メッセージ   2013年 6月 2日

「理想と現実 本音と建前」 (使徒の働き8章1節b)  

ステパノが殉教したことを境にして、使徒たち以外の者は散らされたと記されている。迫害に対して使徒たちは耐えたが、それ以外の者は…とも読めるが、前後の記事から判断すると、どうやら初代教会はユダヤ教の伝統を受け継ぐユダヤ人クリスチャンと、そうでない(ギリシア語を話す=ヘレニスト)ユダヤ人クリスチャンとに分かれていたようである。そして、ステパノに代表されるようにヘレニストクリスチャンたちが主に迫害の対象となったのである。 

 ステパノやピリポは、やもめへの食事の配給係として立てられたことにはなっているが、見事な説教者、あるいは伝道者としてその働きが聖書に記されている。

 ルカは「使徒の働き」の前半でペテロを中心とするまさにイエスの直弟子の働きを描いている。ピリポによって始められたサマリヤでの宣教も、弟子のヤコブやヨハネによって完結したと記されている。しかしここから次第にルカの記述はペテロからパウロへと移り変わっていく。つまり初代教会、そして福音の主流はヘレニストクリスチャンへと受け継がれていくことになるのである。ユダヤ人教会の拠点のエルサレム教会はやがて姿を消す。新約聖書はギリシア語で書かれた。

 福音は直接主イエスと触れ合った直弟子たちによって語られ始めたが、ほどなく、言葉によって伝えられた人々によって受け継がれていくことになる。ここに神様の深いご計画があった。

 ルカは、初代教会における対立をあからさまには描かなかった。しかしそれは現実から目をそらしたのではなく、人の弱さが生み出した問題を越えて働かれる神様の業としてとらえ、記した。歴史となる前の途中経過を見守りつつ筆を進めたと言える。現実を良しとせず、建前でごまかすのでもなく、神様の働きに希望を抱いて綴った。