ヘッド交換

ギブソン・ヒスコレレスポールのネック折れですがこのように真っ二つに折れてしまっています
このようになっていても折れた面が上手く合えば何の問題も無く簡単に接着できるのですが…

黄矢印で指した部分がささくれたようになって潰れてしまっており、キッチリ面が合いません
緑矢印の部分はかなりずれてしまっています
ソフトラバーのハンマーでヘッド先端から叩きこんでやると合うようになる事もありますが、このレスポールの場合はこれ以上はビクともしません
接着は木部同士の面がキッチリ合わないと接着強度が出ませんし、ヘッドは弦張力の多くを受け留める場所ですから接着強度が出ないと意味がありません
エポキシ接着剤のように充填接着が出来る接着剤ですとこのまま接着してしまってもある程度の強度は出せますが画像のようにイビツなまま接着してしまう事になりますから仕上がりはお粗末な事になります
仕上がりの強度を確保し綺麗な仕上がりするにはヘッド交換になってしまいます

ヘッド交換の仕方にもリペアショップそれぞれの手法がありますが当店ではアコースティックギターのネックジョイントに使われるダブジョイント工法をとって接合します


ちょっとショッキングな画像かもしれませんがこの様に組み面を作ります
本体ネック側をもっと残したかったのですが1枚目の画像で分かるように6弦側の折れ残り(?)部分が少なくここまで削り込む必要が出てしまいました
しかし、接合面はごらんの通り大きく取れましたので接着強度に心配はありません


ヘッドになる角材にメス型のダブジョイントを入れます
これにはオリジナルの冶具を使用するのですがオス型・メス型が全く隙間無く勘合するような冶具を製作するのは苦労しました
ダブジョイント工法はフォークギターのネックジョイント方法ではもっともオーソドックスな工法なのですが、勘合具合のいい加減な物が多くネックヒール部分に浮きが出て来た物を時々見かけます
しかし、十分な接着強度を得るには隙間など無くてはなりません!
隙間無く噛み合わせられれば接着しなくても嵌め合わせただけで…


この様にぶら下げても振ってもガタひとつ出ません!
もっともぶら下げて掛かる力は弦の張力とは逆さですのでこんな事しても意味無いと言う御意見も御座いますでしょうが、まぁそれくらいしっかり勘合できるってアピールですんで…(^_^;)


もちろんこの様にヘッド先端で持ち上げても接合部のガタや開きは出ません
この方向の力の掛かり方の方が弦張力の掛かり方に近いですね
嵌め合いの確かさをチェックしたら接着剤で接着です


接着剤が乾燥した後に余分な部分を削り落とし整形していきます
この段階で表面上の接合部が良く分かると思います


ヘッドをある程度整形したらヘッド表側に化粧板を貼り付け、最終的な整形を仕上げペグ穴を開けたら、オリジナルのヘッドからくり抜いたGibsonロゴを埋め込みます


グリップ側の塗装も剥がしてしまえば接合部はほぼ分からなくなります


表側はこんな感じ
ロゴは黒く染めたエポキシ接着剤で接着・隙間充填しますので周辺の木部が黒く染まっていますが、ヘッド表は黒く染めますので全然かまいません
そして仕上がりが…


このレスポールはシリアルナンバーがスタンプですので着色塗装後、オリジナルと同じ番号をスタンプしてからクリア塗装して仕上げています
ちなみにペグには元付いていた場所を示す番号を書いたマスキングテープを貼っています
ペグを外す必要がある作業の時はいつもしている事ですがペグのトルクには大体バラつきが有りオーナーの方がその感じに馴染んでいる場合、場所が変わると違和感を感じられる事がありますのでこうして同じ位置に戻すようにしています
では別角度と表の画像もご覧下さい


当店のヘッド交換工賃は10万円〜とかなり高価になりますので
出来れば避けたい作業ですが今回のように止む無くなる場合もあります
(折れ面が綺麗に合う状態なら2分割ネック折れ修理(33,000円)で済んだのですが…)
ちなみにギブソンでもレギュラーシリーズの機種ですとこの様に真っ二つに折れることは少なくなります
それはヘッド表の化粧板に積層ファイバーのような比較的厚めで丈夫な素材が使われている事がその要因の一つだと思います
化粧板が丈夫ですので大きな衝撃が加わっても化粧板は折れ曲がりはしても完全に折れずにヘッド表が持ち堪えて大きな被害が出難いのですが、ビンテージギブソンやそれを再現したヒスコレシリーズは化粧板に薄い木板を使用しておりますので大きな衝撃が加わるとこの様に真っ二つに折れてしまう事になります
レギュラーシリーズでも化粧板の無いタイプは真っ二つに折れる可能性が高くなります
また現行エピフォンなどは薄いアクリル樹脂のような割れやすい素材を化粧板として使用している為に真っ二つに折れる事がよく有りますし、グラスルーツの2wayトラスロッド(逆反りも修正出来るタイプのトラスロッド)採用機種などは構造上ナットの下辺りに大きな掘り加工がある為に
ヘッド根元(ナットの下辺り)から分断するように折れる事が多く、こうなるとほとんど修理不可能です
ヘッド交換までするパターンはあまり多くありませんがネック折れ自体は決して珍しい事ではありません
ここで何度も書いておりますがギターを不安定なところに立て掛けたりしない、スタンドに立てても人やペットが走り回るような所には決して置かないと言う事を日頃から心掛けて下さい
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