「白鳥の歌なんか聞えない」


白は出版順では第3作ですが、時系列的に見ると、赤は2月、白は3月、黒は5月、青は7月の薫クンの体験を綴った物語となり、すなわち白は、薫クン2番目の戦いの記録です。

赤で、「若さ」が夢見る「他者への愛」とでもいうべき熱い情熱と可能性を描いた庄司薫氏は、この白では「死」を見つめます。

4部作の中で、ぼくの大好きな由美が大きな役割を果たすのも、この白です。冒頭、由美と薫の会話がやがてけんかに発展していくあたりは、ぼく自身の女性観を決定づけました。ちょっと物知りで、猛烈にお天気屋だけど、天晴れなところがある、ぼくはそんな由美みたいな女性を探し続けました。

小説ではこの由美が、死を目前にした小沢さん(由美の先輩)のおじいさんを知ったことから、死に行く者としての人間を真正面に見据えてしまったために、本来のキャラクターを変化させていくところを描いていきます。腰に手も回させない由美が薫にラブレターを出してしまう。ぼくはもう何度もこの「あなたがとてもとても好きです」というラブレターを待ったことか、、、

しかし薫は、由美の変化に気づき、逆に死に行く者として自分にラブレターを出した由美のことを気づかうようになります。

皆さんは、「死」を積極的にみつめたことはありませんか? ぼくはあります。高校の時に、一時ノイローゼ状態になったことが。寝るといつ死んじゃうかわからないから、眠ることができない。誰かにそばにいてもらいたい。って、そんな気持ちになりました。

薫はそんな状態の由美から受け取ったラブレターに対し、文字通り解釈することを、潔しとしなかったのです。それどころか、ラストシーンでは、裸になって「抱いて」と言う由美を前に、抱くこともできず、自分で果ててしまいます。

一方でこんな由美を気づかいつつ、他方では親友小林の駆落ちの失敗を目の当たりにして、薫はやさしさの対象を「死」という事実にも向けようと振り返ります。

赤より厳しいテーマを扱いながら、それでもやさしさを持ち続けようとした薫に感謝して、ぼくはこの小説を読み終えました。


散歩学派 おおはし


追記(「狼なんかこわくない」庄司薫著より)

白は東西南北の西を守る神「白虎」を象徴し、「白鳥の歌なんか聞えない」で庄司薫氏は、日没とでもいおうか「死」を見つめた。