ブリッジ曲がる??

これはギブソンのナッシュビル・チューン・オー・マチック、通称NTOMブリッジですが
長く使用しているとこの様に中央から曲がってきます
今回画像に撮れたのがたまたまNTOMだったのですがヴィンテージタイプのチューン・オー・マチック通称ABR-1ブリッジでも同じようになりますしギブソン以外のコピー物でもなります
これは特にテンションの強い弦を張ったからと云う訳でもなく普通に起きます
その大きな原因はブリッジの素材です
このタイプのブリッジは亜鉛ダイカストで出来ています
ダイカストとは日本語で鋳造と言い、型に溶かした合金を流し込んで製品を成型・製造する方法の事で車のホイールなどに良く使われる製造方法です
アルミダイカスト(又はアルミダイキャスト)という言葉は聞かれた事があると思いますがアルミ合金を素材に鋳造するのでアルミダイカスト、このブリッジの場合亜鉛合金を素材に鋳造するので亜鉛ダイカストとなるのです
で、亜鉛という素材は合金としては軟らかい為に長年弦のテンションを受ける事でこの様に曲がってしまうのです

ところでダイキャストと聞いて私と同世代のアラ50の方は「超合金マジンガーZ」と言う今で言うフィギアを思い出すんでは無いでしょうか?
とある少年は「超合金」と言う夢の素材で作られたそれが欲しくて欲しくて堪らなくそれを手に入れた時はもう天にも昇る気持ちでした
ちゃんと勉強するからと懇願してやっと買って貰ったにも係らず「超合金マジンガーZ」の事で頭の中がいっぱいの少年は片時もそれを手放したく無く勉強なんて身に入るはずもありません
そこで少年はウ○チをする振りをしてこっそりトイレで遊びだします
コイツには「ロケットパンチ」と言う無敵の武器があり腕のレバー(だったかな?)をポチっとすると肘から先がロケットとなって飛んでいくのです!
少年はトイレの中でそのロケットパンチに夢中でした
その時!パチンっと飛び放ったロケットパンチは壁に跳ね返りバウンドしてボットン便所の中へ…
少年は七転八倒して号泣し親に自分の仕出かした愚かな行為を陳謝し何とかかんとかロケットパンチを汚物の中から奪還してもらうのです
40年以上前のことですが「ダイキャスト」と聞くと今でも超合金マジンガーZの事を思い出します
後に少年はこの「超合金」は亜鉛と言う軟らかい金属製と知り、初めて「子供ダマシ」と言う言葉を噛み締めるのです…

んな話は置いておいて、なぜそんな軟らかい合金を素材に使うか?です
多くのギターファンは「なるほど!軟らかい合金を使う事で音をウォームにしているんだ!」と閃くでしょう
或いはこのコラムを全部読んだ事がある方は「こいつまたギターファンの夢を潰す気だな」と思うでしょう
後者の方、正解です
ダイカストとは合金素材を熱で溶かして型に流し込むのですが、亜鉛合金は比較的低い温度で溶け、尚且つ型の隅々まで流れ易いダイカストに適した素材なのです
型の隅々まで流れ易いと言う事はかなり複雑な形状の製品を製造する事が出来ますし作業が簡単になるのでコストを下げる事も出来ます
こうした事から特に大きな強度を必要としない様なパーツや装飾品の製造に亜鉛ダイカストは幅広く使われています
という事で亜鉛合金をブリッジ素材に採用したのは製造し易いからという事です
と理屈を並べたところで、ブリッジが曲がる事で何か問題が出るのか?
出ます。弦高のバランスが悪くなるんです

中央の凹みを計測します
上の画像にマウスポインターを当ててもらうと拡大画像になりますが約0.7ミリほどの凹みがあります
これはブリッジの両端からの凹み具合で1・6弦のサドル部分にも少し凹みがありますから1・6弦部分と3・4弦部分との実際の差は0.5ミリほどでしょうか
このタイプのブリッジはサドル自体は各弦共通の規格なのですがブリッジへの取り付け位置を指板のR(1弦から6弦にかけての湾曲)に合わせて変えています
上の画像で丸いポッチが6箇所見えますがこれはサドルの取り付けネジの端で良く見ると両端のポッチより中側のポッチのほうが上寄りに付いている事が分かると思います
こうやって指板のRに合わせてサドルを取り付け、弦高のバランスを取っているのですがブリッジが曲がってしまうとそのバランスが崩れてしまいます
1・6弦部分に対して3・4弦部分が0.5ミリほど凹んでいると書きましたがブリッジ部での0.5ミリは12フレット上ではその半分、0.2〜0.3ミリほどの弦高差が出てしまう事になります
普段高い弦高で弾いておられると0.2ミリくらいの差はほとんど感じないでしょうが低い弦高を好む方ですと0.2ミリの差はどうしても感じてしまいます
1・6弦に対して3・4弦が0.2ミリほど低くなってしまう訳ですから例えば1・6弦をビビリが出無いギリギリまで下げると3・4弦は明らかにビリが出ると言ったような事になります
今回例に上げた物はたまたまこの程度ですがもっと曲がってしまった物を見た事もあります
「じゃあこうなったらブリッジを交換するしかないの?」
いえ、直す事が出来ます  ただし…

この様に両端に板などを敷いて曲がった中央部分をソフトハンマーでノックするように軽く叩き少しずつ曲がりを修正していきます
亜鉛合金は軟らかいので思いっきり叩くと反対方向に「ぐにっ」と曲がってしいますからあくまでもノックするように

このように修正する事が出来ます
(サドルが5個しか見えませんが3弦のサドルは4弦のサドルの後ろにチラッと見えています)
叩く力加減さえ注意すれば素人さんでも真似できると思いますが下手にするとメッキにヒビが入ってしまうかも知れません
真似されるなら自己責任でお願いします
(後日追記:古いヤマハのギターでこの様に叩き修正しようとしてブリッジを真っ二つに折ってしまいました!様子見で叩いた1回で折れてしまったのでヤマハ製のブリッジは脆いようです。他にもこの様に脆いブリッジもあるかも知れませんのでギブソン・ゴトー以外のブリッジで叩き修正すると折れる可能性があります ご注意下さい!)

このタイプのブリッジはギブソンの指板Rの10インチR(254ミリR)を基準に作られていますがフェンダーのジャガー/ジャスマスターにこのタイプのブリッジを付けられる方が増えてきています
ところがフェンダーは指板Rが7.25インチR(184ミリR)とギブソンに対して湾曲が大きい(*)のでギブソンタイプのブリッジには本来合わず弦高のバランスが悪くなります
この場合、上の修理のようにしてブリッジ裏側から少しずつ叩き出してブリッジ本体を曲げて指板Rに合わせる事も出来ますが曲がった物を直すと云う今回の修理内容と違って本来真っ直ぐであるブリッジ表面を半ば無理やりに叩き曲げる事になりますのでメッキの割れや浮きが出る可能性が高くなります
決して安易には真似しないで下さい

(*):指板Rの数値は半径何インチの円の弧の事
小さい円(丸)よりも大きい円の方が円外周曲線がなだらかな様に、Rの数値が大きいほど指板Rは平面に近くなだらかになる
上に書いた代表的なギブソン・フェンダー以外に80年代頃からムーンやアイバニーズなど16インチR(400ミリR)の物が出始める これらはかなり指板が平面に近く弦高を低く設定してもチョーキング時の音詰まりが少ない為にテクニカルな演奏スタイルの奏者に好まれたがシェイクハンドスタイルの奏者には特にローポジションにおいてかえってグリップし難くなる為敬遠する人もいる
ジャクソンなどは両方の良い所取りということでコンパウンドラディアスと言う ナット側は12インチRでハイポジションに行くに従って徐々に平たくなり24フレット上では16インチRになるという指板Rを採用していた
当店ではフレット交換の際にコンパウンドラディアスでと指定して頂ければ特殊な場合で無い限りアップチャージ無しで加工させて頂きます
その際ナット位置で何R、エンド位置で何Rと指定して頂けます

 
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