野瀬から相生に通ずる昔からの山道を野瀬坂と云い野瀬の人はオオ坂と呼んでいる。此の野瀬坂周辺に降った雨や山間から流れ出た水は、遠見山山裾に造られた角谷の池(地元の人はスマダの池と訛って呼んでいる)へ流れ込む。梅雨時から夏場にかけては満々と水を湛え、岸辺には葦や夏草が生茂り、水面には水草が一面に浮かんでいた。
大人達は「スマダの池はガタロが住んどるから行かんとけ、引っぱり込まれて生き血を吸い取られる。出て来て相撲を取ろうとゆうたらお辞儀をさして、頭の上の水を毀さしてから取れ。河童は頭の上の皿の水がないなったら弱いんや。仏さんにお供えした御飯さんが嫌いやから一口食べてから行け。」などと子供は何時も聞かされていた。
歳月は流れ池の周辺の樹木は切られ、道路が山を切り裂き、神秘的雰囲気だったスマダの池は池畔に影を映していた樹も水も無くなり、青い水をたたえた小さな山の湖の様相は一変してしまった。河童の話など今のスマダの池しか知らない人には怪訝な顔をして耳を傾けられることだろう。
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