映画「白鳥の歌なんか聞えない」


薫クンシリーズでは、どの物語が一番印象に残ったかって聞かれたら、ぼくは迷わず「赤頭巾ちゃん気をつけて」を選びます。なぜなら、第一作だし、ぼく自身が赤を出発点に庄司薫氏にのめりこんでいったからです。ただ、一番読んだのは何かって言うと、おそらく「白鳥の歌なんか聞えない」だろうと思います。理由は簡単で、ぼくは由美のやつが大好きだからです。

由美が一番活躍するのが、この白です。赤・白・黒・青には魅力的な女の子(女性)がたくさん出てきますが、全作品を通じてもっとも好きなのはやはり由美です。「さよなら怪傑黒頭巾」に出てくるアコにも相当猛烈まいっているけれど、すぐに「舌かんで死んじゃいたい」って言い出す由美は、ぼくの永遠の憧れです。今でも、50歳をすぎた由美と薫が、どこかで幸せな生活を送っているんだろうなぁ、、、なんて考えてホクホクしています。

映画白では、前作の映画赤に比べ、薫のモノローグが少なくなり、ほんとに重要な2箇所だけになっています。全体に会話が多く、映画赤よりもテンポ良く物語が進んでいきます。

印象的な場面は、小沢さんのおじいさんと知り合った後に、薫と二人で夕日を見ながら、由美が涙を流すシーン。東京のビルの谷間に夕日が沈んでいく、それを見ながら由美が涙を流す。ぐっときました。そしてラストシーン、小沢さんを由美の部屋に残し、由美と薫が今は使われていない由美のお姉さんの部屋で、ついに結ばれようとする場面、薫が幻想の中で射精したってのは、小説を読んだ人じゃないとわからないと思うけれど、とっても感動しました。

この作品の中で、ぼくは、由美が始めて人格を持って、いきいきと具体化してきたんだと思います。だからこそ、繰り返し読むときの赤の由美にも人格を感じることができる。薫クンシリーズは決して1回だけ読み通してわかったような気になるんじゃなく、できれば、何度も何度も繰り返し読んでほしいと思います。さもなければ、薫クンのことが、いつまでたっても理解できないと思うんです。(これは蛇足ですね。ここに来る人は半端なファンじゃないと思いますから、、、)

小説の最後で、薫は「死にも、やさしく心を開き、耳を傾けることができるようになるにちがいない」と振り返ります。赤の最後で「海のような男になろう。森のような男になろう」と言った薫は、「死」という重いテーマにも全力で取り組んだのが、この「白鳥の歌なんか聞えない」だと感じて映画を見終えたのでした。


散歩学派 おおはし

 

「ささやかなあとがき」

ほんとに偶然に、しかし非常に幸運にも、30年来願っていた夢がかない、映画赤、映画白を見ることができました。生意気にも感想めいたことを書いてしまいましたが、これはあくまでもぼく個人の意見です。気に障るような表現があればお許しください。