういった部活動で成果を得た指導方法や練習方法の例は、いくつか本やCDやVTRで発売されていますからそれを参考にしてください。 ここでは、「教師になって初めて顧問をする」・「転勤したらいきなりこの部の顧問お願いしますといわれて戸惑ってしまった」、というような場合を想定しています。 そしてその基本の考え方は、あくまでも「生徒たちは部活動を楽しんでいるんですから、その生徒たちと一緒に顧問も部活動を楽しみましょう。」です。 また、この立場に立っての合唱部と吹奏楽部の指導方法の例があります。 |
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第1章 顧問とは | ||||
1.部活動顧問って何? | ||||
初めて顧問をすると、何をすればいいのか迷います。また、転勤などでまったく経験のない部の顧問などを任されても困ってしまいます。 だいたい、部活動顧問の職務上の役割や、その仕事内容や方法論は大学ではほとんど教えてくれません。 (経験に頼って先生方はやってるだけで、これは絶対おかしいと思うんですが!) 法的には部活動は、課外活動に分類され、教師の大事な仕事の一部です。そして、先生が顧問をするのに困っているのとは逆に、生徒は楽しんでやってる上に、その生徒たちのエネルギーが集まると、大きな教育効果が生まれます。 ここでは、部活動の特徴をふまえて、指導するための基本的な考え方を述べてみます。 |
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2.顧問は社長! | ||||
まず、部顧問は、会社を設立する起業家社長みたいなもんだと考えればいいと思います。 普段やっている授業というものは、与えられた時間に、与えられた人数に対し、与えられた内容の事をやっていくもんです。つまり、決められた時間割りで、決まったクラスに行って、決まったカリキュラムで行われてます。 それに対して、部活動はそれらのすべてを最初から作っていかなければいけません。つまり、部員を集め、活動のための場所や時間はどのようにするのか、またどんな内容で活動するのかを決めなくてはならないのです。 |
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つまり、やり慣れている授業と部顧問を比較すると、授業は企業のサラリーマンのように与えられた仕事をするのに対し、顧問は会社の社長として、仕事を創造していく必要があるという違いがあります。 日頃、授業に追われていて、このような視点での考えに慣れてない場合、仕事を創造していかなければならない顧問を任されると、困ることが多いのです。 |
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4.顧問の仕事の特徴 | ||||
サラリーマンの仕事は、会社の多くの仕事の中のひとつの歯車として働いています。授業もある意味ではそうでしょう。自分の授業は、多くの教科の中のひとつの教科として行っていて、仕事の成果というものは、自分のやった仕事かどうか、ちゃんと成果が見えないことが多いのです。 しかし、顧問は、自分のした仕事の答えが直ぐに返ってきます。ですから、自分のやり方がそれで良かったのか、改良点があるのか、といったことが直ぐ検証できます。 また、授業等では何か問題が起こった時、その解決方法には既に多くのアドバイスや回答例があります。しかし、部活動では、その部の特別な事情などの要素が多く含まれ、他の例が参考にはならない場合が多いので、自分で考え決断する場面に多く遭遇することも特徴のひとつです。 |
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5.顧問するメリット | ||||
起業するという発想と、その結果から返ってきたものを検証するという経験は、いつも一方的に教えるばかりで、やってることの効果が上がっているのが分かりにくいという教師の働きを、違った視点から見ることが出来るようになります。 また、何か問題が起こった時にそれを解決するために新たに動くこと、つまり、生徒と話をしたり、新しい練習組織を作ったり、予算を捻出する方法を考えたりすることは、生徒にも新しい息吹を吹き込むと共に、先生自身にも新しい発想で自分みつめ、自分を変えることが出来て、貴重な経験となります。 つまり、先生も部活動をとおして学べることが多く、この顧問としての経験は、授業や他の学校の仕事にも役立っていくのです。 |
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第2章 顧問をするには | ||||
1.顧問のタイプ | ||||
顧問を会社の社長に例えました。でも世の中には、いろいろなタイプの社長が見受けられます。そこで、ここではそれを3つのタイプに分けて、それと顧問の活動と比べてみます。 ワンマン 生徒をがんがん引っ張っていく顧問 合議制 生徒との話し合いのなかで運営方針を決めていく顧問 社員任せ(放任) 生徒のやりたいようにさせておく顧問 このようなタイプに分けても、あるひとつのタイプの中に顧問の仕事が収まることはなく、いろいろな場合で異なった対応をする必要があります。ワンマンといっても、会社と違って、顧問の言ったことを全て部員がやるわけではないので、どこかで生徒と話をする必要があります。合議制と言っても生徒のやりたいことを鵜呑みにしているだけでは放任顧問と変わりありません。放任と言っても、生徒のしたことに対する責任等が生じてくるので、活動を把握する必要はあります。 |
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2.どんなスタンスで生徒と関わるか | ||||
以上の3つのタイプの内、まず、自分がどのポジションに位置するのかを考えましょう。 でも、固定的に考える必要はないと思います。中間的なポジションもあるでしょうし、年度によって変える必要が出てくる場合もあるでしょう。例えば、今年は忙しいから、いつもは合議制でやってるが、今年はある程度生徒に任せていこうなどと、中間的なスタンスでもいいと思います。 ただ、してはいけないのは、スタンスの変更を自分の判断ではなく、生徒のせいにすることです。生徒が頑張りだして、いい結果を出し始めたら、日ごろは部活動をほったらかしにしてるのに、活動に口を出し始め、生徒の活動はまるで自分の指導の結果のような顔をしてるとか、反対に、中心になってひっぱっている生徒が引退したりして、活動が低調になると昨年は良かったが今年の生徒は出来が悪いと、生徒に責任を転嫁することです。 |
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3.基本の仕事 | ||||
顧問の仕事は自分で作っていくもの、ということを主軸にここでは話を進めています。 ただ、どういうスタンスに立つのかで仕事の内容も質も違ってきます。ここからは、放任顧問でも最低限押さえておく必要のあることと、合議制のスタンスに立つ場合のために、その少し先の発展した形に触れていきます。ガンガン引っ張るタイプの顧問なら、自分のやっていることを整理するため読んでもらえばと思います。 |
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4.顧問の基本の仕事1 | ||||
社長なら、自分が起業するのですから、何をするかということは決まっています。それは「事業内容」と呼ばれるものです。顧問で言えば、その部活動を成り立たせていくことです。 そのためには、まずは社員を雇うことです。つまり、部員の構成はどうなっているのか?です。次に、社屋を決めましょう。練習場所はどうするのか?です。そこは、音を出しても支障のないところなのか?等も考えなくてはいけません。 次に、就業規則も決めないといけません。何曜日の何時から、練習するのか?土日の練習はどうするのか?等です。これで一応、部活動を開始する元が出来ました。 |
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5.顧問の基本の仕事2 | ||||
つぎに、「事業企画」を作る必要があります。これは、部活動では、年間計画を作ることです。難しく考える必要はありません。例えば、9月には文化祭がある、校外で発表する活動にでよう、来年のコンクールに出るために今年は基礎練習の時間を多く取ろうなど、大まかな計画で最初はいいと思います。 そして、その記録を残しましょう。これも、まずは、簡単でいいと思います。1年たってみると、前の年のことは覚えてるようで覚えていません。でも、記録があると非常に楽に考えられます。また、生徒の記憶の中には、部活動のやり方は残っていないと考えたほうがいいでしょう。 こうして大まかな年間活動記録を残しておけば、その先は、必要とあれば「今月の練習予定」を作り、さらに「日々の練習記録」、もっと細かく考えれは「生徒の一人一人の活動状況」などとサポートを加えていけば、充実した練習ができるようになること請け合いです。 |
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6.顧問の基本の仕事3 | ||||
この項目で挙げることは、案外簡単にしか考えられてないのですが、以外に大切なことです。 まず、予算です。日ごろの授業ではあまり考える必要がないため、教師は何かやろうとすると、予算の裏打ちがないと動けないということを忘れがちです。部費の取り扱いや、生徒会や自治会からの援助金をどのように管理するかだけの問題にとどまらない場合がたくさんあります。まず、吹奏楽部の場合、単に活動を維持していくだけでも、楽器が故障したり、つぶれた場合の修理費はどうするのか、また、新しい楽器の購入費をどうするのか、学校外での活動をする時に楽器の運搬費はどうするのか、等、予算に関わることは沢山あります。 次に、学校外の他団体との関係をどうするかという点があります。例えば、吹奏楽で言えば吹奏楽連盟、合唱でいえば合唱連盟に加盟するのかどうか、音楽の先生の団体や地域で行われる演奏会に出演する場合、その団体との関係をどのように取るのかということです。授業をしてるだけでは、他団体との関係は学校の管理職を通して行われる場合が多いので、あまり経験のないことです。また、これでも予算(会費や参加費等)が関係してきます。そして、引率などによって、その活動に責任が発生することを自覚しておくべきでしょう。 あと、継続して部活動を維持する場合、部活動の組織をどのようにしていくのかや、OBとの関係など考えなければならない問題となってきます。 |
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7.その後に続く仕事 | ||||
以上の基本的なポイントの他、日常での活動では生徒が怪我をしたとかの突発事故が起きた時の対処など、授業を行っているときには起こりえない問題に対応する必要が出てきます。その時々にどう対応するかの考え方のポイントを、いくつか第3章で挙げてありますので、参考にしてください。 さあ、部活動が動き始めたら、次は活動をどう組織化していくかという問題が起こります。学校には校務分掌があって学校運営の仕事のどれかに教師が携わるように、部活動を組織化して、それぞれの責任を生徒に与えてどのように運営するのかを、生徒との関係の中で整理していく必要が出てきます。ただ、これも難しく考える必要はないのです。具体的にやることは、部長・副部長などの部活動での生徒の役割分担をどんな風にするのか、またその役への選出方法は、顧問とその役の生徒との関係はなどで、実際の活動をしていけば、自然と何らかの形は見えてきます。ただ、顧問として、そういう運営組織として部が動いているのだということを自覚しておく必要があります。 |
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第3章 いっしょに楽しむには | ||||
1.基本姿勢 | ||||
1.1 みんなで一つのものを | ||||
合唱部や吹奏楽部の楽しさの一つは、音楽を通してすばらしい感動に出会うことが出来ることです。 生徒達は、まず練習することによって音楽に対する表現力を上げていきます。しかし、うまく音楽できるようになったからといって、それだけで、すばらしい感動に出会うことは出来ません。そのうまくなった一人一人の力を、こんどは組織として、部全体としての力に変えていくことによって、大きな感動に出会うことが出来ます。 これはあたりまえのことのようですが、部活動以外の学校活動では、あまりそうした機会は多くありません。文化祭を通したクラス活動などがあると言われるかもしれませんが、その時間数は、年間ではそんなに多くはありません。ほとんどのクラス活動は、教師から一方的に情報を与えられて動く、授業のような活動がほとんどです。生徒が主体となって同じ目的で活動する、このような活動は部活動こそが学校生活の中で大きな成果をあげられるものであり、これが部活動としての存在意義となるものです。今の社会にはこの点が欠けがちではないでしょうか? みんなの力を結集させてひとつのことを成し遂げていく、この大切なことを体験させるために、顧問はどう準備をして、どうやって部を動かしていけばいいのかを考えてやればいいのです。部全体が組織として、一つも目標を持って生徒と一緒に動いていく、これが顧問の基本姿勢としてのひとつの大切なポイントでしょう。 |
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1.2 説明責任を果たすと、自分が磨ける | ||||
しかし、もちろん音楽系の部活動においては、音楽の面において、部員にうまく音楽を伝えられるということは大事です。部員に音楽を十分に伝えられるようになるということは、当然のことながら、それだけ自分自身の音楽に対する認識が深まらないと出来ません。 部員が音楽に対する表現力を増していく、つまり、部員が育っていくということは、その育てる事を通して顧問自身が音楽を理解し成長していくこと、つまり、自分自身の自己啓発にほかならないのです。 部の顧問をすると、指導に時間を取られて、校務や授業に落ち着いて取り組めなくなるというような話を聞きますが、部顧問は自分の時間を犠牲にしてするものではないのです。部を指導して音楽をより理解する力は、通常の授業で生徒に分かりやすく説明するのに役立ちます。 また、部を一つの目標に向かって動かしていく力は、他の先生と一緒になって公務をこなしたり、行事を進めるときに役立つのです。部員を育てることがうまくいっているということは、顧問自身が磨かれていってることです。 |
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1.3 部員から顧問は選ばれている | ||||
部員は顧問がどんなスタンス(ワンマン・合議・放任)を取っていても、自分を伸ばしてくれる・自分を変えてくれる顧問についていきます。 例えば、「この顧問は、技術指導はしてくれないけど、自分たちの活動を見守って支えてくれて、自分たちの活動がやりやすくなり、部活動が楽しくなってきた」とか、「この顧問の指導は、多少厳しいかもしれないけれども、それによってうまくなり、いい演奏ができた」と、思える顧問についていきます。 授業は、決められた時間・場所・内容で行われ、生徒は内容や教師を選べません。したがって、しかたなく席に座り、教師のやっていることに上の空であっても、授業としては成り立っていきます。 しかし、部活動では、生徒自身が楽しくなければ、そこに座っている必要はないのです。直接、技術指導するかどうかにかかわらず、顧問の生徒に対する姿勢で、生徒自身が得るものがあると思うときに顧問を評価します。部活動におけるこの特徴を心得て顧問としてのスタンスを決めていきましょう。 |
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1.4 主従関係ではない | ||||
ただ、生徒からの評価と、日本的な主従関係を誤解している人が多いことです。 生徒をつき従えているということと、生徒がついてくることは当然違います。部活動を、顧問の考えで動かそうとするあまり、自分が先頭に立って「後からついて来い」式に走り、ついてくる者だけを評価して後は切り捨ててしまうやり方に走ってしまうことがあります。 最初に、仕事を作るという意味で、顧問は会社の社長という立場でということを書きました。その社長は会社という集団に対しては、目的の明確化とリーダーシップの発揮をする必要があります。その上で、その集団を動かすためには、情報の公開や、現場との意思疎通が必要です。 しかし、学校の先生は、授業という特性から、情報は自分が握っていて、必要に応じて生徒に与えるものとしがちです。また、教えるという特性から、一方通行になりがちな授業の方法論をそのまま部活動の手法に押しつけてくる人が多く見受けられます。学校の管理職になってもその手法を採る人が多いのもこのせいでしょうか。 |
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1.5 個性とまとまり | ||||
吹奏楽部の面白さの一つに、いろいろな楽器が、それぞれ違った音楽を奏でてるにもかかわらず、音が響きあうと素晴らしい音楽になる、ということがあります。 案外認識されてないんですが、合唱部の場合も、混声合唱では4つの声部だけをまとめれば良いと思われがちです。しかし、人の声は一人一人の声帯が違い、体型が異なるのですから同じ声はないのです。ですので、十人いれば十の音色が出ています。この場合にも、この声をひとつにまとめると素晴らしいハーモニーが出てくるのです。 部活動の運営もこれに似ています。部員の性格は十人十色です、これらの一つ一つの力が一つにまとまると素晴らしい力を発揮します。みんなが一つの目的に向かって動いていくことが大切ですが、その方法は個性的であることを尊重すべきです。 |
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2. 指導の観点 | ||||
2.1 いい指導者はいい演奏家である必要はない | ||||
よく、「私は吹奏楽の楽器が演奏できないから、専門は歌ではないから、吹奏楽や合唱部の顧問は出来ない」と言う話を聞きます。 しかし、例えば、プロ野球の名選手が決して名監督であるとは限らないように、プレイすることとマネージメントすることは違っていて、演奏が出来るということと、顧問であることは別の話です。しかも、吹奏楽部・合唱部では部活動の顧問は、生徒に対して自分の演奏を聞かせて指導するというような専門的な力を発揮する場面は、指導の仕方を工夫すれば無くても済みます。 確かに、吹奏楽や合唱部の顧問という仕事は、楽器の演奏技術や歌唱法を知っているとより効果的に指導できますが、そのすべてを知っているというゼネラリストであることが顧問としての必要条件ではなく、顧問は、顧問をするというスペシャリストの仕事なのです。 もちろん、個々の楽器の演奏法やいろいろな曲の歌唱法を研究していくことも指導に役立ちますが、それより、部活動をまとめて、ひとつのものにしていく方法を考え、作り出していくこと方が大切です。 |
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2.2 情報共有 | ||||
一つの目標に向かってみんなで活動していくのですから、顧問と部員も同じ情報を持つのが当然です。しかし、簡単なことさえ、部の内部で共通の認識になってない場合がほとんどです。 基本となる、練習時間・練習日時・練習場所から、部の組織としての役割分担、そして、顧問の活動方針など、当たり前のことが共通認識になっていないのです。 情報は、ただ単に伝達するだけでは、意味を持ちません。情報の価値を認識する受け手側の意識が働いて初めて意味を持ちます。つまり、生徒が単なる伝達事項として聞き流すのか、意味を知って価値ある情報として記憶に留めておくかの違いが出てくるのです。 顧問のクラブに対するスタンスが確固たるものになればなるほど、ちゃんと伝わり情報の共有は進みます。また、部員達の意識があがって、みんなが一生懸命にやろうという意欲が高まれば高まるほど、情報の共有もしっかりしたものになります。 |
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3. 具体的方法 | ||||
3.1 期待される部員像 | ||||
「親はなくても子は育つ」という諺がありますが、「顧問がなくても部員は育ち」ます。 その育っていく流れの中で影響を与えているのが、「あんな先輩になりたいなあ」という、あこがれの対象や目標となる部員がいるということがあります。 顧問はすべての部員と話をして意思疎通をするべきですが、それには大変時間がかかります。しかし、そんな目標となる部員をとおして他の部員の意見を知ったり、顧問の意図が部員に伝わりやすくなったりします。 これはよく言われる、リーダーの育成です。しかし、部活動の場合、顧問の意向を理解しそれを部員に伝えるという中間管理職的なリーダーではなく、あんな先輩になりたいと後輩が思うような自立した部員として育てる方向で接していくべきでしょう。 これが、自主的な課外活動としての部活動での特徴の一つだと考えます。 |
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3.2 まわりの部員 | ||||
積極的に活動する部員は、顧問が特に何も言わないでも頑張ってくれます。しかし、すべての部員がそうなるのはなかなか難しいでしょう。しかも、その活動的な一部の部員だけでは、部全体はスムーズには働きません。 部全体が活性化するためには、その部員たちのまわりにいて、ただその部員についていっているだけの部員が一緒に頑張るようになると、部は活発化してきます。 演奏会やコンクールを通して部が活性化してくるのはその例でしょう。 「コンクールで優勝する」というような、大きな目標でなくてもいいのです。何か目標が出来ると、普段の活動にはない、いろいろな事をしなければいけません。その練習以外の活動を支える仕事を、部員が自分たちの役割として意識し、まわりの部員たちが支えるようになると活動はうまくいきます。 |
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3.3 仕事を割り振る | ||||
しかし、どんなことをすればいいのか、部員たちでは思いつかないこともあります。そんな時に、それに気づかせ、部員たちの動きの足りないところを指示するのは、顧問の出番です。 部員は目の前にある問題には対応しようとしますが、部全体を見ることはなかなかできないことです。それを顧問がサポートしてやればいいのです。 その点から言って、仕事の割り振りがうまくバランスが取れているかを指摘してやることも、顧問の動くところでしょう。 さらにもう一つ、そのようにして振り分けられた仕事を、日ごろは目立たないけど、今回がんばってる部員をちゃんと評価してやることは、もっと大切になります。 部員達が出来ることは部員達に、しかし、顧問にしか出来ないことは、いろいろ出てきます。「顧問の仕事は自分で作っていくもの」という原点に立って、対応方法を考え作っていけばいいでしょう。 |
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3.4 部員の把握 | ||||
部員が増えてくると全員を把握するのは、だんだん難しくなってきます。 部員の性格や特性までも細かく把握して指導することができるのは、せいぜい10人が限度だと思います。多くの国の軍隊は、10人の兵隊に小隊長が1人いて、その小隊長10人を部隊長が束ねるという形になっていると聞きます。これも、直接指導できる人数というのは、10人くらいまでという例でしょう。 ですから部員が増えていったら、中心になる10人くらいの生徒を指導することによって、部全体を動かす方法を採るほうが効果的です。 そのためには、部の組織化が必要になってきます。 |
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3.5 毎年、変化するもの | ||||
部を組織化するには、中心なる部長や副部長とそれをサポートする各種係りを作って、それをまとめるために、各係りの関係をつなげていけばいいわけですが、どんな形にするのかは、部の活動形態・部員の人数などで千差万別です。 特に各種の係りなどは、それぞれの部の実情に合わせて決めていけばいいでしょう。 それより問題とすべきことは、その組織を固定化するか、しないかということです。 なぜこのことが問題となるかと言えば、部活動は、毎年部員が変わるからです。これは他の組織にはない特徴です。構成員にあまり大きな変動のない、学校や会社の一般的な組織は、ある程度、固定化の必要があります。しかも、そのほうが効果的な組織としての運営が出来ます。 しかし、構成員の人数やその構成員の持つ資質も毎年変わる部活動の組織を、固定化しておく必要があるでしょうか。 |
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3.6 組織は作り上げていくもの | ||||
組織を固定化しておく方が効果のあがる場合は、部員の人数が多くなってきた時です。 それぞれの係りへの人数配分に余裕があり、多少の仕事の遅れや失敗などにも、人的パワーで対応できる場合は、大きな目標を持って充実した部活動にするためにも、組織の形を決めた方が良いでしょう。仕事内容をはっきりさせて、それをやるべき時期が判っていれば、毎年新しく入ってきた部員達は、戸惑うことなく組織の中で動くことが出来ます。そして、やるべき仕事をこなし、対応を早く済ませることができれば、その分、練習にも打ち込めるというものです。 しかし、人数の少ないうちは、そんな対応は出来ず、部活動のいろいろな仕事を部員みんなでこなさなければなりません。例えば部員が減少した時、どの仕事を減らしていくのかは、悩ましいところです。今までの組織ではなく、より効率的な新しい組織に作り直さなければならないかもしれません。 組織再編を実行するには時間がかかり、その分練習が停滞することがあるかもしれません。しかし、この新しい組織を考えたり、それを試してみることに時間をかけるのも、無駄ではないと思います。 それは、部活動には、今までの組織に縛られない新しいメンバーがいるからです。毎年、部員が入れ替わるという、組織としての短所を長所に置き換えてみましょう。 新しいメンバーは、いままでのしがらみなど露知らず新しい意見を出してくれます。こうした意見と、今までの組織の利点を再構築して新しい組織作りを考えていくことができます。 そして、この実社会に似た活動をとおして、部員たちは自身の自発性や指導力、そして彼らの個性を育てていきます。このことこそ、課外活動としての部活動で経験できる利点となります。 |
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3.7 自信のない部員が変わっていく時 | NEW | |||
ある心理学の実験で、テストを受けた子供たちの中から、任意に選び出した子供の担任の先生に「この子供たちは、将来きっと成績が向上します」と伝えておいて、一年後、もう一度テストを行います。 すると、無作為に選び出したにもかかわらず、選んだ子供たちの成績があがっているという結果がでるそうで、この現象を「ピグマリオン効果」といいます。 いままで自身のなかった部員が、何かのきっかけで、顔つきが変わり、目標を持って自主的に取り組んで行くようになる瞬間があります。 それを引き出したのは、本人が、なんらかのきっかけをつかんだ場合もありますが、まわりの人間から影響を受けた場合も多く見受けられます。 たまに来ていたOBが「うまくなったな」と一言声をかけた、とか、顧問の「頑張ってるね」の一言とか、ほんの些細なことがその力を引き出しています。 顧問は、いつも部員の可能性を信じてやってることが大事です。 |
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