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工員と少女

―大正時代―

農機具の部品を作る工場で働き始めて三年目の石原は、今年小学校を卒業したばかりの城田という新人工員の面倒を看ることになった。
週末、石原は街の片隅にある小さな演芸場に立ち寄った。
そこでは役者の卵たちによる劇が行われていた。
石原は詩織という名の少女の演技に心を奪われていた。
石原は詩織が登場する劇を観るため、週末になると必ず演芸場へ足を運ぶようになった。
ある日、工場で城田が機械に指を挟まれるという事故が起こった。
城田は右手の指を二本失った。
石原は劇で詩織の姿を見なくなった。
劇団員に話を訊くと、詩織は手に大ケガをして役者を辞めたという。
石原は城田が詩織に似ていることに気付いたが、そのことを確かめる前に城田は工場を辞めてしまった。

終