表紙イラスト:生頼範義(以下同じ)

 10月に入って、SFチェックリストは大きくメンバーを更新する。9月までだった伊藤昭の代わりに10月から白川星紀(黒丸尚)、これまで出版リストを担当していた星敬が参加。11月からは、さらに喜多哲士が加わっている。

 各人への作品割り当てなどは、従来どおり伊藤典夫指揮で行われた。

1986年10月から12月までの担当者:
伊藤典夫・鏡明・安田均・大野万紀・野村芳夫・岡本俊弥・福本直美・星敬・白川星紀・喜多哲士(11月から)

 83号収録のレビューは、1986年5月2日から7月25日までの23冊。

 今月の注目作は、栗本薫『魔界水滸伝』(第1部11巻完結)、カール・セーガン『コンタクト』、そして後にブームを引き起こすウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』である。ギブスンの同書は、当初ファンの間では批判的な声が高かった。むしろSF外での人気によってサイバーパンクの代表作として知られるようになる。

魔界水滸伝(第1部全11巻) 栗本薫 角川書店 岡本俊弥
コンタクト カール・セーガン 新潮社 大野万紀
ニューロマンサー ウィリアム・ギブスン 早川書房 安田均
ゴルゴダの呪いの教会 フランク・デ・フェリータ 角川書店 野村芳夫
悪魔なんかこわくない マンリー・ウェイド・ウェルマン 国書刊行会 福本直美
妖少女 谷恒生 祥伝社 星敬
カリブの天使(旅客飛行船3) 高斎正 徳間書店 鏡明
アンダーウッドの怪 デイヴィット・H・ケラー 国書刊行会 野村芳夫
SF映画の冒険 石上三登志 新潮社 野村芳夫
北の娘(アラン史略3) エリザベス・A・リン 早川書房 福本直美
ディアナ・ディア・ディアス 新井素子 徳間書店 福本直美
髑髏伝4 奔雷の巻 谷恒生 光文社 白川星紀
デリラと宇宙船野郎たち(未来史1) ロバート・A・ハインライン 早川書房 鏡明
死を告げる白馬 アルジャーナン・ブラックウッド 朝日ソノラマ 安田均
幻花伝 双神の門 紀和鏡 実業之日本社 白川星紀
ドーム 夏樹静子 角川書店 鏡明
惑乱の公子 タニス・リー 早川書房 鏡明
ショートショートの広場’86 星新一 講談社 安田均
虚空の眼 フィリップ・K・ディック サンリオ 野村芳夫
地底ドドンパ男 ラヴ・ペア番外編 岬兄悟 早川書房 福本直美
銀河乞食軍団8 野田昌宏 早川書房 大野万紀
飛騨のヤマトタケル(大和武尊SF神話6) 豊田有恒 祥伝社 大野万紀
天上編 宇宙皇子2 藤川桂介 角川書店 星敬


 

 84号収録のレビューは、1986年6月15日から9月25日までの30冊。

 今月の注目作は、R・A・ラファティ『悪魔は死んだ』、ジェイムズ・ティプトリーJr初の翻訳単行本『老いたる霊長類の星への賛歌』。名のみ高かったティプトリーは、この時点まで訳書がないままという状況だった。なお、翌1987年の自殺により、また大きな話題を呼んでいる。

悪魔は死んだ R・A・ラファティ サンリオ 大野万紀
老いたる霊長類の星への賛歌 ジェイムズ・ティプトリー・Jr サンリオ 岡本俊弥
銀河傭兵部隊(銀河辺境外伝2) A・バートラム・チャンドラー 早川書房 鏡明
邪星記 曼荼羅の砦 紀和鏡 徳間書店 鏡明
月世界への旅 M・H・ニコルスン 国書刊行会 鏡明
ショート・ショート劇場3 小説推理編集部編 双葉社 喜多哲士
黒の召喚者 ブライアン・ラムレイ 国書刊行会 野村芳夫
イルーニュの巨人 C・A・スミス 東京創元社 福本直美
巨根伝説 半村良 祥伝社 安田均
ニセコ要塞1986@ 荒巻義雄 中央公論社 喜多哲士
妖界天女 草川隆 有楽出版社 喜多哲士
エスパーファイル 志津三郎 中央公論社 星敬
魔王伝1(魔界都市ブルース) 菊地秀行 祥伝社 喜多哲士
銀河残侠伝(昇り龍2) 横田順彌 勁文社 野村芳夫
ヴァンパイヤー戦争5 笠井潔 角川書店 星敬
ニチャベッタ姫物語 西丸震哉 中央公論社 白川星紀
砂上楼閣の男(ケン&ボスク1) 冬杜絵巳子 集英社 星敬
ヴァレンティーナ J・ディレーニイ&M・スティーグラー 新潮社 岡本俊弥
SFマガジン・セレクション1985 早川書房編集部 早川書房 白川星紀
プラクティス・エフェクト デイヴィッド・ブリン 早川書房 大野万紀
疾れ風、吼えろ嵐 水城雄 徳間書店 安田均
地球の緑の丘(未来史2) ロバート・A・ハインライン 早川書房 福本直美
宇宙港物語 川又千秋 双葉社 野村芳夫
聖獣都市 友成純一 廣済堂出版 白川星紀
変化の風 アイザック・アシモフ 東京創元社 安田均
貪食細胞 井谷昌喜 光風社出版 安田均
悪魔としてのP・K・ディック P・K・ディック他 サンリオ 福本直美
金色もミルクと白色い時計 大原まり子 角川書店 大野万紀
プリズム 神林長平 早川書房 福本直美
玄武城の呪い 竹河聖 光風社出版 岡本俊弥


 

 85号収録のレビューは1986年7月25日から8月31日までの33冊。

 今月は菊地秀行特集(『妖魔異伝』、『魔王軍団』、『淫魔宴』、『エイリアン邪海伝』、『妖獣都市3』)。
 


菊池秀行特集 野村芳夫
魔宮戦場1 竹島将 角川書店 白川星紀
魔の生命体 ヴァン・サール選 朝日ソノラマ 星敬
猫柳ヨウレの冒険2 光瀬龍 徳間書店 安田均
2020年ホログラフ元年 西谷史 日本ソフトバンク 喜多哲士
洪水のあと P・C・ヤシルド 岩波書店 白川星紀
暗黒星雲突破!(銀河辺境外伝3) A・バートラム・チャンドラー 早川書房 星敬
ミステリーゾーン2 ロッド・サーリング 文藝春秋 喜多哲士
地球少年ジュン 五島勉 祥伝社 白川星紀
ライオンルース ジェイムズ・H・シュミッツ 青心社 岡本俊弥
零戦の秘密(タイムパトロール極秘ファイル2) 豊田有恒 角川書店 福本直美
メガロポリス特捜隊(現代編1) 田中光二 角川書店 鏡明
アマノン国往還記 倉橋由美子 新潮社 岡本俊弥
死せる銀河 畑山博 毎日新聞社 鏡明
魔術師 山田正紀 徳間書店 岡本俊弥
星界小品集 パウル・シューアバルト 工作舎 大野万紀
深夜勤務 スティーヴン・キング サンケイ出版 鏡明
アナンシ号の降下 L・ニーヴン&S・バーンズ 東京創元社 大野万紀
ナイトワールド デイヴィッド・ビショフ 東京創元社 福本直美
イースターワインに到着 R・A・ラファティ サンリオ 安田均
物体X 山田正紀 早川書房 安田均
ふるさと遠く ウォルター・テヴィス 早川書房 福本直美
ヘリック最後の冒険(ヘリック4) 田中光二 光文社 大野万紀
宇宙探査機 迷惑一番 神林長平 光文社 鏡明
作家の肖像 中島梓+栗本薫 講談社 星敬
日本SF年鑑1986年版 日本SF年鑑編集委員会 新時代社 岡本俊弥
異境の聖戦士(ランドルフィ物語5) 清水義範 朝日ソノラマ 喜多哲士
王都炎上 アルスラーン戦記1 田中芳樹 角川書店 白川星紀
叛逆王ユニカ 井沢元彦 角川書店 星敬


 1986年全般については、1987年の4月号に総括記事が書かれている。執筆者は、国内が 鏡明、翻訳が大野万紀。全評者による推薦作は下記の通り(アドベンチャーのベストは発行年月日1月〜12月で区分けを行うため、概ねその年の2月に出る4月号から翌年1月に出る3月号までが選考範囲となる)。

岡本による総括(同誌掲載分)

 一昨年のブリンに続いて、去年はギブスンが登場した。今年は、ギブスンの短篇集をはじめ、ベアなども紹介されるという。話題と期待を集めた同時代作家群も、ようやく“見えて”きたわけである。さて、その本命であった『ニューロマンサー』なのだが、予想通り、さまざまな反応を呼ぶ結果となった。詳細は、メインの評価でなされるだろうから、触れないが、はてさて話題を超越するほどの出来であったのかは、ちょっと態度保留としたい。短篇集も出ることだし。

 話題性といえば、ラファティ、ティプトリー、ワトスン、ディッシュ(『キャンプ・コンセントレーション』)らの、名のみ高かった作品が出版された。もう一世代、二世代も前の作家たちだけれど、生き残るものは、やはり (作品の質で) 強者ということか。重さを感じさせる作品。

 一方、我国の情況は、今一つ重量感に欠けるように思える。一人、かんべむさしの重い作品が目立ってしまった。重い作品ばかりである必要性はないが、全体に比べてのバランスの問題である。新人のデビューも、特に新書分野で多かったものの、道具として使う以上に、SFを昇華できた作品はなかったように思う。ベスト以外では、『ぬばたまの』を思い出させる、眉村卓『夕焼けの回転木馬』 が印象に残っている。

 その他に、SFを考える本として 『SFとは何か』、『SFキー・パースン&キー・ブック』、『SF大辞典』、『月世界への旅』、『最新版SFガイドマップ(作家名鑑編)』、また、最後の年鑑とされる 『日本SF年鑑1986年版』、『奇想天外、SF宝石インデックス』なども出た。これだけ出版された年は珍しい。今後、重版の機会も少ないだろうから、興味のある方は揃えておいたほうがいいだろう。

1986-87年のSFアドベンチャー収録書評リスト(Excel版)