短編集へ戻る

ブラック・ボクサー

アメリカ 1946年

アラバマ州のとあるスラム街で生まれ育った黒人のモーリスはひ弱な少年だった。
一方で、モーリスはボクシング観戦が好きで、ボクサーになることを夢見ていた。
その頃、モーリスは街の不良グループのリーダーである白人少年のローガンにいじめられていた。
モーリスをいじめる時、ローガンはいつも「黒人のくせに」と言った。
ある日、モーリスはボクシングに詳しいドミニクという黒人少年に出会い意気投合した。
モーリスがローガンにいじめられていることを知ったドミニクは「ローガンに勝てるよう俺の親父にトレーニングしてもらえよ」とモーリスに言った。
ドミニクの父親は軍人だった。
モーリスは毎日ドミニクの父親とボクシングのトレーニングをするようになった。
数か月後、モーリスはローガンに勝負を挑み、徹底的に叩きのめした。
それ以来、モーリスをいじめる者は誰もいなくなった。

モーリスとドミニクはアマチュアのボクサーになっていた。
地区大会の予選を突破した二人は、決勝戦で会おうと約束した。
大会が始まり、モーリスとドミニクは順調に勝ち進んでいた。
しかし、ドミニクは準決勝でブラッドリーという白人選手に肘打ちをされ、片目を負傷してしまう。
明らかな反則技だったが、レフリーは試合を中止せず、結果はブラッドリーの判定勝ちに終わった。
翌日のモーリスとブラッドリーの決勝戦はモーリスの圧倒的な優勢にも関わらず、ブラッドリーが判定勝ちした。
モーリスはレフリーに抗議したが、レフリーは聞く耳を持たなかった。
すると、ブラッドリーが「お前が負けたのは黒人だからだよ」とモーリスに言った。
モーリスはドミニクの復帰を待ち望んだが、ドミニクは片目の視力を失ってしまった。

プロに転身したモーリスは連戦連勝を重ね、ボクサー人生のピークを迎えていた。
ドミニクは現役を引退し、モーリスのセコンドに着いていた。
次の対戦相手はかつてアマチュア時代にドミニクの片目の視力を奪ったブラッドリーだった。
試合は初めブラッドリーの優勢だった。
モーリスをコーナーに追い詰めたブラッドリーは「お前のセコンドの目を潰した時は最高だったぜ」とモーリスに言った。
その言葉を聞いたモーリスは怒りを爆発させた。
反撃に出たモーリスは試合終了のゴングが鳴っても、ブラッドリーを殴り続けた。
モーリスはレフリーの制止を振り切ると、意識を失っているブラッドリーを何度も無理やり引きずり起こして殴った。
観客は言葉を失っていた。
モーリスが我に返ると、血の海となったリングの上でブラッドリーが息絶えていた。
モーリスはボクシング界を追放され、消息を絶った。

数年後、ドミニクは何気なく新聞を見ていてある記事に驚いた。
それはカツアゲされている少年を助けようとして、一人の男が不良に拳銃で撃ち殺されたという記事だった。
そして、その男の名はモーリスだったのである。

完

グローブ