笑いの事情(1997)
世のお笑いファンにとって今一番の関心事は「ダウンタウンの次は?」ってことだろう。 「ごっつええ感じ」の終了は日本お笑い史上に残る事件だ。 僕はお笑い至上主義者なので全面的にフジテレビに非があり番組降板もやむなしとは思うがそれにつけても惜しいことこのうえない。 ヤクルトの優勝の瞬間が「トカゲのおっさん」より大切だとはとても思えない。 これでついにテレビから純粋に作り込まれた「お笑い番組」がなくなってしまった。 トークやドキュメントスタイルのお笑いバラエティ番組も確かにおもしろいものもあるが笑いをとことんまで純粋に煮詰めた笑いだけに殉ずるお笑い番組にはとうていかなわない。 「兄貴」のコントのあのお笑い濃度の高さに匹敵する笑いが一体どこにあるというのか? これから俺は日曜八時をどうやって過ごせばいいんだ! とついつい熱くなってしまうがこれで現実的にはダウンタウンというか松本氏の笑いがゴールデンから無くなってしまった訳だ。 この現実の前で平気ではいられない。 でテレビの中の「笑い」でいうとナインティナインが今もっともパワーがあるのは誰の目からも明らかであろう。 「ナイナイのどこがおもろいねん」なんて言えたのはもうはるか昔のこと。 現時点で彼等ほど視聴者に「わくわく感」を与えてくれる存在はいないし、その期待に答えてくれる存在もいない。 特に岡村氏の「間」は現在のテレビ界では最高の部類に入るものだろう。 カメラが捉える一瞬の表情の決まり具合は志村けん氏につぐ素晴らしいものだ。 岡村氏のもつキャラクターとしての面白味やかわいさはそれ自体一つの才能と認めていい。 (話は変わるが今年のお笑い界には「小男の時代」がくるのでは。オール阪神師匠の小男ぶりに注目。) 悪い悪いと言われていた相方矢部氏もはっきり言ってものすごくうまくなってる。 彼等の凄いところは売れることに比例してお笑い濃度が高まっていることだ。 出来ればこのままいつまでもハンディーカメラとともに動き回っていて欲しい。 動きを忘れすっかり大橋巨泉化してしまったとんねるずの体たらくぶりを見るにつけそんな風に願わずにはおれない。 で現在の大阪に目を向けるとちょっと苦しいなというのが正直なところ。 かってダウンタウンを生み出した二丁目が今ではある意味若手芸人をダメにしているのではないか。 まさに井の中の蛙という言葉がぴったりくる閉鎖的空間の中で笑いの質がどこまで保たれるか。 いくら千原兄弟あたりが息巻いてみてもキャイーンの足下にも及んでいないというのが現実だ。 (最もキャイーンはかなり腕のいいお笑い芸人であるので比べてやっては可哀想だけど) この春から千原兄弟とジャリズムが本格的に東京で活動を始めるらしいがどこまで通用するか。 やっぱり大阪の芸人はおもしろいとお笑いファンを唸らせることができるか、大阪がおもしろいなんてのはもはや幻想にすぎないということを実証してしまうのか。 (個人的にはジャリズムに期待している。) でそんなにこまめにチェックしてる訳ではないのですがちょっと気になる人たちを。 漫才ブーム全盛時のツービートや紳助・竜介を思わせるスピード感のある毒舌を聞かせるハリガネロック。 ダウンタウン出現以降ほとんど絶滅しているガンガンたたみかけていくスタイルのしゃべくり漫才が新鮮。 シュールというよりナンセンスなコントを演じるサバンナはその発想において頭一つ出ている。 それと女性コンビの高僧・野々村。 普通、才能ある女性漫才師は上沼恵美子やトゥナイトのなるみ、海原やすよ等に見られる様に独特の華やかさとキュートさを先天的に持っているものだが彼女達(特にボケの野々村)にはそれとは全く異質なひどく魅力的な何かがある。 何とも言えない「危うさ」についつい惹かれてしまう。 前に前に出てくるキャラではないが発想自体のおもしろさで勝負出来るネタ作りのセンスもいい。 しかし実際のところ漫才に限って言えば新人よりも大木こだま・ひびき(みうらじゅん氏のプロデュースのもと東京にもその笑いが浸透しつつあるとのこと。「往生しまっせ」が流行語大賞に輝く日も近い。)や酒井くにお・とおる(1997年現在、最高におもろい漫才をするのは彼等だ。これ、まじで)横山たかし・ひろし、はな寛太・寛大等中堅のほうが勢いがあっておもしろい。 シュールだ、新感覚だとかなんとか言っても笑えなきゃどうしようもないのだから。 あとティーアップは実力あるんだからがんばってほしい。 彼等は5,6年後には今のこだま・ひびきの位置にいるはず。 それと新喜劇の山田花子と藤井隆が最高。 それにしても山田花子の成長ぶりは凄い。 それと内場勝則氏には平成の船場太郎を目指して欲しい。 吉本以外では京都、大阪を中心に活動するコント集団ガバメントオブドッグスが最高。 モンティパイソン〜シティボーイズの流れを汲みなおかつ落語的な世界までも内包するコントでライブが楽しみでしょうがない。 で関西にいてちょっとつらいのは東京の芸人をほとんど見れないことだ。 (くだらないバラエティー番組に出てる人達は男でも女でも単なるバラドルってので芸人ではない。彼らで笑おうってのがそもそも間違い。) 関西弁のこってりした笑いに少々食傷気味だったところに西条昇氏の「東京コメディアンの逆襲」(お笑い好きなら必読の名著!)を読んでしまいすっかり東京の笑い(というか反大阪的な笑い)に気持ちがいってしまった。 笑点が毎週楽しみなぐらいだから困ったことだ。 (高校生の時桂才賀見たさに毎週見てたことがあったんだけどひさびさにはまってしまった。楽屋の財布がなくなればまず小遊三を疑うとか木久蔵ラーメンを食べると腹をこわすとか楽太郎は腹黒いとかこん平のカバンには若干の余裕があるとか馬といえば円楽のこととかなんか「笑点の中の常識」をすんなり受け入れている自分がこわい。その他、演じる若手、それを見る観客、さらにその状況を見る視聴者全員がなんだかちょっと辛いという笑点の穴のコーナーもいいし、はなで登場する芸人も明和電気とか梅垣義明とかなんか変なことになってきてる。この前出たビシバシステムには久々に爆笑した。好楽の存在については議論があるところだろうがなんだかはまっている。) それと出張行くときに飛行機で聴く落語がまたいいんだ。 立川志の輔、春風亭昇太(自主制作で落語のシングルCDを発表したらしい。どうしても手に入れたいんだけど東京の一部のレコード店にしかないとのこと。誰か買ってきてくれ。)、柳家喬太郎(この人の名は憶えといたほうがいいですよ。)昔々亭桃太郎とか毎日でも聴きたい。 落語以外ではやっぱり爆笑問題。 ダウンタウンやウッチャンナンチャンとともに「お笑い第三世代」として登場してきた時からそのたけしイズムを引き継ぐブラックなセンスは評価されていたが(そういえば渋谷陽一氏なんかロッキンオンに連載させたり、自ら構成を手がける音楽番組のレギュラーにしたりとかなり入れ込んでたなぁ)、しばしの潜伏期間を経てついに前線に復帰。 今はまだテレビの中で居心地悪そうな彼等だけどどんどんテレビに出て、ステータスを上げ、自分達が好き勝手出来る状況になるまで行って欲しい。 そうなれば今のお笑い地図は明らかに塗り変わるだろう。 松本人志氏に唯一対抗できるのは太田光氏だけなんだから。 (宝島30での連載をまとめた「爆笑問題の日本原論」は当然必読であるが現在雑誌「 WAIRED」で連載が再開されているので要チェック。ちなみに「BART」でも同じようなスタイルの文章が載ったが太田氏自らが構成・文を手がける「 WAIRED」と違い別のライターが構成・文をやっててあきらかに笑いのレベルが落ちている。これだからメジャー誌はダメなんだよなぁ。それとお笑い芸人としてトップクラスにいる彼等がボキャブラ天国で所詮テレビタレントでしかないヒロミや清水圭あたりに審査されてるってのは納得いかん。) しかしテレビ覧に彼等の名を見つけたらこまめにビデオ録画してるのだがいかんせん5分やそこらの漫才では物足りなすぎる。 地方在住の一サラリーマンである私にはライブに行くことも出来ない。想いはつのる一方って感じだ。 想いがつのると言えば浅草キッドも。 山中伊知郎氏をして現在の若手漫才コンビとしては最強と言わしめた二人。 水道橋博士が自ら開くホームページには連日アクセスしている。 考える芸人・水道橋博士の笑いや師匠たけしへの想い、芸人としての苦悩ぶりは感動すら憶えるし、公開されている漫才ネタの数々は生で見たいという欲求をかきたてるものばかり。 氏の日記は今最高におもしろい読み物だ。 先日雑誌のインタビューで博士は浅草キッドVS爆笑問題の「漫才最強王座決定戦IN後楽園ホール」構想をぶちまけていたがこれがほんとに行われるとしたらまさに夢のマッチメイク。 テレビで適当にクイズやゲームして「お笑いです」なんてこと言ってるふぬけた芸人達やそんな芸人を糾弾することなく適当に笑って許している人たちの目を覚ます為にもぜひ実現を。 「たけしイズム」を引き継ぐ水道橋博士と太田光。 この二人の活動には目が離せない。 (それにしても何故レコード会社はお笑いをCD化しないのか。トライアドから爆笑問題の漫才のCDが出るとかつぶやきシローのCDシングルが出るとかエピックから浅草キッドの2枚組ライブ盤が出るなんてことになったら絶対買うけどなぁ。喬太郎や昇太の新作落語なんて即出してくれって感じだ。少なくともアニメタルなんてのよりよっっぽど意味があるはず。) |