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ピエロ

とある遊園地の片隅でピエロの大きな声が響いていた。
「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。このガラガラくじを引いて金の玉が出ればなんと世界一周旅行が当たるよ!」
ピエロの前のテーブルには、福引に使われる木製のガラガラくじが置かれていた。
そこに一人の若者がやって来た。
「一回引かせてもらうよ」
若者はピエロに硬貨を渡すと、ガラガラくじに付いているハンドルを回した。
穴から出てきたのは白い玉だった。
ピエロは言った。
「残念!ハズレだ」
若者は帰って行った。
しばらくして、ピエロが店じまいをしようとしたとき、先程の若者が再びやって来た。
ピエロは若者に言った。
「今日はもうおしまいだよ」
すると、若者は札束をテーブルの上に置いて言った。
「この金がなくなるまで引かせてくれ」
ピエロは驚いたが、やがてにんまりと笑顔を浮かべて言った。
「好きなだけどうぞ」
若者はハンドルを回した。
出てきたのは白い玉だった。
「くそ!」
若者はもう一度、ハンドルを回した。
またしても白い玉だった。
「ちくしょう!」
若者は何度も何度もハンドルを回した。
しかし、出てくるのはいつも白い玉だった。
とうとう、若者の金もあと一回分となった。
ピエロは嬉しそうに言った。
「あと一回だ」
最後の一回、若者はこれまで以上にハンドルを勢いよく回した。
出てきたのは白い玉だった。
ピエロは言った。
「はい、おしまい」
すると、若者は言った。
「どうせ、もとから金の玉なんて入っていないんだろ!」
怒った若者はガラガラくじを地面に叩きつけた。
「やめろ!」
ピエロは叫んだが、ガラガラくじは壊れてしまった。
よく見ると、割れたガラガラくじの中に金の玉が一個だけ残っていた。
ピエロが怒って言った。
「ちゃんと金の玉は入っているだろ!営業妨害だ!とっとと帰れ!」
若者はしょんぼりして帰って行った。
店じまいをしたピエロは、札束を数えながら嬉しそうに言った。
「ふふふ、儲かった、儲かった。金の玉だけが白い玉より少し大きくて絶対に穴から出ないとも知らずに……」

終