「赤頭巾ちゃん気をつけて」


中学3年生のぼくにとって、この本はタイトルに反し、内容を理解しづらい小説でした。しかし、博学多才な薫クンにあこがれたり、すぐに「舌かんで死んじゃいたい」って言う由美みたいな幼なじみがいたらいいなぁって思ったり、ミーハー的なファンにはすぐになりました。

正直言って、お金持ちの息子で、秀才の薫クンをねたんだことも事実です。しかし、それ以上に強い引力をこの本は持っていました。

高校に入ったとき、ぼくは薫クンみたいな生活を送りたいと考えてわくわくしていました。ところが、日比谷高校みたいな芸術派はいないし、同級生の生き様をみていると、『ゴマすり型』のやつがいたり、『居直り型』のやつがいたり、女の子のおしりばっかり追いかけてる『亡命型』がいたりと、すっかり意気消沈してしまいました。

逆に同級生から見ると、ぼくってやつは、気取っていて、老成していて、まったく面白みのない人間だったかもしれません。もっとも、ぼくは根っから脳天気にできていたので、実際のところは楽しい高校生活でしたけどね。しかし、この本の影響で、何か生き方にこだわりを持っていたことは事実です。

「赤頭巾ちゃん気をつけて」は、大学入試が中止になったり、10年ぶりに風邪をひいたり、使い込んだ万年筆をなくしたり、ドンに死なれたり、爪をはがしたり、ここんとこ猛烈についていなかった薫クンが、名前も知らないちっちゃな女の子との出会いですっかり立ち直り、なによりも、由美のやつに気持ちをわかってもらえた、そう、とっても素敵な作品なんです。


散歩学派 おおはし

 

追記(「狼なんかこわくない」庄司薫著より)

赤は東西南北の南を守る神「朱雀」を象徴し、庄司薫氏は作品『赤』で「若さ」が夢見る「他者への愛」とでもいうべき熱い情熱と可能性を描いた。