red 『フランス語初級文法』をアップロードしました(2022年9月) |
Dist l’arcevesques: “Nostre hume sunt mult proz; Suz ciel n’ad rei plus en ait de meillors. Il est escrit en la Geste Francor Que vassals est li nostre empereür”. (La Chanson de Roland, version d’Oxford, vv. 1441-1444) |
大僧正は言う。「我らが同胞は、まことに勲高い 天が下、これ以上の臣下を従える王は無い。 それゆえ、『フランクの史書』にも、記されたのだ。 我らが皇帝は武勇に優れると。」 (『ロランの歌』、オックスフォード本、1441-1444行) |
本叢書(コレクション・ジェスト・フランコール)は主に未邦訳の中世フランス文学作品を紹介することを目的にしています。翻訳ではなく、原典に基づいた要約だということにご注意ください。とはいえ、単にあらすじを追った要約ではなく、できる限り、原典の雰囲気を尊重し、読み物として楽しめるようにしたつもりです。また、重要な部分は、対訳形式になっています。 作品を全訳するのは要約よりもずっと大変な仕事ですが、中世フランス文学にあまり馴染みのない読者に全訳を読んでもらうことには、デメリットも少なくありません。「傑作」の誉れ高い『ロランの歌』でさえ、初心者には相当手強いようです。文学に造詣の深い私の友人さえ、この作品の通読を放棄してしまったほどです。 中世の文学作品は、ある程度時代背景を知っていないと読みづらいものです。それに、作品同士の関係が密で、作品をある程度読みためないと本当の面白さが見えてきません。端的に言えば、敷居が高いのです。ただ、その敷居を一旦越えてしまえば、向こう側には豊穣な虚構世界が広がっています。 上記のことを踏まえて、編者は、エネルギーを、作品の全訳ではなく、別の方向に向けることにしました。それは第一に、できる限り詳しい注釈を加えることです。私が大学で教える学生のほとんどは中世フランス文学はおろか、小説も読まないようです。そういった学生も読んでくれたらな、という一抹の期待をこめて、言わずもがなの注釈もずいぶんつけました。第二に、できる限りたくさんの作品を収録することにしました。そうすることで、個々の作品が融合し、一つの虚構世界を形作る様を表現できたら、と考えたのです。中世フランス文学の傑作の多くが日本語で読めるようになった今や、こうした試みも許されるのではないかと思います。本叢書によって興味を引かれ、全訳、あるいはフランス語現代語訳、そして、原典の新たな読者が生まれてくれたら、編者としては、これほどうれしいことはありません。 とはいえ、もう一方で、本叢書がもう少し野心的だということもまた、明瞭でしょう。中世フランス語の原文や固有名索引を付したのは、一応、専門家の卵のことを念頭においたからです。特に武勲詩は、現在のところ、『ロランの歌』と『ギヨームの歌』にしか日本語訳がありません。ロマンや叙情詩を専門にしようとする学生、中世仏文学で卒論を書こうとするには、手っ取り早い入門書として本叢書が役立つのではないかと思います。 |