「Beautiful Songs」
矢野顕子・奥田民生・大貫妙子・宮沢和史・鈴木慶一

(2000.7)

「Beautiful Songs」というコンサートに行って来た。
矢野顕子、大貫妙子、鈴木慶一、宮沢和史、奥田民生の5人のコンサートだ。
こんな文章では伝わらないかもしれないが、素晴らしいコンサートだったのです。
とりあえず読んでみて下さい。

会場は若い女の子から結構なおっさんまで割と幅広い。
誰もがこのコンサートをずっと心待ちしていたようにちょっとそわそわしてる。
かくいう僕もその一人なのだが。
ステージはほとんど装飾はなく、どこかの音楽家の部屋というか練習スタジオまんまみたいな感じ。
でブザーがなり客電が落ちライブは始まる。

のっけから奥田民生が飛ばす。
ハードなリードギターはなんと鈴木慶一。
パンタとのPKOやソロのステージでもギター弾きまくっていたが、奥田を向こうに回して若々しいギターを聞かす。
で次がもう「Sweet Bitter Candy」。
ムーンライダーズのシングル曲で近年のライダーズの代表曲になりつつある、とても勢いのある曲。
CDでも実際、奥田がゲストボーカルとして参加しているんだが、まさかこうして生でこの共演が見れるとは。
それにしても鈴木慶一、声が良く出てる。
慶一ファンとしては奥田や宮沢という個性的で若いボーカリストに比べて聞き劣りしてしまうのでは・・とちょっと危惧してたのだが、もう、全くそんなことなし。
ソロツアー後ということもあるだろうが、声が出てる、出てる。
それもかっこいい!鈴木慶一は日本を代表するロックボーカリストだ!と言いたいぐらい。
そして小原礼のベースがうねる「月にハートを返してもらいに」。
これまた圧巻のボーカルで聞かす。
で、すっと現れたのは大貫妙子。
矢野顕子のピアノだけをバックに「横顔」を唄い出す。
彼女の生唄を聞くのは初めてなのだが、完全にKOされてしまった。
ワンフレーズが発せられた瞬間、鳥肌が全身に。
その凛とした歌声の美しさと力強さ。
会場全体が彼女の唄声に包まれていった
。頬に涙がつたったね。
大袈裟じゃなくて。
そしてライブは続く。
奥田民生はひょうひょうとしながらも誰の曲も自分の唄として消化しきっている。
矢野の「ラーメン食べたい」をギター一本で唄いきってしまう凄さ。
あれだけの個性的な曲を完全に自分のものとしてしまっていた。
曲の本質を読みとる深い洞察力と曲に対する深い愛情がなければできないことだ。
宮沢和史の体全部を使って唄う姿は音楽に対する真摯な態度そのものだ。
矢野顕子との「二人のハーモニー」も絶品だった。
靴を脱いではじけるように唄い踊る矢野と時にユーモアを交えて唄う宮沢のハーモニーは音楽の楽しさに満ち溢れていた。
音楽は心の底からのハッピーを時に与えてくれる。
この曲を聞いてる間、今、ここに生きていることを本当に嬉しいと思った。
今回のライブは歌い手の5人も素晴らしかったが、ミュージシャン達もまた素晴らしかった。
沼澤尚の表情豊かなドラム。
小原礼とのコンビネーションは揺るぎなく、どんな曲もずっしりと支える大きさがあった。
笹子重治のギターは特に大貫との曲で素晴らしい音世界を会場に築き上げた。
そして武川雅寛。
バイオリン、トランペットとこの人の存在なくしてはこのライブは語れないというぐらいだった。
で歌い手でもありプレイヤーとしても天才的だったのが矢野顕子。
ほぼ全編に渡りキーボードプレーヤーとして曲に参加していた彼女はやはり天才だった。
その音色、フレーズ。
矢野にしか出せない唯一無二の極上のプレイ。
彼女の存在そのものが音楽なのだ。
でそんな矢野の唯一のソロ曲は「さようなら」。
毎回会場ごとに曲は違うらしいがここでは谷川俊太郎作詞のこの曲が選ばれた。
実は昨年の彼女のコンサートでこの曲聴いて、感動のあまり涙ぼろぼろ状態になった。
2回目となる今回も、もう辛抱たまらず泣いちゃったよ・・。
で鈴木慶一との「ニットキャップマン」も良かった。
ムーンライダーズでしかありえないような、人生の悲哀を絶妙のユーモアで唄った曲。
矢野のふわふわと踊るようなコーラスが鈴木の味のあるボーカルに絡んで実にいい塩梅だ。

で今回のライブの目玉は糸井重里の詞に5人がそれぞれ曲をつけ唄う「Beautiful Beautiful Songs」。
ジャンケンで唄う順番を決めるというアットホームさ、そして唄う順番が決まってぴしっと走る緊張感。
最初は大貫妙子だった。
静かにアコースティックギターが響く。
そして唄われた「Beautiful Songs」はまさにBeutiful Beautiful Songsだった。
今回のライブみんないいんだけど、個人的にはもう大貫妙子にやられた。
これでさらにとどめさされたって感じ。
また泣いてたな、もう。
言葉の一つ一つが彼女の唄声によって胸の奧にメッセージを届ける。
何でもない言葉がメロディーにのって、歌声にのって、大切な何かに変わる。
これこそがマジックだ。
で鈴木慶一。
ピアノとバイオリンのシンプルなアレンジにメロディメーカー鈴木の味わい深くもキャッチーなメロディが映える。特にサビのメロの良さ。
いまだにしっかり記憶されている。
詞が与える、とてもやさしく、けれど決して媚びない、そんな雰囲気を大切にした曲だと感じた。
で奥田民生。
根っからのバンドマン・奥田らしいロックナンバーだ。
うなるエレキギター、これもBeautifulの一つの形だ。
矢野顕子の「Beautiful Songs」は意外にバンドでの演奏となっていた。
一見取っつきにくい感じを受けたけど、よくよく聴くとこの「Beautiful Beautiful Songs」の詞が、楽器一つ一つの音色、フレーズ、そしてそれぞれのアンサンブルの中で表現されているようだ。
やはり彼女は音楽そのものなのだ。
彼女の弾くピアノのフレーズに詞の全てが内包されている。
そして唄い終わった4人に囲まれるようにして宮沢の「Beautiful Songs」。
ギター一本で静かに弾き語られる。
体の奧からあふれでてくる音楽への想いが唇にのる。
彼の音楽に対する真摯な姿勢そのままのような誠実な「Beautiful Songs」だ。
5つの「Beautiful Beautiful Songs」は彼ら同様、個性的で、美しかった。
彼らは決して群ない、「個」として自分の足で立ち、音楽と向き合っている。
それは金の為ではなく、ただ音楽の為だ。

そして5人全員で鈴木慶一が30年も前に書いた名曲「塀の上で」が唄われる。
圧巻。
名曲は色あせることはない。このライブの主役は「唄」、美しい唄達なのだということを強く感じさせる。
そしてラストは奥田の「さすらい」を全員で。
「風の先の終わりを/見ていたらこうなった/雲の形を/まにうけてしまった」まさに彼らの姿だ。
「胸のすきまに/入り込まれてしまった/誰の為の/道しるべなんだった/それをもしも/無視したらどうなった」
あんまりいい詞なのでつい長く引用してしまったが、音楽に導かれた彼ら5人の生き方に感動した。
決して押し付けがましくはない。
彼らはただ彼らの音楽を、胸に入り込んだ素晴らしい音楽の魔法を無視していないだけなのだ。
だから彼らの音楽は「Beautiful Songs」になりうるのだ。
アンコールナンバーは「それだけでうれしい」。
この会場にいた全ての人たちの気持ちが、これだ。
ただそこに音楽が、Beautiful Songsがあるだけで。
「愛しています」という何でもないフレーズ。でもこれが真実なのだ。
僕らは「音楽」を、僕の「生」を、あなたの「生」を愛している。
それ以上のことなんかある?


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引き続きお楽しみ下さい。