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近年、行政は岸和田城周辺の景観整備や紀州街道の修景、舗装など、
ごく一部ですが、歴史的街並みの保全などに取り組んでいます。
しかし、このことすら、認識している市民は少ないのではないでしょうか。
城の近辺や祭りの日にだんじりが通る道沿い、紀州街道沿いにも、
当たり前のようにピカピカの材料を貼り付けた、味気ない洋風住宅が建ち並んでいます。
これは、バブル経済絶頂の頃に関西国際空港建設も重なり、
駅前再開発や住宅開発、幹線道路の整備などが進んだためです。
岸和田の街並みは一変してしまいました。
さらに、不景気のどん底にあえぐ現在においても、そういった建物は増え続けています。
その一方、「だんじり祭り」は全国的に有名になりました。
毎年数万人の人たちが、全国から見物に訪れます。
岸和田市民には意識してほしいことがあります。
それは、見物客は「だんじり祭り」と同時に、街並みも見ているということです。
伝統木造建築工法でつくられただんじりを、法被姿の人たちの力だけで動かす「だんじり祭り」。
その風景に、ピカピカの建物が並ぶ街並みが似合うでしょうか。
地味でも、重厚感のある、落ち着いた街並みの方が絵になるはずです。
ほんとうに祭りが好きならば、街並みについても真剣に考えるべきではないでしょうか。
次に街の特性を考えてみます。産業的には、一次産業から三次産業まですべて揃っており、
その一方で、衛星都市としての機能も有しています。
つまり工場、商店、住宅が入り混じっている街なのです。
こうした街並みを整えるために、行政だけにまかせるのは、市民として無責任ではないでしょうか。
民間の人たちも、もっと問題意識を持つべきです。
岸和田市民の岸和田に対する意識や思い入れ、責任感は強いはずです。
祭りを見ればわかります。
あれだけの「だんじり」に対するパワーと団結力、そして伝統を重んじる心。
また祭りの準備と後片付けには、多くの市民が進んで参加します。
これは、個人主義が蔓延する現代社会において、大変貴重なことです。
それでは、歴史を感じさせる重厚な街並みにするには、どうすべきなのでしょうか。
日本やヨーロッパの美しい街並みを見てみると、それらは没個性的な家の集合のように見えます。
よく似た家の連なりなのですが、まったく同じ家というわけでもありません。
ところが、現代の日本の街並みは、一軒一軒まったく違ったデザインを施した無秩序なものや、
完全に同じ家を並べただけの味気ないものがほとんどです。
これでは、歴史や美しさを感じません。
一口に歴史といっても、古い時代だけではありません。昭和や平成も歴史の一部です。
しかし明らかに、古い時代の建物の方が、人の心を引き付けます。
古来より日本人は、自分たちの使う道具や身のまわりの物に、魂が宿ると信じてきました。
古い時代の建物に対しては、それに近い感覚があります。
しかし、経済至上主義が蔓延してからの建物には、ほとんど感じられません。
手づくりの建物には魂が宿るが、工場でつくった物を組み立てただけのそれには、
魂が宿らないということでしょうか。
岸和田の街は緩やかに発展してきました。21世紀もこのペースを保つことでしょう。
「だんじり祭り」に負けないぐらい、魂の宿った街並みができあがって初めて、
岸和田はほんとうの意味で成熟した街になるでしょうし、きっとそうできるはずです。