「天才・関根勤」(1996)

僕が最も好きなお笑い芸人関根勤氏のことを書かして頂きたい。
思えば氏のお笑い界での位置というのは実に不思議である。
今お笑い芸人という書き方をしたが厳密に言えば彼は「芸人」ではない。
例えば欽ちゃんにしろたけし、さんま、ダウンタウンまでコント、漫才、落語などのなんらかの「芸」で舞台からスタートしているのに対し彼は全くの素人からいきなりテレビに現れている。
「ものまね」が彼の出発点ではないか?と言われれば確かにそうなのだけど、そのものまねもコロッケ(「ロボ五木」には腹筋が切れそうなぐらい笑った)や清水アキラ等の芸としてのものまねとは明らかに異質のものである。
氏のものまねはそれ自体おもしろいがそれ以前に千葉真一や輪島功一を持ってくるその感覚こそがずば抜けて天才なのである。
彼の笑いの感覚は森繁、渥美清から連綿と流れる日本の伝統的なペーソス溢れる笑いってのから最も遠くに位置している。
そして、なおかつブラックとかシュールなんてのからも遠く離れているというのが凄い。
徹底的にナンセンスでくだらないという笑いは日本お笑い史上極めて異質かつ異端だ。
(数年前に発売されたビデオ「カマキリ伝説」のオープニングでカマキリに扮した彼とイカ男に扮したラッキィ池田氏の戦いのシーンがあるのだがそのあまりのバカバカしさはナンセンスという言葉すら通り越して感動的ですらある。)
そしてテレビの中では強力なバランス感覚で一見「毒にも薬にもならない」という風でありながら突き抜けたギャグセンス(よくテレビで彼の発言に対し観客以上に共演者であるお笑い芸人がうけてしまっている姿を見ることがあるが、これこそ彼のギャグセンスがいかに高水準であるかを物語っている。)を一瞬の隙にかいま見せ、お笑いファンのつぼを押しまくるという独自の「テレビ芸」を確立。
彼は今や日本を代表する「テレビ芸人」と言えるのではないか。
そんな彼の人知れぬ苦労と天才ぶりは山中伊知郎著「関根勤は天才なのだ」に詳しいので一読をお薦めする。
またキネマ旬報での彼の連載をまとめた「サブミッション映画館」と続編というべき「フルコンタクト映画館」は彼の独自の映画観と徹底的にナンセンスな笑いの発想とポップな言語感覚がたっぷり堪能できるのですぐに本屋へ直行すべき。
それにしてもテレビ関係者は何故彼をメインに据えた徹底的にナンセンスなお笑い番組を作らないのか。

深夜の30分枠でもいいからやって欲しい。


 

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