「サムライフィクション」の“ピース”

中野裕之監督の「SF サムライフィクション」を見た。
中野裕之の名前を最初に聴いたのはいつだっただろうか。少なくとももう10年以上にはなるだろう。
僕が中学生の時「なげやり倶楽部」という番組があった。
司会は中島らも。
確か第一回のゲストは細野さんとシーナ&ロケットだったと思う。
ライブと気の抜けたトークとコントで構成されててダウンタウンとかキッチュとかが出てた。
この番組をつくってたのが当時読売テレビにいた中野氏その人なのである。
この番組の前にはシティボーイズや竹中直人なんかが出てた「どんぶり5656」という今となっては伝説の番組を作っており言ってみれば今主流のシュール系の笑いを最初に関西に持ち込んだ人物なのである。(これらの笑いにいち早く反応して関西のベタな笑いとを結びつけ日本の笑いを一歩先の地平に切り開いたのがダウンタウンである。彼らは当時「ラジカルガジベリビンバシステムなどの東の新しい笑いに対する西からの回答」という位置づけで語られることが多かったように記憶する。)
そしてその後、彼はミュージックビデオの世界で一気にトップに躍りでるのだ。
目まぐるしく画面が切り替わるデジタルな氏の作品はまだ出始めだった日本のミュージックビデオの中では飛び抜けて格好良かった。
中学生だった私はKBS京都で深夜にやってた「ミュージックトマトジャパン」を家に導入されたばかりのビデオデッキで必至に録画していた。
そこでかっこいいなぁと思うクリップがほとんど氏の作品だと知って「中野裕之」という名は中学男の私の頭にはっきり刻まれたのだ。
そうそうサエキけんぞうと細野さんが司会してた「TVガーデン」って番組でビデオカメラをビニールかなんかかぶせて風呂の中につっこんで撮影し、めちゃくちゃかっこいい映像を作ってた氏の姿を見て感動したのを憶えてる。
それから「ライブジャック」って番組で見た美しすぎる花火の映像にも感激したなぁ。
で今や世界的な映像作家となった氏が映画を作ったとなればそりゃ見たい。
それも時代劇とくれば絶対にかっこいいものになるぞと確信した。
なぜなら僕に氏の名前を決定的に印象つけたのはPSY.Sのデビューシングル「Teenage」のクリップだからである。
そのクリップは古い時代劇の映像を驚異的なカット割りでエディットし加工して作られた実に素晴らしいもので、僕が今まで見たクリップのなかでも最も好きな作品であるのだ。
で無駄な知識はこれぐらいにしておいてついに中野裕之第一回監督作「SF サムライフィクション」とご対面となった。
すでに立花ハジメデザインの「SF」のロゴ、タイクーングラフィックスによるポスターなどのアートワークの時点ですっかりやられてるんだが、いや、もう本編導入部からかっこいい。
今だかってこれほどかっこいい「映倫」マークの入れかたがあっただろうか、隅々までデザインされた完璧なヴィジュアルと完璧にシンクロするサウンド、タイトルバックからして思わず身を乗り出す。
で話の内容だが、舞台は300年前の江戸。
長島藩が将軍家から預かった宝刀を剣豪の浪人・風祭蘭之介(布袋寅泰)に奪われたことから話は始まる。
けんかっ早い長島藩の家老の息子・犬飼平四郎(吹越満)は宝刀を取り戻すべく二人の幼な友達(大沢健・藤井直之)と蘭之介を倒しに向かうがあっけなくやられ、通りがかった男・溝口半兵衛(風間杜夫)に救われる。
溝口は森の中で娘・小春(緒川たまき)と共に暮らす実は凄い剣豪ありながら「人を斬るなんていけません」と説く平和主義者。
友人を斬られた平四郎は復讐に燃えるが溝口と小春との生活の中で徐々にピース道を教えられる。
一方、蘭之介は一瞬の出会いで溝口の剣の力を悟り、溝口と勝負したいがため小春を誘拐。
でついにラスト溝口と蘭之介は対決するのだが・・。といったところ。
浜村淳なら勝敗まできっちり解説するとこだがとりあえずここまで。
で映画は前半はその映像のすごさに圧倒されるのだがいつのまにやらストーリーに引き込まれ対決シーンでは手に汗握り、ラストの美しすぎる水中からの映像と青空に流れる雲の映像にかぶさる平四郎のモノローグに涙が・・となってしまった。
最高にデザインされた映像の奧には、罪と罰、生と死、善と悪というような深いテーマが隠されている。
そしてなにより見終わった後、すがすがしいまでのピース感、そして「生きる」ことの素晴らしさがしっかり身体に残るのだ。
百聞は一見にしかず。ぜひ見て下さい。
しかしこれもまたキャスティングが最高。
主役の吹越氏は決してべたつかない絶妙な演技でさわやかな印象を残し、風間氏はその堂々としつつ軽妙な味でピース道を説く溝口を演じきっていた。
さすがベテラン。
また布袋氏がやたらかっこいいんだ。
殺陣のシーンのスタイリッシュな動きはさすがロックスターだなぁと感じた。
剣豪でありながら運命のいたずらか人を斬るしかない男の怒りと悲しみがその表情、立ち振る舞いに見事に現れていた、特にラストでのなにもかもから解き放たれたような表情が実に素晴らしい。
それから最高なのが老忍者・影丸を演じた谷啓。
絶妙な間に爆笑。
あと妖艶な賭場の女親分・夏木マリも決まりすぎ。
そしてこの映画でもっともいいのがなんといっても小春を演じた緒川たまき。
いやぁ、完全にやられた。
彼女のその横顔、何もかもを透明にしてしまう笑顔、彼女こそがこの映画で説かれた「ピース」を体現している、いや彼女の存在そのものがまさに「ピース」なのである。
森の中に差し込む陽の光、青空をゆっくり流れる白い雲、そして彼女の美しい横顔、あぁ「生きている」ということは素晴らしいとこの映画は僕に教えてくれたのだ。そんな訳で必見!といっておきます。


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引き続きお楽しみ下さい。