衛星 ゴセンゾ
ある夜、猫風の夢の中で猫嫁はこう告げた。
自分の中にもう一人の完全な私がいるのだと。
猫風は孤独感とジェラシーの中でまどろみ、苦悶しているうちに夢から醒めた。
傍らには猫嫁がスヤスヤと寝息を立てている。
彼女の寝顔を見つめているうちに、自分達の因果がどのようなものであれ、何としても自分の脇で眠っている正真正銘の彼女に次の世界でも会いたいという想いがこみ上げてきた。
と、同時にある不安が襲った。
そもそも、また猫嫁と同じ時代に自分は生まれ変わることができるのだろうか?
何か今こうして彼女と一緒にいられること、
いや、同じ時代に生を受けていること自体が奇跡の確率なのではないのだろうか?
その考えに達した時、なんとかして自分の分身でもいいから彼女を抱きしめることは不可能なのだろうかと切に願わずにはいられなかった。
そこでハッっと気づいた。
次の世界の彼女にとっての「完全な私」は彼女と同じ時代を生きることのできない自分自身であるのかもしれないのだ。
そこまで考えが至ると、もう「完全な私」へのジェラシーはほとんどなくなっていて、
敬意と感謝に満ち満ちて、なにか、遠い昔の縁ある人、つまり何かご先祖さまのように思えてきた。
自分を守り、可能性を受け継ぎ、引き渡す鍵となり得る存在。
その杞憂が取り越し苦労であったとしても、何番目であろうと、たとえ赤の他人だったとしても、
あるいは生まれ変わりなんてなかったとしても、
猫風はどうしたって、いまここにいる猫嫁と未来を夢見たいのだ。
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